第62話 ベアトリスを連れて帰りました。
さて次が難題。
しかし、気軽そうな二人。
ベアトリスのお父上様。
「ベアトリス、お父さんの名前は?」
「ステファンと言います。ステファン・クルームが父の名です」
「ステファン・クルームねぇ。
この格好で大丈夫?」
俺は熊の着ぐるみを着たアルバイトのような格好である。
とても伯爵の前に出ていいような格好ではないような気がするのだが。
「アリヨシ様、大丈夫です」
ベアトリスが「大丈夫」という意味がわからない。
「アリヨシよあそこじゃ、あれが館じゃ。
ベアトリス、庭に降りるので良いのかの?」
「そうしてもらえますか?」
結構デカい街の中にひと際大きな建物。
芝生の庭に噴水。豪邸だね。
そこにノワルの巨体がホバリングしながらゆっくり降下する。
館の窓にはガラスが入っていた。
多分ガラスって高いだろうに……すげえなこの屋敷。
「ブラックドラゴンとともにお嬢様が戻られた。
ステファン様に報告を!」
なんて声が聞こえてくる。
多分俺って悪者だよね?
館内に居る警備兵に取り囲まれた俺とノワル。
そして、ワクワクしているベアトリス。
暫く待機していると、
悪人の登場の音楽が聞こえそうな雰囲気で、二メートルほどのがっちりとした体格の四十前ぐらいの男が登場した。
多分、ベアトリスのオヤジさんなんだろうね。
腕なんてソコソコの丸太ぐらいあるんじゃないかな?
えっ、ベアトリスって養子?
この親の遺伝子がベアトリスにあるとは思えないな。
母ちゃんが美人なのかね?
オヤジさんを見ながらそんな事を思っていると、
「お前は誰だ?
ドラゴンを従える男など聞いたことが無い」
怒りジワつくって俺に聞いてくるオッサン。
「誰だって言われても……俺はドラゴンを従えた魔物だよ。
今回は、ベアトリスがお泊りしてしまった原因を作ったのが俺だから謝りに来た」
「謝る割には態度がデカいじゃないか?」
「俺は魔物だから、礼儀を知らないんだ。
ただ、ベアトリスが俺の家に泊まったことで、あんたがベアトリスの事を心配していたのはわかる。
だから、謝りに来た。
すまなかった」
俺は深々と頭を下げた。
「魔物にしては潔いな」
苦笑いのオッサン。
「俺も謝るぐらいはできる」
俺はオッサンの目を見る。
「魔物には見えないな」
「間違いなく魔物なんだがな」
「魔物に育てられたのか?
だったら、お前の礼儀知らずもうなずける。
謝る者の態度ではないが、謝ったのはわかった。
ただ簡単に許すことはできん。
ベアトリスは我が娘、儂が認めた者としか付き合えんのだ」
魔物はどうでもいいらしい。
流された。
「付き合うとしたら、どうしたらいい?」
「我がクルーム家は王国の剣となって戦ってきた。
それ故に武を重んじる。
私と戦うのだ。
この剣でな」
俺の目の前にサーベルが投げられた。
体が小さな状態で人の剣を使うのは初めてだが、まあ、何とかなるかな?
「わかったよ、どこで?」
「あそこだ」
青々とした芝生の中一帯だけ赤茶けた土になっている場所をオヤジさんは指差す。バスケットコートぐらいだろうか?
そこへ行き、オヤジさんと正対した。
「一つ聞いていい? 何でもあり?」
「ああ、何でもありだ」
「お父様おやめください! 勝てません」
ベアトリスが縋りつく。
「私は、お前が付き合う男の壁にならねばならぬのだ。
それが父としての務め、そこで待っておれ!」
その言葉を聞いたベアトリスの口角が上がるのが見えるのだった。
あっ、あいつ悪い。
オヤジさんが俺の壁になれないのを知っている。
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