第57話 小さくなることができました。
俺と酔っぱらったベアトリスと二人。
ニマァ……っと笑ったベアトリスが急にパスを繋いでくる。
「アリヨシ様わぁ、私のことをぉ、どう思ってるのれすか?」
「可愛いと思ってるぞ?」
「可愛いと思ってるなら、何で手を出さないのれすか?」
「出せないだろうに?
俺は大きすぎるよ。
この手でベアトリスを触って何かあったら大変だろ?」
ベアトリスの身長の二倍はあろうかという手を見せた。
「そんなことはわかっているのれす!」
若干キレ気味の返事。
「だったら聞くな」と言いたい。
でもこういう時は言っちゃいかんのだろうな。
そんな気がする。
すると、再びベアトリスがニマァ……っと笑って、
「エヘッ、これなーんだ」
と急に手に持った物を見せてきた。
よく見ると、手には小さなスプーン。
「スプーンだろ?」
としか言いようがない。
「それがぁただのスプーンではないのれす。
その名もエヘヘ……『おばさんのスプーン』」
酔っぱらって緩んだ顔で言ってきた。
「おばさんのスプーン?」
昔々やっていた例の総合なテレビのアニメしか思い浮かばん。
「縮小化の魔法を開発した魔女ベルタ、通称『魔女おばさん』。
そのおばさんが手掛けた拡大と縮小化の魔法が使えるスプーンでしゅ。
しかし必要魔力が多すぎて、人間はもとよりエルフでさえ使えなかったと言いましゅ……。
いったい誰のために作ったんれしょうね。
一部の魔物は巨大化や縮小化の魔法が使える、おばさんが作った巨大化や縮小の魔法は失伝され誰も使う者が居なくなっていましゅ。
今では誰も使うことができないスプーンが残るだけなのれす」
得意気に指をフリフリ話すベアトリス。
そういえばグレアがそんなことを言っていたな。
叔母さんはその魔法を解析し、魔法が使えるようになったわけか……。
それを魔道具にした。
しかし、元々魔力が多い魔物が使う魔法。
叔母さん以外は使えなかったのだろうか。
勝手に考えていると、
「人間がダメでもアリヨシ様のような膨大な魔力を持つ巨人なら使えるのではないれしょうか?」
そういうことか……以前ベアトリスを助けた時にノワルがそんな魔道具を探してくれと頼んでいたな。
「ありがとうな。
約束守って探してくれていたんだ」
俺の言葉にベアトリスはニコリとすると、
「手を出してくらはい」
と言った。
俺が手を出すと、ベアトリスが俺の手のひらの上にスプーンを置く。
実際は中指の上。
比較してみれば、小さな棘のよう。
俺は意識してスプーンに魔力を流す。
するとスプーンが見ていられないほど輝きだした。
その光が消えて目が慣れてくると、目の前に俺より頭一つ小さなベアトリスがいた。
「ああ、小さくなったんだな」
自嘲気味に笑ってしまう。
ふと見ると、
「…………」
ポカンとベアトリスが見俺を見ていた。
今の俺は、着ぐるみを着た人間状態。
向こうなら、バイトをしているお兄さんてところ。
「がおーっ」
襲うふりをすると。
「アリヨシ様れす、抱き締められるのれす。
好きなのれすぅーー」
興奮したベアトリスが抱きついて叫ぶ。
そして、ひとしきり叫ぶと糸が切れたように俺にもたれて寝始めた。
「面倒な女……」
俺は、お姫様抱っこでベアトリスをホールの奥に連れていく。
そして、毛布にくるんで寝かせた。
空は暗くなっている。
もう夕方なのか……結構長い時間飲み食いしたんだな。
俺は片付けを始めた。
スープは残ってるな。パンも少々ある。肉は綺麗に無いね。
ワインは樽半分……。
結構飲んでるな。
出汁に使った骨や野菜くずは穴を掘って、火の精霊に焼却処分してもらう。
魔力を使って高温にすると灰も残らない。
食器は洗い場に持っていって水の精霊に洗ってもらった。
風の精霊に水分を吹き飛ばしてもらって食器を片付ける。
パンパンと手を叩き、
「ふう、終わった」
そこそこ時間がかかったと思うのだが、誰も起きてこない。
みんなで食べて話して疲れたかな?
酔ったのもあるだろうね。
時間潰しにウル用に作った温泉に入る。
「気持ちいいねぇ」
空には星が瞬いていた。
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