第15話 神に祭り上げられました。
困った……。
儂は枯れかけている溜め池の前に居た。
儂はこのアーネコス村の村長をしておる。
代官が置かれないような小さな村で徴税を取り仕切っておるのだ
いつも通りの収穫なら村人からの徴税は問題ない。
しかし、今年のような日照りでは村の水源である溜め池はすぐに枯れてしまう。
早急に代わりの水源が必要なのだがどうすればいいのだ……。
「村長、どうしたのです?」
村の世話役の1人が声をかけてきた。
「これを見ればわかるであろう?
このままではこの溜め池は枯れてしまう」
「そうですな。
このままでは秋に徴税官が来た時、税を引き下げてもらうように頼むしかありません」
「うむ……。
しかし、それが通じなければ、女子供を売らなければならなくなる……」
儂が言うと世話役たちの顔が歪んだ。
徴税官から伯爵様への報告で税が下げられればいいが、そうならない場合は人買いに女子供を売らなければならなくなる。
恨めしそうな目が儂に刺さる……。
それは避けたい。
「村長! そういえば、巨人のところには水が湧いているとゴモルが言っていました。
なんだかわからない玉から常に水が滔々と流れているそうです。
それを分けてもらえばいいのではないでしょうか?」
そう……困ったと言えば最近この村の近くに巨人が住むようになった。
大きな銀狼を従え、黒龍までやってくる始末。
村人は襲われることを恐れて震えて暮らしていたが、いつになっても襲ってはこなかった。
最近は森に魔物が現れなくなり、木の切り出しが楽になったと巨人が居ることを喜ぶ者も居る。
もしかしたら、巨人は我々を襲うつもりはないのか?
ならば、頼めば水を分けてくれるかもしれん。
言葉が通じることが前提になるが……。
儂は歳を経て皺が増えた手を見る。
孫もでき、いい人生を送っていると思う。
あの時以外は……。
「皆の者、巨人の住処に行こうぞ。
このままでは家族を人買いに売り渡さねばならなくなる。
思い出してみろ、二十三年前の干ばつを。
家族を売り渡してもなお、飢える者が居た。
水さえあればいいのだ。
水を分けてくれるように頼みに行こうぞ!」
昔を思い出したのか、世話役たちは頷いた。
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俺が培養槽から出たのが春頃だったようで、グレアに出会いノワルがやってきた後、雨多き梅雨のような季節もあったので今は夏? らしい……。
ぐんぐんと気温が上がり日差しがきつくなっている。
周りの木々も青々と葉を茂らせていたが最近は雨が降らず元気がない様子。
まあ、俺んちには湧水の玉が有るので問題はない。
俺とグレアとノワルで温泉に入っていると、俺のレーダーに光点が数個映る。
そしてそのまま俺たちの方へ近寄ってきた。男四人と爺さん一人だ。
「なんぞ来たぞ?
そう言ってノワルが交渉に行ってくれた。
温泉を出たノワルが小っちゃくなる。
そして、黒のゴスロリ服を着た美少女になった。
「ん? お前誰?」
俺は美少女に声をかける。
「わからんか?
ノワルじゃ。
美少女は巨人の俺に向かって恐れもせず文句を言ってくる。
今更だが人化の術ってあったんだねぇ。
爺さんとノワルが話を始めた。
拝んでいるので巫女か何かと勘違いされているのかな?
話が終わったのかノワルが俺に近づいてきた。
「アリヨシが神でグレアが神獣と言っておったぞ」
ほう、勘違いも甚だしい。
「お前は巫女?」
と言うと、
「そうじゃ、巫女らしい」
ノワルが頷く。
予想通り。
「まあ、神とかと思われていた方が、人が近寄らぬから良いのじゃ」
話を続けるノワル。
「そうかもしれんね。で、何て?」
「アリヨシよ、最近雨が降らんであろう?」
「そうだなぁ、木々も元気が無い」
「ここだけ水があるじゃろ?」
「湧水の玉があるからな」
「あの者たちの村が水不足に陥っているらしい」
ああ、水源が枯れたのか。
「で、どうしろと?」
「水を分けて欲しいと言う事じゃ」
「いいよ? どうせ垂れ流しだ。
何なら水路も作ろうか?
温泉の排水とも混ざった奴じゃ、作物が枯れちゃう可能性もあるからね」
「わかったちょっと聞いてこよう」
巫女っぽく堂々とした様子で、と言うかいつも堂々としたノワルが村人たちと話を始めた。
男たちと爺さんが土下座をしている。
あっ、俺が動くの確定ね。
戻ってきたノワルに、
「『どうぞよろしくお願い致します』って言ってたか?」
「ようわかったのう。『どうぞお願い奉りまする』と言うておった」
丁寧すぎる……。
「わかった、一応村の場所が知りたいな。
グレア、ノワルを乗せてもらえるか?
巫女設定のままのほうが何かと交渉がしやすいだろう。
後、ノワルはあいつらに言って案内してもらってくれ」
ノワルが交渉している間にグレアと俺は体を拭いて下着を着る。
さすがに出したままじゃ問題が有るだろう。
まあ俺が恥ずかしいのもある。
「連れて行ってくれるそうじゃ。
ここから歩いて二時間程度らしい」
歩いて二時間なら八キロぐらい先か。
俺の行動範囲なら見つけてそうな気もするが、気付いてなかっただけかな?
人の速さに合わせ村まで向う。
大体下りで一直線に水路を引いても問題なさそうだ。
そうこう考えていると、本当に二時間かかって遠目に村が見えてきた。
俺が歩いたら十分か十五分で着きそうだ。
俺の手のひらにでも乗せりゃよかったかも……なんて思ってしまう。
よく見れば田畑が広がるが、そこにある作物は枯れかけてこうべを垂れていた。村人がノワルに話しかけしきりに頭を下げている。
「アリヨシよ、あの田畑までのまでの水路が欲しいらしいぞ?
元々使っていた水路が有るらしいからそこに繋いでもらいたいって話じゃ」
「そうだなこの辺に池を作って一度溜めるようにしようか?
いや、時間が無いからまずは水路だけだな。
大体の形も思い浮かんだから、明日中に作るって言っておいて」
「わかったのじゃ」
ノワルは手を上げると村人たちに説明に行った。
ノワルに村人たちが跪き拝まれている。
「ありがとうございます。これも巫女様のお陰です」ってところかな?
ノワルが戻ってくると、
「しきりに感謝しておったぞ。
何か捧げものをしなければとかも言っておった」
「『捧げものは要らん』と今度言っておいてくれると助かる。
それじゃ帰り道でチャチャっと水路を作るかな?
グレア、またジャンプしてくれよな」
「はいです!」
グレアは目標になるためにホールの方へ走っていった。
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