第99話 チーズ

 さて、残りはチーズ。

 チーズの原料として思い浮かぶのがレンネット。

 母乳の消化のために数種の哺乳動物の胃で作られる酵素の混合物のことで、チーズの製造に用いられる。凝乳酵素。

 ヤギや牛の子供の胃から採取できる訳で……。


 俺がやろうとしていることをノワルに話したあと、

「そういう酵素は牛の子を殺した胃から採取できるらしいんだ」

 と俺が言うと、

 グレアとノワルが俺を連れて牧場へ……。

「アリヨシ様がチーズというものを作りたいと言っています。

 そのためには、子牛の胃が必要だということです。

 あなたたちの中で、ここに居るアリヨシのために、我が子を差し出そうというものは居ませんか?」

 グレアが言うと、牛たちに動揺が走る。

 見ていたランニングバードも怯えていた。


 えっ……えっ……。

 そりゃノワルやグレアはこの牧場の頂点であり、生殺与奪の権利を持っているかもしれないけどよ……。


「決められないのであれば、われが決めるがいいのか?」

 続いてノワルが言った瞬間、 牛たち……特に子牛を持つ母牛の目が死んだ。


 俺は生贄を求めているわけじゃないんだ。

 しかし、グレアとノワルはそう解釈したのだろう。

 んー、こりゃいかんね……。

 何とか考えないと……。


「ノワル、子牛を殺すのはそれ以外に方法が無いときにしよう」

 というと、

「それでいいのであれば、われは構わんが……」

 と言葉を濁した。

「役に立ってくれようとしたんだろ?

 ありがとな」

 と二人を撫でると、機嫌が戻る。


 確か、カビからできるレンネットがあったはず。

 子牛を殺さなくても何とかなるかもしれない。


 俺はホールに戻ると再びウルを探した。

 精霊と話ができるウルに聞くべきことがあるからだ。

 クルツと話をしているところを見つけると、

「たびたびで悪いんだが、木の精霊に牛乳を固めるようなものを生成できないか? って聞いてみてくれないか?

 これも人が食べるものだから、毒性のないものがいいんだが……」

 と聞いてみた。

 しばらくぶつぶつと話をしているウル。

「あるそうです。

 毒性のないものも!」

「そうか!

 助かる!」


 そこからは自己満足の世界。

 手っ取り早くモッツァレラチーズ作り。

 レンネットは木の精霊に頼んで手に魔力を通せばチョロチョロと出てきた。

 実際に混ぜて作ってみると、ちゃんと牛乳は凝固してカードとホエーに分かれた。

 カードだけを取り除いて発酵後、カードを練り練り。

 一塊にして出来上がりである……。


 チーズを作っている間に、うちの住人達が集まってきた。

 ウルに一口。

「あっ……美味しい。

 サラダとかに合わせてもいいですね」

 我が家の調理担当であるウルが頷いていた。

 グレアとノワル、ベアトリスも近寄ってくる。

 言葉には出さないが、「食べさせろ」ということなんだろう。

「おぉ……濃厚じゃのう」

「はい、食べやすいです」

 グレアとノワルが言った後、

「これはお酒のお供に……」

 とベアトリスが言う。

 それを聞いたウル、ノワル、グレアが引き気味に見ていた。


 俺は周りにいたエルフやドワーフにもチーズを差し出す。

「作り方によっていろいろな味が楽しめるんだ。

 俺もすべてを覚えているわけじゃないが、このチーズは長期保存ができない。

 チーズの中には長期保存ができるものもあるから、これも産物になるかもしれない。

 それこそ、お酒のお供にね」

 俺が言うと、

「これは売れます!」

 ベアトリスが食いついてきた。

「確かに、これなら酒の当てになる」

 ドワーフも言う。

「生産量がハッキリしないし、日持ちするチーズはまだ作っていないから、しばらくは作ってみてここの食卓のみで出す感じで……。

 作り方そのものは簡単なんで、ヤケドに注意して余った牛乳で作ってもらえると嬉しいかな」

 と言ってなだめると、

「畏まりました。

 チーズというものの作り方を教えていただければ、我々エルフが作り出して見せましょう!」

 クルツがドンと胸を叩いていた。


 とりあえずモッツァレラチーズとチェダーチーズ、ラクレットチーズかな?

 作り方を知っているのがその辺だからだ。

 チーズを良く知っているわけじゃないし、発展形としてピザを作るならこの辺でいいかな……という程度である。

 ホールの食事レベル上昇中である。

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