第52話 準備をしませんと……。

 パスで連絡があったアリヨシ様とお食事。

 ワイバーンのお肉なんて楽しみ。

 めったに食べられないものだから。


 そうね、約束したワインを準備しないと……。

 

 早速私担当のメイドを呼んだ。

 やって来たこのメイドは私付きのメイドで、私が小さなころからついてくれていた初老のメイド。

 ちょっとした我儘ぐらいなら、何とかしてくれる。


「ベアトリスお嬢様、何でしょうか?」

 と聞かれ、

「明日の朝、下男に指示して、庭にワインを一樽準備しておいてくださいな」

 私が言うと、

「ワインを一樽?

 そんな量をどうするのですか!」

 メイドが言った。

「お客様が来るので、その人に差し上げるのです」


 実際はアリヨシ様のところに行って皆様と一緒に飲むんですけどね。


 私はニヤリと笑う。

 すると、メイドが少し考えて。

 しかし、

「ワインを一樽差し上げる……のですね。

 それなら問題ありません

 かしこまりました」

 メイドが頷いた。

 少し含みがあるように思い。

「ワインがどうかしましたか?」

 と聞くと、

「ベアトリスお嬢様。

 お嬢様は異性の前でお酒をお飲みになるのはやめたほうがよろしいかと……」

 メイドは顔を顰める。

 私は不思議に思って、

「何かあるのですか?

 ワインを二杯飲んだところまでは覚えているのですが、いつも記憶が無いのです」

 と聞いてみると、

「お嬢様がお飲みになると、旦那様に甘えられるのです。

 それはもう、盛大に。

 もしお嬢様に好きな殿方がおられるのであれば、その方に甘えてしまうかもしれません」

 と言って私を見る。


「私は酔うと甘えるのですか……。

 覚えていないのでわかりませんね。

 嫌な甘え方でしょうか?

 迷惑をかけていませんか?」

 私は不安になってメイドを見ると、

「それは……旦那様は喜んでおられますから……」

 メイドは私を安心させるようニコっと笑った。

 笑顔が若干引きつっていたような気もしたけれど、私の勘違いでしょう。


「それでは、ワイン件はお願いしますね」

 と言うと、

「畏まりました、お嬢様。

 明日の朝、夜が明けるころには準備しておきます」

 とメイドは頷いた。

 そして、

「他に御用は?」

 と聞いてくる。


「特にないわ、ありがとう」

 私が言うと、

「それではルンデル商会に繋ぎを取ります」

 と言ってメイドは出て行くのだった。


 丁度いいわ、アリヨシ様に約束したものが手に入ったし、

 これを渡せば……。

 私は机の上に置いてあったスプーン見た。

 私は、お風呂に向かい、大きな湯船に入ってアリヨシ様のことを考えます。


 もしかしたら……。

 キャッ……。

 あっ……なんてはしたないことを。


 思わす顔を両手で隠してしまいます。


 でも、アリヨシ様のことを考えてしまう私。 でも、いつ全てを見られてもいいように玉の肌を磨いておかないと……。


 磨いているうちに、のぼせそうになるぐらい長湯をしてしまいました。


 部屋に戻ってクローゼットへ。

 ドレスを取ろうとしてやめます。

 

 あそこはドレスで行くところではありませんね。

 動きやすい乗馬で使うものを着ましょう。

 でも、あれを着た時アリヨシ様の前で……粗相を……。


 私はそれを忘れるように顔を振ると、

「もう、決めたんですから。

 逃がさないんですからね」

 窓の外を見ながら呟くのだった。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る