第42話 ちゃちゃっと作りました。


 五人を肩に乗せ散歩に出かける。

 熊スーツの毛が上手いこと掴まる場所になり、安定感も良いようだ。

「ドリスの村は小さいな」

 俺はパスで言う。

「はい、小さいですね。ただ、私はこの雰囲気が好きです。

 領主として発展させなければならないことはわかりますが、つつましくとも楽しく暮らすここの村人が好きなのです」

「今困っていて、あったらいいモノとかは無いか?」

「そうですね……。

 水源が遠いので、水で苦労しているようです。

 この先に池があるのですが……あっあれですね」

 けっこう遠くに池が見える。

「歩いていくには遠い。でもそこにしか水は有りませんから汲みに行くしかないのです。

 井戸は有りますが畑に使うほどの水量は有りません。

 用水路を作って村の近くに溜池を作れば村の者も少しは楽ができるのでしょうけど……」

「村人に取っちゃ大変な作業だな。それじゃ畑の近くに溜池を作るか?」

 ドリスはきょとんとしている。


 俺は穴掘り魔法のメイピで大きな穴を掘る。

 ディトで池までを繋ぐ。

 後は石化魔法のメイスを使い水路と溜池を石化する。

 すでに何回かやっているので手慣れたものだ。


「はい出来上がり、水が溜まるには少し時間がかかるかもしれない。

 あと、あの池とこの溜池だと溜池のほうが低い位置にあるから溢れる可能性がある。

 そういう時は、堰板で管理してくれ。

 そのための溝も作ってある」

「あっ、はい、わかりました。ありがとうございます」

 ドリスが頷いた。

 

 すると、

「アリヨシ様は農業にも精通しているのですか?」

 ベアトリス様が聞いてきた。

「いいや?

 でも水があったほうが農作業は楽だろう?

 俺なら溜め池程度を作るのは簡単だから作っただけだ」

「強く、計算もでき、農業の知識もある。

 人に優しく、身内にも優しい。

 ドリス殿がアリヨシ様を気にするのはわかります」

 肩に乗ったベアトリス様が頷いている。

「褒めても何も出んぞ?

 それに農業は素人に毛が生えた程度だ」

 と言うと、

「巨人なのがもったいない」

 と言うベアトリス。

「所詮巨人だよ」

 俺は苦笑い。


「我が家へ仕える気は無いですか?」

 ベアトリス様の目が真剣だ。

「無いね、俺はドリスの従魔だ。

 そんなことをしたら面倒が増える」

「ドリス殿は伯爵家に仕える騎士ですが?」

「だから?

 俺はあなたの家に仕える必要がありますか?」

 と聞き返すと、

「無いな」

 と言う俺。

 そして、

「あなたの機嫌を損ねることが私の損失になります」

 ベアトリス様がボソリという声が聞こえた。

 

 色々計算しているようだ……。


「ドリス、散歩しながらで悪いんだが、見てもらいたい物がある。

 俺が開墾したんだ。

 大きめの畑が六面あるんだがどうしたらいい?」

「見てみないとわかりませんね。

 ただ巨人が農業というのもおかしな話です……」

 あっ、ドリスに笑われた。


 巨人って農業しないのかね?

 奪うだけなんだろうか……。


「そうか……農業をするのはおかしいか……」

 呟くと、

 俺の機嫌が悪くなったと思ったのか、

「すみません!

 珍しいからおかしいと思ったわけで……」

 と尻すぼみに声が小さくなるドリス。

「気にしちゃいない。

 そうだな、今度、開墾した農地を見に来てくれ」

 俺が笑うと、

「わかりました。迎えに来てもらえれば、いつでも行きますよ」

 とドリスが頷いた。

 そんなとき、頬を膨らませているベアトリス。

「私だって迎えに来てもらえれば見に行きますから!」

 なんだか怒られてしまうのだった。

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