第22話 ゆるキャラのようになってしまいました。

 秋も深まり風が冷たくなってきた。

 まだ何とかなるが、朝夕の冷え込みは少し辛い。

 クマ騒動から一か月……毛皮の服が待ち遠しいものである。

 

 そんな風に待ちに待っていると爺さん村長がやってきた。

 後ろには荷車が二台。

 そこにはなめされたと思われるクマの毛皮が載せられていた。

 

 まさか、上下一台づつか?


「巨神様、先日依頼を受けたギガントベアの毛皮で作った服ができあがりました。

 お納めいたします」

 頭を下げる一同。


 思ったより早い。


「早かったですね、大きさからして数か月かかると巨神様が心配していましたが……」

 グレアが尋ねると、

「巫女様。

 皆でお金を出し合い、乾燥に魔法使いを使ったのでその分時間を縮めることができました。

 これも巨神様が水を分けてくれたおかげです。

 他の部分にも十分に手をかけましたから着心地はよろしいかと思います。

 今年の豊作とギガントベア退治のお礼としてお納めください」


 助かった。寒くなる前に温かい服が手に入るのは嬉しい。


「巨神も喜んでおるのじゃ!

 ありがたく受け取るぞ」

 うんうんと頷きながらグレアが言う。

「喜んでいただいて幸いです」

 ハハーッという感じで爺さん村長が頭を下げた。

「巨神にとって良きことをするのであれば、巨神は村を守ります。

 励みなさい」

 グレアが言うと、

「畏まりました。

 今後も村のことをよろしくお願いします」

 と爺さん村長が言った後、

「それではこれにて失礼します」

 そそくさと爺さん村長は連れてきた男たちを連れ去っていった。


 怖がられているなぁ……。


  なめされた皮の横に立つと、

「ご主人様、服です。待望の服です」

 喜びひとしおなグレア。

「おう、服だな。待ちに待った服だ。

 これで温かい冬を迎えられ、常時横チ〇から解放される」

 テンションが上がる俺。

「さっさと着てみい!

 見てみたいのじゃ!」

 急かすノワル。

 俺は置いてあったクマの毛皮のズボンを履いた……。

 

 ウエストサイズが合っていない。

 

「着ぐるみ?」

 ウエストは絞られておらず、サスペンダーのような物で釣る感じ。

 さらにクマの着ぐるみそのものの上を着てみると……。

 

 ん……〇マモン?


「「ぷっ」」

 グレアとノワルが吹き出し顔をそむけた。

「えっ何々?」

 クマが「ガー」っと開けた口の部分から俺の顔が覗く。

「はっきり言おう。

 クマじゃ、クマにしか見えん」

 笑いをこらえ肩を震わせながらノワルが言った。

 黒い毛並みのクマになっていたようだ。 


 そりゃ、熊の毛皮だから熊だろうけどよ……。


「でも、可愛いですよ? 

 ご主人様のクマは……」

 グレアがくすくすと笑いながらフォローしてくれるが、そのフォローが心に刺さる。


「可愛いというならクマ〇ンになっていたのかな?」

 苦笑いをする俺。

「ク〇モンとは何です?」

「クマモ〇とは何じゃ?」

 まあ、二人は知らないよな。

「ゆるキャラと言うみんなに好かれる魔物の事だ」

「魔物?

 人に好かれるというのはご主人様のような魔物ですか?」

「いいや、可愛い魔物だ。

 魔物と言うのはやはり恐ろしいが、それをあえて丸く可愛くして好かれるように寄せている者のことをゆるキャラと言う」


「今のアリヨシはずんぐりむっくりで可愛いのじゃ」

 ウンウンと頷くノワル。

「可愛い魔物だから、巨人な俺は関係ないしギガントベアは関係ないと思うぞ?」

「いいえ、今のご主人様は可愛いです」

 グレアも頷いた。


 堂々巡りか……ちょっと面倒だ。


「わかった、俺は可愛い。

 どうか可愛がってくれよ」

 俺がそう言うと、

「可愛いのです」

「可愛いのじゃ」

 グレアとノワルはフェンリルとブラックドラゴンに戻って俺に飛びつき、フカフカの毛皮に顔を擦り付けてきた。

 ゆるキャラ大人気。


 ありゃ?

 

 二匹とも俺の胸に顔を埋める。そして動かない。

 そして上目遣い。

「甘えたいとか?」

「はい、いつも甘えたいです」

 素直なグレア。

「わっわれはどうしてもと言うなら甘えるが?」

 素直じゃないノワル。

「甘えればいいと思うけど?

 とりあえずお前らぐらいは許容できそうだからね。

 嫌ならいいが……」

「いっいや、そういう訳ではないぞ?

 甘えたいと思う」

 ノワルは顔を背け恥ずかしそうに言う。

「なら、そう言えば良いんじゃない?

『甘えたい?』と聞いているんだから『甘えたい!』と言えばおしまいだ」

「じゃが、我はブラックドラゴンじゃ、そんなに甘える訳にはいかんのじゃ」

 と顔をそむけた。


 いろいろ面倒そうだねぇ……ノワルさん。


「なぜ?」

 俺が聞くと、

「頂点に立つものが甘えるなど」

 プライド高いね。

「いや、でもな、ここの頂点は俺?

 だから甘えればいい。本来なら俺が小っちゃくなって人化したノワルに甘えさせてやりたいんだけど、俺は小さくなれないからなぁ。

 申し訳ない」

 俺は頭を掻いた。

「それは良いのじゃ、ここに居れば楽しいし、アリヨシと話するとな……色々変になる」

 素直じゃないノワルに、

「私はいつでも甘えます」

 自分に素直なグレア。

「そうだな、グレアはいつも甘えてくる」

 俺は頷いた。

「嫌ですか?」

 首を傾げて聞いてくるグレア。

「いいや、お前らぐらいは何とかするさ、一応俺の手下みたいなもんみたいだしね」

 俺はグレアを見ながら言う。

「じゃったら甘えるぞ?」

 そう言って俺の肩にノワルは頭を置いてくる。グレアは足に纏わりつく。

 それぞれの頭を撫でていると、動きが鈍くなり静かになった。

「寝たか……」

 フウとため息。

「お前らが居るから助かるよ。

 居なければ一人でどうなったことかと思う。

 ありがとさん」

 ク〇モンな俺はグレアとノワルを撫でながらひとりごちるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る