第115話 理由を教わりました。
「どうした?ミカルさん」
「私どもの村が帝国の目に留まった理由を報告しておこうかと思いまして」
ミカルさんが言ってきた。
「ほう、なぜ?」
「ある日、急に壁ができました。私たちが通ってきた壁です。
その壁に脅威を感じた帝国は『砦を作ることにした』と言って我々の村に来ました。
新しい砦を作るには労働力が要ります。
元々帝国の中央から逃れ、村を作ってつつましく暮らしていた我々に目が留まったのでしょう。
帝国内で獣人は嫌われる存在です。
ですから、使い捨てのように扱われました。
元々少ない食料も『出せ』と言われ、親が食べる分を減らし子供に与える始末でした」
憎らしげに言うミカルさん。
「すまんね。あの壁を作ったのは俺だ。そのせいで迷惑をかけた」
俺はミカルさんに頭を下げた。
「いいえ、我々もあのまま暮らしていても先は無かったでしょう。
年に一度の税の取り立ては酷いものでした。
女衆が言っていた布も税を納めるために考えた物です。
それでも納められなければ子供が奴隷として買われる始末」
「それで、あの村に子供が少なかったのか」
「アリーダも、もしかしたら今年には……」
ミカルさんが言うと、
「私の子はもう……」
と言って目頭を抑える女性。
「酷いですね」
ベアトリスが言った。人間がそんなことを言うのが珍しいのか、
「ベアトリス様は獣人が嫌いではないのですか?」
と女性が聞いてきた。
「よく考えてみてください、私は巨人を夫にしようとしているんですよ?
それに私の周りには仲のいい他種族や魔物が居ます」
女性はベアトリスの周りに居る者たちに気付いたようだ。
それを見てベアトリスが、
「ね、嫌いになれるはずがありません」
とにっこり笑う。
女性とミカルさんから離れ、俺とベアトリスはホールの周りを見て回る。
今までになかった子供のはしゃぐ声が聞こえるようになっていた。
「俺はいい為政者になれるのかなあ?」
税として子を奴隷として徴収する帝国の話を聞いて思っていた。
「優良な財源を作り、民への負担も軽い。
そして強力な兵も持っている。今のところはいい為政者じゃないでしょうか?」
にこにこしながら話していたベアトリスの顔が曇り、
「ですが……もう少し私も構って欲しいですね。
いくら婚約していないとはいえ、放っておかれるのはちょっと……」
と俺を見上げ、ベアトリスは拗ねるように言う。
そこは「ごめんなさい」である
それからしばらくしてルンデル商会の第二便が俺んちに届いた。
今回の売り上げも金貨四千枚以上あり、ベアトリス的には十分な収入らしい。
そのうちの一部を食料として納入してもらい、皆に振り分けていた。
そして働いた者には給料を出す。
まだ、ルンデル商会の支店はできていないが、住人たちは商隊が持ってきた商品を見ながら買い物を楽しむ姿があったが、
「あの子が居たら喜ぶのに……」
という売られていった子供のことを思う者の声も所々で、聞こえるのだった。。
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