第12話 来客に注意しました。

 俺は湯船の縁に立つと、

「で、お前、俺の温泉に勝手に入って何やってる?」

 見下ろしながら湯船の中に居る者に話しかけた。

「誰じゃ、ブラックドラゴンたるわれに意見をするのは!」

 俺は謝るでもなく文句を言うドラゴンを見ると、ドラゴンの眉間を掴みアイアンクローをして持ち上げる。

「アダダダダ……」

 痛みに暴れるドラゴン。

 そのまま温泉から洗い場に出して、

「おっと、ドラゴンさんでしたか失礼しました」

 と皮肉を言ったあと、

「ただ、俺とグレアが作ったの温泉に、かけ湯もしないで突っ込んで来て、俺達をびしょびしょにするのは無礼だと思うのですが?」

 わざとらしく大げさに言うと、

「わっわれが無礼?」

 何で? とでもいうようにドラゴンが聞いてきた。

「無礼だろ?

 ここはお前の家じゃない、俺とグレアの家だ。

 お前の家に何の断りもなく誰かが入ってきたらどうする?」

 聞いてみると、

「ブレスで焼くか、魔法で焼くかじゃな」

 と言った。


 どっちにしろ焼くのね……。


「だったら、ドラゴンに温泉を荒らされた俺はどうすればいい?

 無断で人の家に入ってきたお前を焼けばいいのか?」

 語勢を少し強くして聞くと、

「そんなことを言われてものう、我はドラゴンじゃし」

 胸の前で両手を動かしモジモジとしているドラゴン。

「ドラゴンだったら何をしてもいいのか?」

 俺が追い打ちをかける。

「いや、そうじゃない!」

 と否定する。


「だったら、お前が我々を焼くのは良くて、俺がお前を焼くのはダメ?」

 しばらくドラゴンは考えると納得したのか、

「すまぬ。我が間違っておった、悪い事をしたのう……」

 と言って謝ってきた。

 意外と聞き分けがいい。


「わかればいいんだよ。

 この温泉はかけ湯無しでは入らんでくれるか?

 洗面器が無いのでこれで頼む。

 お前両手使えるから湯をかけられるだろ?」

 俺はドラゴンに洗面器代わりの兜を見せた。

「かけ湯はどうすればいいのじゃ?」

 と言われるが、

「その前に風呂掃除だ……と言いたいところだが掃除道具も無い。

 とりあえずは湯を張り替える」

 俺は魔法で温泉を掻い出し空っぽにした後、再び温泉を張り始めた。


------------------------

「ちょっと時間がかかるがそこは待ってもらおうか」

 アリヨシが言うと、

「マジセンスディアを狩ったのがあります。

 温泉が張れるまで時間があるのなら焼いて食べましょう」

 グレアがホールから大きなシカを取り出してくる。

 マジセンスディアは魔力が濃い場所に集まる性質があるからのう、アリヨシとグレア、そしてこの温泉の魔力にひかれて集まったのじゃろう。

「いいね。

 ノワルも食べるだろ?」

 われに声をかけるアリヨシ。


 誘われたのなんぞ初めてじゃ!

 なんだか嬉しいのじゃ!


 思わず尻尾が動く。 

 アリヨシはスッスとナイフを動かし、丁寧に皮を剥いだ。

 「内臓要ります?」

 グレアが聞いてきた。

「当然じゃ。

 魔物で美味いのは肉だけじゃなくて内臓もじゃからな」

 と答えると、

「ご主人様。

 ノワルさんにも内臓を分けてあげてください」

 グレアが言う。


 食べ物を分けてもらえる……。

 こんなの初めてじゃ。


 そんなことを思ってしまう。

 そのあと、解体した肉を渡されるのかと思っていたのじゃが、アリヨシは火を起して肉をその上に……。

 そう、焼き始めたのじゃ。

 われは焼いた肉を食べたことが無い。

 しかし、油が焼けるいい匂いがする。

 内臓を食べた後少し待っていると、

「ほら、焼けたと思うぞ」

 と足を一本差し出してきた。

 ジュージューと油が爆ぜる音をさせている。

「熱いから気をつけてな」

 と言われたが、パクリ。

「あっちーのじゃ!」

 思わず声を上げてしまう。

「ドラゴンって高温のブレスを吐きそうなのに、熱いのに弱いのか。

 少し面白いな」

 アリヨシがくすくすと笑った。

「ご主人様、私も熱すぎるのは好きではありません」

 グレアが言う。


 われと同じ。

 何か嬉しいのじゃ。


「もう冷えたと思います、

 一緒に食べましょう!」

グレアに言われて私は食べる。

ふと、アリヨシが肉を食べておらんことに気付いた。

内臓にも手を付けていない。

「アリヨシは食わんのか?」

と聞くと、

「俺は食べなくても大丈夫なんだ。

 遠慮なく食べてくれ」

と笑う。


 食べたいのじゃが、あえてやめておる感じかの?

