第53話 何を着て行けばいいんでしょう?
どんな服を着て行けばいいんだろう。
男の人にお呼ばれしたことなどない。
そんなに服も持っていないしな。
いつもの騎士の格好がいいのだろうか……。
政務をするときの服装がいいのだろうか……。
それとも着飾ったドレスのようなものがいいのだろうか……。
いや、案外村娘のような服?
そんなことを考えながら、服の上からクローゼットに入っていた服を姿見で合わせていた。
すると、
「ドリス様、急に村娘のような服などどうかなさったのですか?」
私の従者をしているロイドが聞いてきた。
ロイドとロイドの妻ベルタは私の食事などの身の回りの世話をしてくれる。
ロイド自身、剣の腕が建つわけでもないが、お父様のころから戦も少なくなり、剣の腕など必要ない。
いろいろ気が利き、気にしてくれるロイド達に私は感謝していた。
「えっ……いや、たまには鎧以外の服を着るのもいいかと思ってな」
「そうですか?
残念です、いい男でもできたのかと思ったのですが……。
伯爵の息子のアントンが……」
「ロイド!
アントン様と呼びなさい」
「いいえ、ドリス様を手籠めにしようとしたのです。
これくらい言ってもばちは当たりませんよ!」
声を荒げるロイド。
姿見を見て、
「私は綺麗な方なのだろうか……」
と呟くと、
「はい、ドリス様は美しゅうございますよ。
うちのかかぁも『きれいにおなりになって!』って言ってました」
ロイドが頷く。
アリヨシ殿も私に「良く鍛えられて引き締まった綺麗な体だ」と言ってくれた。
「『ドリス様は顔だけじゃなくもう一つ武器がある』とも言っていましたよ?」
という言葉に、
「私に武器?」
とロイドのほうを向く。
「はい、私も男ですから、やはりそこは気になります。
うちのかかぁもそれで選びましたし……」
「それ?」
「私の口から言わせないでくださいよ」
ロイドが口ごもる。
視線がチラチラと私の胸を見ていた。
そういえば、わたしの大きな胸を見て「大好きだぞ」とも言っていた。
そうか……アリヨシ殿は胸があるほうが好きなのだな。
そういえば……。
村娘風ではあるが、少し胸が開いた服を見つける。
うむ……、派手ではないが主張できそうだ。
これならば問題ないな。
何に問題がないのかはわからないが、私はこの服に決めることができた。
「ありがとうロイド。
明日は食事に着ていく者が決まった」
「それは良うございました」
ロイドがにこりと笑った。
「それで頼みがあるのだが、焼いて食べれば美味しそうな野菜を明日の朝までに籠一つ分ぐらい準備してもらえないだろうか?」
と言うと、
「食材を持ち込むのですか?」
とロイドが首を傾げる。
確かに、人を呼ぶのに、食材を持ち込ませるなどということは無いな。
とはいえ、
「ああ、肉を食べるのだが、野菜が無いと言っていた」
ロイドに言うと、
「畏まりました。
適当に見繕っておきましょう。
野菜は籠に入れて台所に出も置いておきます」
ロイドはそれ以上聞かずに頷くと、準備のために出て行くのだった。
これで、準備はできた。
朝になってグレア殿が迎えに来ればすぐにあの場所に行ける。
明日のことを考え、眠れない夜を過ごす私だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます