第60話 寝坊助たちを起しました。

 夜が明け、前日に作っておいた食事を温める。

 パンとスープだけだが体が温まればまた違うかな? 

 グレアとノワルは昨日使った円卓を拭いていた。

「ありがとな」

 そう言って二人の頭を撫でた。

 円卓に温まったパンとスープを並べると、ウル、ドリス、ベアトリスを起こしに行った。

「おはようさん」

 俺はウルをゆすって起こす。

「なっ、誰です?」

 寝起き良いな。

「んー、俺」

 パスを通し声をかける。

「アリヨシ様……なぜ……」

 パスを切る。

「後で説明するよ。

 軽い朝食ができてるから円卓のところで食べてきて」

 ウルは立ち上がると俺に抱きついてきた。

「やっと抱き着けます。

 ずっとしたかったんです。

 肩で熊の毛ばかり持ってました……」

 抱きつく力が緩む。そして、ニコリと笑うと

「それじゃ朝食頂いてきます」

 そう言って外へ向かった。


 次はドリスか……。あーあ、毛布被ってる。

「おーい、起きろぉー」

 大きめの声。

「んー、まだ眠たいですぅ」

 こりゃ、館じゃ寝坊助っぽいな。下男も大変だ……。

「ドリス様、そろそろ起きていただきませんと……」

「もう少し寝かせてよぉ、仕事は後でもできるんだからぁ」

「そう言いましても、出来上がった朝食が冷めてしまいますので……。

 せっかく温かい朝食がありますのに……」

「もう、もうちょっと寝かせてくれてもいいのに」

 ばっと毛布がめくれ、ちょっと怒ったドリスの顔が現れた。

「おはようさん」

「…………」

 再び毛布で隠れるドリス。

 状況が把握できていないらしい。


「おはようさん」

 パスを通し、直接話しかける。

「おっ、おはようございます。

 えっ……アリヨシ殿……」

 サイズが変わった俺を見て固まっている。


「お前寝坊助なんだな」

 と言うと、

「えっ……あっ……はっ恥ずかしい……」

 ドリスが毛布で顔を隠す。

「夜中、誰かさんのトイレに付き合わされたんだが……」

 パスを切って直接話すと、

「すみません、夢かと思ってました」

 今度は毛布に伏せる。

「別に怒ってないよ。嫌味だ」

 笑って言うと、

「意地悪です」

 ドリスの顔がぷくりと膨れる。

「軽い朝食ができてるから食べてこい」

 円卓を指差すと、

「抱っこで起こしてもらっていいですか?」

 甘えた声を上げた。

「仕方ないなぁ……」

 ドリスを抱き上げて立たせると、鎧を着てないからか胸があるのがよくわかる。

「ありがとうございます。

 おろしていただけますか?」

 俺がドリスを降ろした時、すれ違いざまに俺の頬へキスをしたあと、

「キャッ!」

 と言って外へ走っていった。

 

 キスの場所を触れる。

 キスされるなんて、いつ以来やら……。


 最後にベアトリス。

 気付いているのか毛布がもそもそしている。

 ベアトリスの横に行くと、

「起きてるんだろ?」

 声をかけた。

 すると毛布が襲ってきた。

 そして毛布ごと抱きつくベアトリス。

「あのスプーン使えたのですね」

 嬉しそうなトーンの高い声。

「ああ、おかげさまでね。

 ただ、ずっとではないみたい。

 そのうち魔力が尽きると思う。

 尽きたら元通り。

 まあ魔力枯渇で動けなくなると思うけど……」

「抱き付けました」

 ベアトリスは上目遣いで俺を見る。

「あの体じゃ抱きつくのもままならなかっただろうね」

 すると、

「これで、お父様に紹介できます」

 とニコリ。

「紹介?

 面倒だなぁ。

 ドリスの従魔でいいよ」

 正直、表に出る気はないんだが……。

「それは困ります。

 有能な男性でないと私はあなたのお嫁さんになれません」

 困った顔のベアトリスに

「本気なのか?」

 と聞くと、

「はい、本気です。

 ドリス殿も本気です。

 ウルさんもグレアさんもノワルさんも本気です。妻になり子を成すと言っています」

 真剣な顔。


 包囲網?

 俺を面に出してどうするつもり?

 焼き肉で話している間に、何かあったようだ……。


「まあ、その話はあとで……。

 軽い朝食ができてるから食べてもらえる?」

 と言うと、

「はい、わかりました」

 ベアトリスが頷いた。

 そして、

「飯食ったら、父ちゃんに謝りに行くぞ。

 さすがに親の許可なしにお泊りしたら怒られるだろ?」

 と言った言葉が意外だったのか、

「本当に父に会ってくれるのですか!

 楽しみです!」

 と喜んでいた。


 で、楽しみって何だ? 


「さ、俺も食事に行くかな」

「私も行きます」

 先を歩く俺の後ろをベアトリスは追いかけてくる。

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