第56話 焼肉をしました。

 火がついた七輪にワイバーンの脂身をのせると、「ジュッ」と音がする。

「もうそろそろ、肉を焼いても大丈夫。

 さあ、席に座ってみんなで楽しんで!」

「アリヨシ様は?」

 ウルが聞く。

「俺は食べなくてもいいから大丈夫。

 そんな設定なんだ」

「それでは、あまりに不憫な」

 ドリスが言うが、

「この体だろ?

 みんなが食べるのを見て楽しむよ」

 と言うと申し訳なさそうな顔。


 しかし、俺とドリス街で待ての状態の二人は、ジュルリと涎。

 今日はそれが楽しみなんだから仕方ない。

「グレアとノワルは人化して食べること、わかった?」

 と言うと、

「ご主人様、了解です」

「わかったのじゃ」

 そういうと、席についた。


 油が焼ける香ばしい匂いが漂う。

「これ美味しいです。ワイバーンの舌がこんなに美味しいなんて」

 ベアトリスがワイバーンの舌の味に驚いていた。

 一応、俺の知識の中にあったもの。

 とりあえず……というところで、出してみたんだが、美味かったのなら良かった。

「この肉も柔らかい。筋を切ってある」

 ドリスが驚いている。

 筋を切ったのはウルである。

 硬い肉でもそうしておけば美味しい……と言っていた。


「肉汁たっぷりなのじゃ」

「このスープも美味しいです」

 ガツガツと食べ続けるノワルとグレア。

 まあ二人は生でも問題ないんだが……。


「パンに挟んでもいいし塩を軽く振りかけてもいい。

 そこの葉っぱに巻いても美味しいかもね。

 あと、ベアトリス提供のワインもあるからね。

 せっかくだからワインを冷やしておきました。

 俺は注げないから自由に飲んで」

 ちょっとした地雷を踏んでいるような気がするが、ワインは魔法で冷やしておいた。

 それぞれの食べ方で食べる五人。

 グレアとノワルはガツガツ、ウルはちびちび。ドリスとベアトリスはパクパク。


 ワインが入り女性陣が騒がしくなる。

「最近、ご主人様がドリスさんとベアトリスさんを相手して、私を相手してくれません」

「我もじゃぞ、あの二人に取られておる」

 グレアとノワルの愚痴に、

「でも、あなたたちはアリヨシ様と一緒に寝られるでしょ?」

「いいわよね、人化してなかったら撫でてくれるんでしょ?」

 ドリスとベアトリスが言うと、

「ご主人様の撫では最高なんです」

「そうじゃ、あれはいいのう」

 グレアとノワルが目を細めた。


「私なんて、失禁したの見られたんだから」

「えっ、私も……」

 共通性を見いだし、みつめあうドリスとベアトリス。

「アリヨシ様は私を肩に乗せてくれる。

 優しい目で見てくれる。

 今日は一緒に料理しました。

 だから満足」

 何か勝った感があるウル。

 こういうとき、男は下手に関わらない方がいいと思う俺。

 我関せずである。


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「グレアさんとノワルさん、ウルさん、ドリスさんは今後どうするつもりですか?」

 私は聞いてみる。

「ベアトリス様、そんな事を聞いてどうするのです?」

 グレアさんが聞いてきた。

「私はあの人の妻になりたいと思っています。

 そのための物を探しました。

 ですから、皆の考えを聞きたいのです」

「そうですね……」

 そう言うと、グレアさんは、

「私はあの方の傍に居られればいいのです。

 あの人に命を助けられて今に至ります。

 あの人とずっと楽しいこと、悲しいこと、辛いことを一緒に経験できればいいと思います。

 しかし、できるなら……。

 あの人の妻のような立場になり、子を成すことができれば嬉しいですね。

 私は大きくもなれますし……獣姦という言葉もありますから」


 じっ獣姦なんて……。


 私はその言葉を聞いて思わず赤くなってしまいました。

 すると、

「そうじゃのう。

 われはアリヨシと居ると楽しいでな、今後はこの地でずっと暮らすじゃろうな。

 欲を言えば、アリヨシとの子を成したい。

 あの魔力があれば、ドラゴンと子を成すことも可能であろう」

 と、ノワルさんも言います。

「私だって、あの人と一緒にずっと暮らしたい。

 あの人は私に記憶が戻っていることを知っているのに、『居たいなら居てもいい』って言ってくれました。

 そして、できるなら、私も……」

 ウルさんは頬を染める。

「ドリスさんはどうなの?」

 私がドリスさんに聞くと、

「わっ、私は……。

 先に三人が言ったように、できるなら妻になりたい。

 巨人でもいい。

 寿命が違い私のほうが先に老いて死ぬとしてもずっと一緒に居られればと思う」

 ポーっと上を見て想像しながら言っていた。


「皆さんはアリヨシ様と一緒に居たい訳ですね」

 グレアさん、ノワルさん、ウルさんが大きく頷く。

「では、皆さんでアリヨシ様を盛り立てて行きましょう!」

 私は皆さんと乾杯をするのでした。


 でも……、その後の記憶が無いのです。


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 何となく失礼な気がするので、パスを繋がず女性陣の話をスルーして外を見ていた俺。

 しかし、俺に魔の時間が訪れる。

 三杯目のワインでベアトリスの目が据わっている。

 グレアとノワルは相当な量の肉を食べ、はじめてのワインで酔ったのかあくびをし始めると、早々にホールの奥に行って人化を解き寝始めた。

 これで、ドリスとベアトリスのお泊まり確定である。

 それを見たドリスが、

「お先に眠らせてもらいます」

 とホールの奥に行き。

 なんとなく危険を感じたのか、ウルも同じくホールの奥へ行き、毛布にくるまって寝始めた。

 ベアトリスと二人っきり。

 ウルよ、去り際に「がんばっ」じゃないと思う。

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