第34話 ワイバーンが出ました
「暇だなぁ……」
空を見上げると雲がゆっくりと流れている。
耕された畑が一面に広がっていた。
「田舎だねえ……。
でも住人の笑顔は多い。
良い領地経営をしているのかもな」
そんな様子を思っていると、レーダーに赤い光点がどんどん近づく。
その方向をよく見れば蝙蝠のような翼を広げたトカゲ。
「ワイバーンが出たぞー!」
「早く逃げろ!」
「キャー」
住人たちも魔物が目に入ると、我先にと逃げ始めた。
あの大きさの魔物……人間に取っちゃ恐怖でしかないだろうな。
俺は近くにあった石くれを掴むとワイバーンらしいものに向かって投げる。
トルネード?
ちょっと古いか……。
いや、ほーしーひゅうま!
もっと古いか……。
巨人設定の俺だが投擲の能力は高いらしく、石が翼の根元に当たりワイバーンが墜落する。
おっと撃墜できたねぇ。
翼の骨でも折れたのか地面でバタバタしているワイバーンに近づき首を踏み折ると、
「ぐえ」
と変な声を出しワイバーンは動かなくなった。
倒せたみたいだな。
ワイバーンを担ぐと、元居た場所まで引き摺り、そして、片膝をついて待機の姿勢。
暫くすると、村人たちが集まってきた。
「あれ、ドリス様の従魔の巨人だろ?」
そうそう、そういう設定。
「ワイバーンが一撃だったぞ!」
「そう言えば、どこぞの貴族の息子もあの巨人とその巫女が追い払ったんだよな」
「あの巨人が居ればこの村も安泰だ」
なんか喜んでる。
領主が巨人をコントロールして自分たちを守ってくれていれば安心するのかもしれない。
するとドリス達四人がワイワイ言いながら戻ってきた。
ウルは布の袋を持っている。
ああ、服ももらえたかな?
着替えができて良かったな、ウル。
そして、俺の前にあるワイバーンの亡骸を見てドリスとウルは固まった。
「アリヨシ……さま。これは……」
ドリスが聞いてきたので、
「村にワイバーンが現れたので退治した」
と答えると、ノワルがワイバーンを見て、
「さすがじゃの、アリヨシ。
おー、ワイバーンか。
この肉は美味しいのじゃ。
焼いて食おうぞ」
興奮して言う。
「ノワルは食い気が多いな」
俺が言うと、
「美味いものは美味いのじゃ」
プンと少し機嫌が悪くなるノワル。
「私は食べたことがないので……。
でもノワル様がそんなに言うなら、さぞ美味しいのでしょうね」
グレアが涎を垂らす。
ノワルは空を飛べないからワイバーンは食べたことが無いか……。
というか美人台無し……。
「アリヨシ、ワイバーンの素材は高く売れます。
解体して肉だけにすればいいのでは?」
ドリスが提案してきた。
「そうだな、解体するか」
石畳がある広場へとワイバーンを移動させると、俺はナイフを取り出しワイバーンの解体にかかる。
傷つけないように皮を剥いだ。
続々と俺を中心に村の住人達が集まる。
そして俺の解体をじっと見ていた。
なんか、マグロの解体ショーをしている気分。
娯楽なんかも少ないのかもしれない。
そんな解体を見て、
「アリヨシは器用なのですね」
ドリスが感心していた。
村人の前での言葉遣いはドリスが主人で俺が従魔。
ということなので呼び捨てされる。
「私にはわかりませんが体が覚えています。
皮の剥ぎ方、関節の処理の仕方、使える部分……。
ただ、皮の鞣(なめ)しはできません」
と答えておいた。
結局知識の通りに解体が終わる。
「ドリス様、ノワルはあんなこと言っていましたが、ワイバーンの肉は美味いのですか?」
と聞くと、
「ええ、王侯貴族が祝いの時に食べるものになる。
ワイバーンなど人では簡単に狩れないからな」
と言って頷くドリス。
「では肉はどうしましょう? 村人たちにも食べてもらいましょうか?」
俺はワイバーンの足を持ち上げる。
「えっ、いいのですか?」
驚いたのかドリスの言葉が変わる。
俺が、
「言葉遣い、言葉遣い!」
と言うと、
「あっ……。
肉を貰っていいのか?」
と聞きなおしてくる。
「問題ありません。
それを持ってウルの服の代金にしてもらえれば……。
それに、そのほうが私のような巨人が村人に受け入れられるかと……」
口角を上げる俺に。
「それは間違いないな。
ワイバーンの肉など村人たちにとっては一生に一度食べられるか食べられないかわからないものだからな」
頷くドリス。
「肉の腐敗の防止はどうすれば?」
俺が聞くと、
「アリヨシ、魔力が少ない魔物ならまだしも、ワイバーンのような魔力が多い魔物は腐敗が遅い。
肉は長持ちする。
それなりの間は問題ないだろう。
ちなみにドラゴンになると腐敗することは無いと言われている。
それでも腐敗防止するなら塩で漬けるっててもあるがな」
そうドリスが説明をしてくれた。
塩で腐敗の防止処置をするは前の世界と変わらないか……。
「だったら問題ないですね。
これはこの村で食べてもらえれば……」
ドンとワイバーンの足を広場の中央に置いた。
「助かる」
ドリスが言うと、
「やった!
ワイバーンの肉だ!」
「俺、初めてだよ」
「俺だって!」
そこかしこで村人の喜ぶ声が聞こえる。
「皆の者、このワイバーンの肉は巨人からの贈り物だ。
ありがたく受け取り、倉庫に運んでくれ」
と言ドリスが声をかけると、
「ワイバーンの肉なんて、俺初めてだ!」
「巨人のお陰で食べられる」
喜びの声をあげて村人が数人で肉を担いで持って行った。
村人が居なくなると、
「後の肉は持って帰って食うぞ」
俺は言った。
「やた!」
「やったのじゃ」
「肉は初めてです」
三人も喜ぶ。
言葉を戻し、
「ドリスも来るなら五人で食べようかと思うが……」
と聞くと、
「私も行ってもいいのですか?」
ドリスが言葉を戻して俺を見上げる。
「食べるときは呼んでやるから」
「はい!」
本当に嬉しそうにする。
声をかけた俺もちょっとうれしい。
「ご主人様、これを見てください」
グレアが冒険者カードを見せる。
うわっ、ちっちゃ。
何々?
名前は「グレア」、種族「獣人」、職業「フェンリル」……。
つか、職業「フェンリル」って何? そのままじゃん。
「我はこんな感じじゃの」
名前は「ノワル」、種族「龍人」、職業「ブラックドラゴン」……。
グレアがあれだからノワルはまあ、そうなるよな。
「アリヨシ様、私はこれです」
名前は「ウル」、種族「エルフ」、職業「精霊魔法使い」……。
「精霊魔法使いかぁ、カッコいいな」
「カッコいいですか? やった!」
「でも精霊魔法か……。火、水、地、風の四つの精霊が居るんだったっけ?
その精霊たちに事象の変更を依頼するんだよな?
で、その対価が魔力って事で良かったよな?」
ラノベベースの記憶の中から精霊魔法を思い出す。
インストールされた知識としてもそれに合っている。
「アリヨシ様よく知ってますね」
ドリスが驚いていた。
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