第9話 温泉を引こう。

  家の前に温泉を引く気満々の俺は色々考える。


 温泉を引くのは良いがさてどうするか……。

 せめて湯船の深さは七メートルは欲しい、横になって全身が満遍なく浸かる程度。

 長さは自分の身長より長い程度だよな、十八メートルぐらいか。

 源泉かけ流しだから排水をどうすればいいか。

 もうちょっとこの近辺を調べないといけないだろう。


「グレア、池の周りを調べよう。

 この温泉がどういうところに流れ込んでいるか確認したいんだ」

「確認してどうするのです?」

 俺に聞いてくるグレア。

「川に流れ込んでいるなら、湯船から同じ川に流すようにするつもり。

 温泉って草木に有害なものもあるから出来るだけ垂れ流ししないようにしないといけないんだ」


 まあ、水路を作るだけでも森林破壊だろうな。

 気にしたほうがいいのかしないほうがいいのか……。

 俺は気になったんだから気にすることにする。


「私にはわかりませんが、ご主人様がそう言うのならお手伝いします」

 というグレアに、

「ありがとさん」

 と言って俺はグレアの頭を撫でた。


 池の周りを確認すると、数本の温泉の小川が池に流れ込み、池からはちょっとした川が流れ出ていた。

「この下流がどこにつながっているのか確認しないとな……」

 と、針葉樹を避けながら池から出た川を下るとその先は十メートル程度の滝になっていた。

 池から滝の手前で一キロメートルぐらいの距離。


 その滝を一跨ぎに降りて下流に行くと大きな川が流れていた。

 俺から見て大きいのだから、川幅は百メートルと言わないぐらいにあるだろうう。

「これなら温泉も希釈されるだろう」

 元々の湯量が変わるわけではない。

 周囲の環境に付いては問題ないと判断した。


 俺達は一度ホールへ帰り、尻尾フリフリ待ちの体勢のグレアを見る。

 そして、

「グレアさん!」

 声をかけた。

「はいです!」

 いい返事。

「『おうちに温泉を引こう計画』を発動します」

「はいです!」

 お座りしながら「はいです!」のところでピシっと姿勢を正して答えるグレア。


 うむ、可愛い……。


「まずは湯船を作ります」

 俺が言うと、

「どのようにしますか?」

 グレアは俺を見上げて聞いてくる。

「湯船を作るとは言ったが、前にまずは風呂場だな」

 既に魔法は俺の頭に浮かんでいた。

 穴を掘る魔法。

「メイピ」

 そう唱えると家の前に俺がイメージしていた広さ三十六メートル×三十六メートルで一メートル程度低くなる。

 更にもう一度

「メイピ」

 で俺がイメージしていた湯船の形の穴ができた。

「これに入るのですか?」

「そそ、これが湯船。

 これに温泉を張って中に入れるようにする」

 次は排水路だね。

「ディト」

 大体百メートル程度を一度に作成していった。

 グレアが目標地点でジャンプしてくれる。俺はグレアに向かって用水路を作っていく。

「川につながったです!」

 グレアは目標になるために何度も飛び跳ね、帰りにはいそいで走って戻ってきたせいか、ハッハッハッハッ……って感じで舌を出している。

「ありがとう」

 俺が撫でると

「ご主人様の撫では最高です」

 グレアは目を瞑って気持ちよさそうに言った。

「普通なんだけどなぁ」

「私は撫でられたことが無かったですから余計に気持ちいいのかもしれませんね」

「まあ、気持ちいいなら良しだな」

「はいです!」

 ウンウンとグレアが頷いていた。


「続きまして、温泉の池と繋ぎます」

「はいです!」

「また目標になってくれる?」

「はいです!」

 そう言ってあらかじめ予定していた場所にグレアは向かった。

 そして飛び跳ねるグレアが見える。

「ディト」

 俺はそれに向かって再び魔法を唱えた。

 何度か唱えているうちに、目的の池まで到達する。

「ご主人様これが最後です。

 ここで唱えたら繋がってしまいます」

 打合せ通り、繋がる手前でグレアが教えてくれた。

 俺は、走竜の肩甲骨を池と塹壕が通る位置に置く。塹壕ができた瞬間温泉が流れるのを防ぐためだ。

「ディト」

 最後の魔法を使うとうまく池と繋がった。


「さて、後は『メイス』を唱えて、水路と風呂場、湯船を石にしないとな」

「それで温泉というものに入れるのですか?」

「いいや、温泉を風呂に張らないと意味が無い。

 湯が溜まるまでにどのくらいかかるか分からないけど、まあ溜まれば入れるさ。

 最悪冷たかったら魔法で温めるから大丈夫」

「はい、期待しておきます」

 俺は、水路と排水路を百メートル程度ごと、風呂場と湯船は一回で「メイス」を使って石化させた。

 結構魔力を使ったと思うのだが、全然気にならない。

 

 どんだけ魔力持ってんだろ、俺?


 後は、走竜の肩甲骨を外せば水路に温泉が流れ始め湯船に温泉が溜まるはず……。

「よっしゃぁ、コレで出来上がり。

 湯を流すぞぉ」

「はいです!」

 池の傍の走竜の肩甲骨を外すと「しゃー」っという結構な流速音とともに温泉が流れ出した。

「凄いです。湯がおうちに流れていきます」

 流れ出した温泉を見てグレアが喜ぶ。

 結構な湯量である。

 まあ、後は溜まるのを待つだけって事で……。


「さあ、あとは木を切って橋を作っておくか。でないと渡れない動物とかが出てくるかもしれない」

 水路百メートルごとに丸木を三本ほど置いた橋を作り、水路のせいで生き物が動けなくなるのを防止した。

 まあ、どっちにしろ環境破壊なんだけどね。


「さあ帰って寝よう。

 明日の朝に期待だな」

「はいです!

 温泉楽しみです」


 全てが終わった時にはすでに薄暗くなっていたので、寝ることにした。

 俺が上を向いてホールの天井を見ながら寝ようとしていると、グレアは俺の腹の上に乗ってきて胸の辺りに頭を乗せる。

「心臓の音が気持ちいいです。

 おやすみなさい」

 そう言うとすぐ「くーくー」と寝始めた。


 お前夜行性じゃないの?

 これじゃ俺は寝られないじゃないか。

 

 結局グレアに腕枕をして、抱くように寝るのだった。

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