第55話 準備していたら二人がやってきました。

 朝というには少し遅い時間、

「グレア、悪いんだけどドリスを迎えに行ってもらえないか?

 私はご主人様に頼まれて、

「はいですぅ!」

 と返事をした私はドリスさんを迎えに行きます。


 アーネコス村の傍をフェンリルの姿で走る姿を見て、村人が指をさして驚いていました。

 とはいえ、私とノワルさんがフェンリルとブラックドラゴンであることは周知されているため、

「巫女様が巨人様の用事で出かけているのじゃろう」

 と村人は納得しているということです。


 街道沿いに全力で走れば、そんなに時間もかからずにドリスさんのところに。

 村の前に座って待つと、ドリス様が野菜を入れた籠を持って現れました。


 いつもと少し違う格好。

 でもなんだかご主人様が気に入りそうな気に入らない格好。

 匂いも……メスの匂い。

 多分私も……。

 ご主人様の周りにいるメスはみんな盛ったにおいがする。

 でもご主人様はそれに気づいていない。

 いろんなことを知っているのに、こういうところは鈍感。


 ドリスさんを見ながら思っていると、

「グレア殿、今日はよろしくお願いする」

 ドリスさんが頭を下げてきた。

「私もドリスさんとお肉を食べられるのは楽しみです」

 と言うと、

「アリヨシ殿は野菜が欲しいと言っておったな。

 とはいえ、野菜などアリヨシ殿は食べるのか?」

 と聞いてくる。

「わからないですぅ。

 でも、ご主人様が言うことです。

 何か理由があるのでしょう」

 と私が言うと、

「そうですね。

 それはあの方のところに行けばわかること」

 というので、私は頷く。

「それでは行きましょうか。

 グレア殿、伏せてもらえますか?

 ドリスさんが言うので、私は伏せる。

 すると、首のあたりにまたがる。

「はい、グレアさんの毛も持ったので、早速お願いします!」

 ドリスさんの声が聞こえると、私は立ち上がり、ご主人様の下に戻るのでした。


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 次の日の朝になり、焼き肉の準備を始める。

 とはいえ、少し朝には遅い時間。

 グレアはドリスを、ノワルはベアトリスを迎えに行った。

 

 伯爵の領都にドラゴンが現れたら結構混乱しそうだがどうなるのかな?

 まあ、ベアトリスが何とかしそうだから任せるか……。

 

 まあ、俺はウルと肉の準備だね。

「俺が肉をブロックにするから、ウルはそれを適当な大きさで。

 あまり大きいのはお嬢様方の口に合わないかもしれないから小さめで……。

 一口大ぐらいがいいかもしれないな」

「わかりました。

 焼いたら少し小さくなるので、それを考えて切り分けますね」

 ウルが頷いた。


 ワイバーンの肉質は鳥っぽい部分と牛っぽい部分があり結構色々楽しめそうだった。

 グラスレックスリーダーの肉は完全に鳥かな……。


 ワイバーンのタンも切り分けたので皮をそぎ薄くスライスしてもらう。

 尻尾の一部は石で寸胴を作り、肉を取った骨で出汁を取りテールスープにする。

 

 一応味見。

 味付けは塩しかないんだけどいい出汁が出ている。

 ウルに灰汁取りを頼み、弱火でコトコト煮込んだ。

 ちょっとしたお椀にスープを取ってもらって味を確認。


 女性陣ってどのくらい食べるんだろ……。

 余ったらグレアとノワルが食べるから大丈夫か。

 

 地の精霊と苦心して作った七輪。

 鉄網は無いので、石を薄くスライスして油抜きの穴を開けた石網だ。

 七輪を五つ円卓にセット、それぞれの種類の肉を盛った皿を七輪の横に置いておく。

 

 加熱することで割れなきゃいいが……。

 後はお嬢様方が何を持ってくるか……。


 ちなみに石製品が割れないか心配だったが、地の精霊製は問題なかった。

 精霊さまさまである。

 あとはグレアとノワル待ち。


 しばらくすると、グレアが戻ってくる。

「ご主人様、ただいま帰りました」

 ドリスを下ろし人化したグレアが現れる。

「アリヨシ様、この度はお呼びいただきありがとうございます」

 ドリスも来た。

 ドリスの雰囲気が違う。


 おっと村娘風。

 スカートを履いている。

 騎士姿ばかりだから新鮮。

 こういうのもいいね。


 俺の視線に気づいたドリスが、

「たまには女の子らしい姿をしてみようかと……」

 とモジモジ。

「ドリス、スカートが似合ってるぞ」

 俺がそう言うと、ドリスは真っ赤になっていた。

「これが野菜です。

 従者が焼いても美味しい……準備したものを持ってきました。

 あと、多くはないのですが、パンも準備してあります」

 そう言ってドリスは新鮮そうな野菜とちょっと硬そうなパンが入った籠を出す。


 イモとキャベツ?

 キャベツなら肉を巻いて食べられそうだ。

 ウルに、

「野菜を適当に切って、皿に盛っておいて」

 と言うと、

「はい!」

 ウルは手早く野菜を切り始めた。

「私も手伝います」

 ドリスもウルの隣に立って野菜の処理を始める。


 そんな様子を見て、俺は七輪に火を入れる。

 ちなみに火の精霊に依頼するだけである。

 炭を使わない代わりに俺の魔力を使うわけだが、この程度なら自然回復の方が多いので魔力が減ることもない。

 火の準備をしている間に、ベアトリスがノワルに乗って現れた。



 ん?

 両手で樽一つ?

 結構デカい。


「何だそれ」

「ベアトリスがワインを持っていくと言うて煩くてのう。

 仕方ないので、言われるがままじゃ」

 ベアトリスが滑り降りてくる。

 ベアトリスに酒はいい反応はないような気がする。

 とはいえ、押し切られた俺にも問題がある。


「アリヨシ様、お呼びいただきありがとうございます。

 ドリス殿は無難なものを持ってきているでしょうから。

 私はお話の通りワインにしました」

 とニコリ。


 こいつ飲む気満々じゃないか。

 ノワルも人化して俺の方へ来る。


「ベアトリスの屋敷では大変だったのじゃぞ!

 連れ去ると思われて、兵士までが出て来る始末じゃ。

 オヤジ殿も出てきて負った。

 しかし、焼き肉のほうが重要じゃ。

 庭から酒ダルを持ってベアトリスを乗せて飛んだのじゃ」

「あれ絶対、人さらいと間違えてますよ。

 帰ったらどうしましょ……」

 ベアトリスの顔は困ったものではなくニコニコと楽そうな顔。

 あとのことは気にしていないらしい。

 

 やれやれ、俺が何とかしろって?

 どっちにしろ、一度ベアトリスの家には行かんといかんね。

 

 そんなことを思いながら、ベアトリスを見る俺だった。

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