 もしかしたら、別の食べ方をするのかもしれん。

 ならば、無理に食べろというのも駄目じゃな。


 われとグレアでマジセンスディアの肉を食べきった。

 丸々と太っておったので、食いでがあって腹がいっぱいじゃ。

「ふあぁ、ご主人様、眠たいのです」

 グレアがアリヨシに甘えていた。

「ホールで昼寝するか?」

 アリヨシが言うとグレアが大きな入り口がある洞窟に入っていく。

 続いてアリヨシも。

 

 われ……もいいのかのう?


 そんなことを思ったのじゃが、聞くのをためらってしまった。

 仕方ないので湯船の傍で温泉が溜まるのを待つのじゃった……。


------------------------

「よく寝たな」

「寝たのですぅ!」

俺とグレアがホールから出ると、体操座りをして湯船を見ていた。

「おっ……悪い悪い。

 待たせてしまったか。

 一緒に寝ても良かったのに……」

ノワルに声をかけると、

われも一緒で良かったのか!」

と言って俺のほうを向く。

嬉しいのか尻尾が振れていた。

「そなたの名は?」

「アリヨシだよ。

 そのままアリヨシって呼んでくれ」

われはノワル。

 呼び捨てで良いぞ。


「温泉も張れたようだから風呂に入るか?

 さて、かけ湯だったな」

と言うと、

「そうじゃ、かけ湯じゃ!」

ノワルが大きな声を上げた。

 俺は裸になると兜に湯を汲み体にかける。

「こうすれば湯船に入る前に汚れが落ちるので中が汚れなくて済む。

 さっきお前が入ったあと汚れが浮いていただろ?」

「本当じゃ、我は汚れておったのじゃな」

 俺は兜に湯を汲み、ドラゴンの頭からかける。背中とか届かなそうなところもついでに擦った。

「ああ、気持ちいいのじゃ。

 まあ、温泉の事はすまなんだ」

 ペコリとドラゴンは謝った。

「偉いな。

 ちゃんと謝れるんだ」

われは偉いか?」

「ああ、偉いぞ」

「我は偉いのか……。

 そんなことを言われたことが無い……」

 独り言のように言う。

「さあ、綺麗になった。

 存分に浸かってくれ」

 俺がそう言うと、ノワルは湯船に入る。

「さて、俺たちも入るか?」

 俺はグレアの体を洗い、湯船に入るのだった。


 風呂から出るとタオルが無い。

 俺は脱いだタンクトップで体を拭いた。

「グレア、ちょっとおいで」

「はいです!」

 体を拭いてもらえるのが嬉しいのかテンションが高い。

「ご主人様の匂いです」

 拭いている間はまた目を細めていた。

「はい終わり」

 グレアの体を拭き終わるころ、のっそりとノワルが温泉から出てくる。

 そして俺たちの方を羨ましそうに見てくると、

「いいのう……」

 とドラゴンの指を咥えんばかりに羨ましそうに言った。


「ん?どうした?」

「手が届かないところがあるのでな……わっ、われも拭いてもらえんかの?

 ダメならいいんじゃが……」

 拭いて貰いたくて堪らないようだ。


「おう、いいぞ?」

 そう言ってノワルに近づくと、

「じゃあ、拭くぞ」

 そう言ってノワルを拭きだした。

 鱗だから下着が傷まないか不安だな……。


「気持ちいいのじゃ、それにいい匂いもする」

「そうです、ご主人様はいい匂いがするのです」

 匂いフェチ増殖中。


「そういや、俺ら会話できてるよな」

「俺とグレアは繋がっているからわかるが、俺とノワルは違うからな」

「私は獣の言葉を理解しているので、私とご主人様が繋がっているから理解できるのかもしれないです」

われは獣の言葉も人語も理解しておるからかもしれんの。

 これでも八百歳を超えておるのじゃ」

「結構歳いってるんだな」

「失礼な! ドラゴンは五千歳生きる。

 じゃから我はピチピチなのじゃ」

 

 こっちにもピチピチって言葉あるのね。

 

「人間で言うと十六歳?

 若いねぇ……確かにピチピチだなぁ」

「じゃろう?」

「銀狼の寿命ってどのくらい?」

「わかりません、銀狼と進化したフェンリルでは寿命が全然違うと言われています。

 フェンリルは千年以上生きると言われていますから」

「フェンリルになるにはどうすればいいんだ?」

 俺が聞くと、

「取り込んだ魔力の量が関係するらしいのです」

 とグレアは言った。

「狩って食う必要がある訳ね」

「強い魔物を狩って食べる。

 あとは強い者から魔力を貰うといいみたいです」

「まあ、機会が有れば狩りもしないとな。

 俺の寿命は知らないが、俺より先に死んでもらっては困る。

 置いて行かれるよりは置いて行く方がいいかな。

 まあ、それまでは一緒に居てくれ、グレア」

 そういうと、グレアが俺の足にそっと寄り添った。

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