第122話 龍血にお願いしました。

 次の日の朝に宿を引き払って役場に行くと、想定はしていたとはいえ、騎士五十人ほどととアデラ。

 なぜか騎士が増えている。

 示威行為?


 ゴールさんは荷馬車に子供たちを乗せ、出発の準備をしていた。

「ゴールさん、あれは?」

「いえ、アリヨシさんの護衛をするとかで……」

 と言ってビクビクしている。

「はあ……」

 と溜息。


「アデラ、何しに来た」

 アデラの前に立つと、

「おっお前たちの護衛をしようかと……」

 体を揺すってモジモジ。

 すると、俺に近寄って来たグレアが、

「ご主人様、あれは私たちと同じ匂いがしますが……」

 と言った。

「たち?

 匂い?

 何それ?」

「盛りのついたメスの匂いです」

 グレアに言われてチラリとアリーダを見ると赤くなる。

 というかグレアよ、盛りが付いているって自分で言っていいのかい?


「つまり、グレアが俺に彫れているように、アデラが惚れていると?」

 ときくと、

「そういうことになりますね」

 グレアが頷いた。

 俺はアデラに近寄る。

「アデラ、ちょっと来い」

 と言うと、

「な、何だ?」 

 モジモジしながらアデラがやってきた。

「一応言っておく、俺は帝国側の人間ではない。

 俺はこの子たちを連れて王国に帰る」

「だから?」

 なにも気にしないアデラ。

「お前、帝国側の人間だろ?

 王国側の男を惚れちゃいかんだろ」

 止める俺に、

「問題ない、最悪私がそっちに行く」

 とニコリ。

 アデラが来たとして、戦争の引き金とかになったらどうする?


「とはいえ、しばらくはここで我慢するが、私もそろそろ適齢期だ。

 行き遅れになる前に『嫁に行け』と言われるだろう。

 そうなれば王国側に逃げ込む。

 亡命だ」

 さらりと怖いことを言った後、

「アリヨシの事だ、逃げてきた者を無碍にすることは無いだろう?」

 アデラがニヤリと笑う。

 あっ、それはしないだろうなぁ。

 苦笑いを返すしかない。


「ご主人様、読まれてますね」

 ヤレヤレ感満載のグレア。

「アリヨシだからなあ。

 保護を求めてきた女をつき返したりはしないだろうし……」

 面倒臭そうなアリーダ。

「俺だから」って言うのが理由になるんだ……。


「それに、月一回ぐらいはアリヨシが砂糖を納品に来てくれないかな。

 あっ、お菓子も込みだぞ。

 そうしてくれるなら当面ははそれで我慢しよう。

 それに私が居たほうが、王国側への侵攻なくていいだろう?」

 アデラが俺を見た。

 確かに、戦争なんて無いほうがいい。


「ご主人様」

 グレアが俺に声をかけてきた。

「理由ができればこの町を訪問しやすくなります。

 役場経由で奴隷商人を紹介してもらえれば他の獣人の奴隷を助けることになりませんか?」

 と考えながらグレアが言う。

「おお、ナイスだグレア」

 俺はアデラに向き直ると、

「アデラ、頼みがある」

 何も言っていないのに、

「ああ、なんでも聞くぞ」

 即決のアデラ。


「獣人の奴隷を探してくれないか?

 ここの役場でもいい、別の場所でもいい集められたら助かるが、集められなければ場所だけでもいい」

 俺が言うと、

「なぜだ?」

 と聞いてきた。

「俺の下で働いている獣人たちの子供を捜したいからだ。

 探せば獣人たちが働くようになるだろうし、人手も増える。

 まあ、そんな感じだ。

 月一回砂糖を納品に来た時、代わりに獣人の奴隷を引き取っていく。

 俺には帝国側の伝手が無いからな。

 協力してくれる奴隷商人が居たら頼んでみてくれないか?」

 と頼むと、

「よし、わかった」

 アデラは頷いた。

 やっぱり即決ですか……。


「帝国は人間至上主義だと聞いたが大丈夫か?

 姫が奴隷を買っているなどと風評が出たら問題ありだろ?」

「帝国の事など気にしなくていい。

 私はお前の役に立ちたいだけだ。

 ただ、昨日より美味しいお菓子が食べたいな」

 帝国よりお菓子か強いとはな。

 まあそれも面白そうだ。


 俺はアデラにパスを繋ぐと、

「まあ、何かあったら俺を呼べ、すぐに来てやる」

 何が起こったのかわからないアデラ。

「俺の魔法だ。遠くの者と話せる。お前が俺と話したいと思えば話せるからな」

 俺がパスを切ったとたん、

「聞こえるか!」

 と、甲高い声が聞こえた。

「ああ、聞こえてる。

 だから、面倒な事が起こったら呼べ。わかったな」

 アデラはコクリと頷いた。


 結局砂糖も岩塩も全部のお買い上げになった。

 今後は砂糖だけをリュック一個、毎月納入する契約となる。

 アデラは気にしていないようだが、王国側の俺が持ち込んでいいのかね。

 そして俺とグレアとアリーダは馬車に乗り、十人の獣人の子と俺の家を目指した。

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