第28話 いろいろ甘えさせました。
家に着くと日は暮れていた。
感覚的には二十一時ぐらいかな?
ホールの前にお座りしてグレアが待っていた。
ホールの入口から少し離れたところに鹿が何頭か積み上げられている。
留守番をしている間に狩ったのだろう。
「ただいま。
留守番ありがとう」
ハッハッハッハッって感じで舌を出しながらグレアが居る。
俺がグレアを撫でると、
「特に何もありませんでした」
の報告。
「了解」
俺はグレアの頭を撫でながら報告を受けた。
そんなことをしている間にノワルは俺の肩からぴょんと降りてドラゴンに戻る。
するとすぐ、
「アリヨシよ、その……のう……」
上目遣いで言うノワル。
ああ、そういう事ね。
「おお、すまんすまん。
ノワルが頑張ったから撫でるんだったな」
「そういう事じゃ」
俺はノワルに近づくと、ノワルの全身を撫でだした。
撫でる度にピクンとノワルの体に力が入る。
「おっ、ああ、そこは……ダメなのじゃ」
ノワルの喉、角の根元、尻尾の先、わき腹などを撫でるとちょっと妖しげな声が上がる。
「やめたほうがいいか?」
あまりの反応に気が引けて聞いてみたが、
「イヤ……イヤなのじゃ。
このままのう……しばらく……撫でて欲しいのじゃ」
何かを耐えながらノワルが懇願する。
「いいけど……大丈夫?」
「大丈夫なのじゃ、アリヨシが撫でるなら、ずっとでもいいのじゃ」
そのうち、
「あーダメじゃ、このままでは
などと声を上げたあと、ノワルの体がだらりと力が抜けた。
しばらくすると寝息、そのまま寝たようだ……。
「ジー」って感じでグレアが俺を見ている。
「どうかしたか?」
俺が聞くと、グレアの体がピクンの振れた。
緊張しているのか尻尾が止まっている。
「わっ私も、もっと撫でて欲しいです。
だっダメですか?」
グレアは潤んだ目で俺を見てきた。
「そうだな、留守番してくれたもんな」
「はい、留守番頑張りました!」
「鹿も狩ってくれたんだろ?」
「でも、これは私とノワルさんの食事ですから……」
「どっちにしろ『ありがとう』だ」
「はい!」
俺はグレアの傍に行くと、某有名動物王国の国王のようにグレアの体全体を撫でた。
「あっ、ああ、気持ちいいですぅ」
グレアは仰向けになり服従のポーズになる。
「今更だがフェンリルになって大きくなったよな。毛も見違えるほどきれいになったし」
俺は腹の辺りをワシワシと撫でる。
「あっ、そこは……ダメなんですぅ」
グレアのツボである。
ここを撫でると気持ちいいのか目を細める。
「もうダメですぅ」
そう言って数回ピクピクするとグレアも寝だした。
ノワル、グレアの順にホールの中に寝かせると俺は温泉に入った。
「ふぅ、落ち着くねぇ」
湯船の縁に頭を置き見上げると、満天の星空が広がっていた。
「前の世界じゃこうはいかないか……」
おっと、今のうちにドリスに帰宅の連絡をしておくかな……。
「おーいドリス。今大丈夫?」
俺はパスを通し話しかける。
「へ?
あっはっはい、ちょっと待ってください、今裸なんで……」
と言うドリスの声。
「おっ、悪い」
手の中で洗われるドリスの事を思い出した。
何かがムクリと起き上がる。
おっと、違う違う……。
「もう今は大丈夫です。
ローブも着てベッドに居ます」
と言ってくると、
「ただ、帰宅の報告をしたかっただけなんだ。
気を使わせてしまったな」
「気になさらず、私は話ができるだけでも嬉しいのですから」
ドリスの嬉しそうな声が聞こえる。
「ん? 嬉しい?」
と聞くと、
「いえ、こちらの事です……」
小さな声に変わるドリス。
パスで話すときも声の大きさが変わるようだ。
今さら気付く。
「今後、坊ちゃんがちょっかい出してくることもあるだろう。
帰る時にも言ったが、何かあったら言えばいいからな。
すぐに総出で助けに行くから」
「はい、心強いです」
「ん、それじゃ、そろそろパスを切るぞ?」
「もうですか?」
「ああ、そろそろ切るよ。
でも、こっちから連絡するし、そっちからも連絡すればいい。
遠慮するなよ?」
「はい!」
嬉しそうな声。
「それじゃおやすみ」
「おやすみなさい」
ドリスの返事が聞こえると俺はパスを切った。
「さあ、明日は何しよう……」
そんなことを考え、俺は星空を見上げながら温泉で寛ぐのだった。
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