第77話 プリンを持って行きました。

 ベアトリスが砂糖の相談に行って二週間ほど経った時、朝からプリンを作っていた。

ドリスの家に持って行ったようにコップに蓋をして箱に藁を詰め少々揺れても大丈夫なように処置をして、 岩塩もノワルの一抱え程度の塊を削り出し準備する。

 いざ伯爵の館へ行こうとなった時、元々俺とベアトリスで行く予定だったのだが、皆で行こうということになった。

ノワルが言いだしたのだ。

われの背も大きくなり、皆と飛ぶぐらいは大丈夫なのじゃ!」

 ということらしい。

 ノワルはデカくなった胸を張っていた。

「「チッ」」

 つつましい組の二人からあからさまな舌打ちが聞こえる。

「まあ、皆で行くのも良いんじゃないのか?

 せっかくだからベアトリスが手に入れてくれた貴族風の服を着ていくか」

 拡大縮小が確実な熊スーツを愛用しているが、今日はオヤジさんだけでなく、ベアトリスの母ちゃんにも挨拶をする必要があるからな。

 ウルも町娘モード。

 ベアトリスは良家のお嬢様。

 まあ、伯爵の娘だからな。

 グレアは白のメイド服っぽいの。

 まあ、これなら問題ないか……。

「ちなみに、ベアトリスの母ちゃんの名前って?」

「ああ、ブレンダと言います」

 ほう、ブレンダ・クルームね。

「それじゃ、行くか。ノワルよろしくな」

 俺達四人はノワルの背に乗り、ノワルの手には岩塩を持ち、クルーム伯爵の館へ向かった。


 今回は岩塩の塊を持っているので、音速までは出していないが……それでも、すぐに館に着いた。

 館に着くとノワルはホバリングしてゆっくり降りる。

 館の者たちも慣れたもんで、

「お嬢様が帰られた、ステファン様にご報告を」

 などという声が聞こえる。

「あっ」っというノワルの声がした後、

「ズズーン」

 という岩塩の塊が落ちる音がした。

 庭の中央に石碑のように立ってしまっている。

 後で動かしておくか……。

 そして俺達五人は、館の庭に降り立った。ノワルは人化し黒のメイド服っぽいのに身を包む。


「アリヨシ様こちらです」

 ベアトリスが先導し、館のリビングのようなところに通される。

 するとベアトリスが何かを言うと家令らしき男はどこかへ行った。

 

オヤジさんに報告に行ったかな? 

 

その後、俺たちはソファーに座り、オヤジさんからの呼び出しを待つ。

「この紅茶、ベアトリスのほうが美味いな」

 紅茶のいい香りと味を楽しみながら言うと、

「はい、アリヨシ様のところに行ってから紅茶は自分で毎日ですからね。

 それで上手くなったのでしょう。

 でもあまりこの場所ではそのようなことをおっしゃらないでください。

 メイドたちが悲しみます」

 少し小さな声でベアトリスが言った。


「おお、悪い。

 そういえばベアトリスもメイドとか居たほうがいいんじゃないのか?」

 貴族の娘ならそんなもんじゃないか?

「私はあの場所で皆さんと居ると気が楽なんですよ。

 メイドが居ると監視されているようで……。

ウルさんもグレアさんもノワルさんも居ますし……。

 でも、この四人のうちで私が最初のお手付きにならなかったのが残念ですけど……」

「ああ、それは流れだろ。

 俺もグレアと散歩に出たあと手を出すなんて思っていなかったしな。

「アリヨシ様、グレア様はちゃんと計算していたんですよ?

 その計算通りにアリヨシ様は動いたのです」

 ベアトリスが言う。

「えっ」

 おっと、あれって計算だったのか。

 驚く俺を見てベアトリスは、

「ですよね、グレアさん」

 とグレアを見る。

「……はい」

 真っ赤になって俯くグレア。

「まあ、乗っかったとはいえ。

 どっかで一線超えるつもりだったからそれでいいだろ?

 他の四人だってあとはきっかけだろうし……」

「「「きっかけ?」」」

 真っ赤なグレアを放っておいて身を乗り出す三人。

「ん?

 だって俺の妻になるんだろ?

 つか俺も四人を妻にしたいし……。

 この世界の人間的にはダメなのか?」

 身を乗り出した三人に言う。

「一夫多妻ですから問題ありません」

 とベアトリスが大きく頷く。


「正直に言っておくと、ノワルは本当に流れだけだと思う。

 ウルはウルのことを正直に教えてくれた時、ベアトリスはちゃんと岩塩の事業を軌道に乗せた時、ドリスは今日の話の時に上手くやれたらだな。

 ベアトリスの場合は、まだ何もしていない俺が手を出してみろ、オヤジさんが領軍を連れて攻めてきそうだ」

「それはあり得ますね」

 そんなことを話ししていると、家令がベアトリスと俺を呼びに来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る