第24話 騎士が討伐に来ました。

 五日前、私の前に現れた伯爵の息子……アントン。

 我がベックマン家はクルーム伯爵の寄り子であり、伯爵に仕える身分。

 戦いの際には数人の従士と共にクルーム伯爵家に馳せ参じる。


 半年前の軍事訓練の際、そのアントンと模擬戦をした。

 あまりにも拙い剣。

 忖度するように指示されてギリギリ負けたのがいけなかった。

 私に勝てると勘違いしたその息子が私に求婚してきたのだ。

 当然断ったのだが、どこから見つけたのかに父上の借金を探し出し、肩代わりさせられる始末。

 それでも断っていると、

「この村から北に向かったアーネコス村に巨人が住み着いたという。

 騎士としてその巨人を討伐してくるのなら、俺の求婚は取り下げてやろう。

 まあ、無理だろうがね……」

 と笑いながら言われてしまう。


 私も騎士。意地がある。

 こんな男のもとに行くなど死んでも嫌だ。

 勢いに任せて鎧を着ると馬に乗り、路銀を持ってアーネコス村に向かうのだった。


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 少し冬が深まると、俺としてもすることがない。

 雪深いので村人も来ない。

 グレアもノワルも基本的に食事の回数は少ないので、近くに来たイノシシやシカ系の魔物を狩っておけば食料はどうにでもなっていた。

 家のホールでグレアとノワルでゴロゴロする。

 それが終わったら、温泉入って、熊スーツを着てまたゴロゴロしているのだ。

 そんな時、レーダーに光点が映る。

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 ハア……ハア……寒い。

 馬は死に、路銀も尽きた。

 ふらふらと歩く私。

 こんな私が巨人に勝てるはずもない……。


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 えっ、村人?

 かと思って見てみると赤だった。

 でも光点は一つだけ……。


「何か来たかな?」

 スンスンと臭いを嗅ぐグレア。

「人間みたいですけど……どうしますぅ?」

「んー、面倒臭そう」


 正直どうすればいいのかわからん。


ってしまうかの?」

 ノワルの爪が伸びる。

「ノワルさん、それダメなやつね。一応話を聞かないと……ね」

 俺はノワルを宥めた。


「んー、悪いけど二人に対応してもらおうか」

「ハイご主人様がそう言うのなら」

 素直なグレア。

「仕方ないのう、アリヨシだからやるんじゃからな」

 素直じゃないノワル。


 暫くすると、全身鎧にフルフェイスの兜をつけた人間が近づいてくる。

 雪道を歩く姿はどう見ても歩きづらそう。

 家の入り口近くまで来ると、人化したグレアとノワルに気づいたようだった。

「失礼する。

 ここに巨人が住んでいると聞いたが」

 女の声か……女騎士って奴な。


「はい、ここには巨人であるアリヨシ様が住んでおられます」

「この先の村人には巨神と呼ばれておるのう」

 グレアとノワルがそう答えると、

「村人に良くしたと言っても、所詮は魔物。

 成敗しに来た」

 んー、どうしても俺を倒したいらしい。

 おっと、「成敗する」と聞いた瞬間、二人から殺気が漂う。


「ハイハイ、ダメだよ二人とも」

 とパスで咎めた。

「でも」

「じゃが」

「『でも』でも『じゃが』でもないよ、落ち着いて。できれば名前を聞いてもらえないか?」

 最近パスシステムで気づいたことがあった。

 相手の名前がわかれば強引に繋げるのだ。村長の名前も知っているのだが、「神っぽくしろ」とノワルに言われパスは繋いでいない。

 直接会話はしない方針になっている。ちなみにノワルもパスを繋いである。

 ただ今回は取り次ぐのが面倒なのでパスを繋いでみることにした。


「アリヨシ様に取り次ぎます。貴方の名は?」

 グレアが聞くと、

「ドリス・ベックマン」

 女騎士の名がわかったのでパスを繋ぐ。

「あーあー、テステス、ドリスさん聞こえますか?」

 俺の声が聞こえたのだろう、

「何者!」

 と周囲を見回す。

「君が倒しに来た巨人なんだけど、いいかな?」

 俺はホールの中からのそりと出る。

 村人からもらったクマ◯ンスーツ。

 略して熊スーツ着用である。

「ギガントベア!」

「ハイハイ落ち着いて、顔出すから」

 ギガントベアの口から俺は顔を出す。

「寒いからこれ着てるんだよ」

 俺が顏を出すと、

「出たな、巨人!」

 と女騎士が剣を構えた。

 しかし、

「出たけどさ、どうするの?

 俺を倒す?」

 と聞いてみた。

「そのつもりだ!」

 と息巻く。


 ふむ……。


「倒せると思ってる?」

「倒さねば、結果を残さねば、我が家が舐められてしまう。

 女だからとバカにされる」

 声が泣いていた。

 

 無理難題って奴を押し付けられたんだろうな。

 人間って面倒だね。

 まあ俺も人間だったけど。


 そこで俺は、

「俺殺さないといかんの?

 君に従属する振りじゃいかんかな?

 何なら特典としてフェンリルとブラックドラゴンも付けるけど」

 俺の言葉を聞き、グレアとノワルが人化を解いた。

 俺とほぼ同じ大きさのフェンリルとブラックドラゴンが現れる。

「ひっ」

 あっ、腰抜かした……。

 あーあ、気を失って失禁してる。

 雪の上に黄色い染み。

 そんなに俺ら怖いかね。

 

「グレア、爺さん村長トコ行って、女物の服借りてきて」

「ご主人様、了解です」

 グレアはさっと村へ向かう。

「ノワル、悪いんだが鎧を脱がしてやってもらえないか?」

 俺が頼むと、

「仕方ないのう」

 ノワルは人化し女騎士の鎧とマスクを脱がした。

 ピンクの腰まで有りそうなストレートな髪がはらりと落ちる。

 そして端正な顔立ち。


「おっと、可愛いね」

 俺が言うと「ピキン」と言う音と共に何か空気が張り詰めたような気がした。

 ガシャンガシャンと強引に鎧を外すノワル。

 ノワルの女騎士への扱いが荒くなる。

「どうした、ノワル?」

「なっ、なんでもないぞ?」

 ノワルの場合は何かあるよな。

 

 さっき女騎士を誉めたから妬いたのか?


「まあ、どっちかと言うとノワルの方が好みだな」

 フォロー的にそう言うと女騎士の扱いが戻った。

 分かりやすい。


「悪いんだが、人化したままで温泉に入ってもらえるか?」

 俺はノワルに言う。

「いいぞ?」

 との返事。

 そして、ノワルが服を消した。

 小振りの乳房や茂みが見える。

「えっ、何で裸に?」

 俺は驚いてしまう。

「人は温泉に入るとき裸が礼儀じゃろ?」

「そりゃそうだが、普通の女性は男に裸を見せんだろうに」

われはアリヨシになら見せても恥ずかしくないのじゃ。

 元々一緒に入っとったじゃろうに」

「それはドラゴンの時だろ?」

われには関係ない」


 まあ、元々魔物だし仕方ないか……。

 人に見られる事への躊躇が無いらしい。


「俺が手を使って湯船を作るから女騎士の服も脱がせて洗ってやってくれ」

「わかったのじゃ」

 俺は温泉の縁にうつ伏せになり、両手で器の形を作り湯に沈める。指の隙間から入る湯の深さが程々になるようにした。

 裸のノワルが裸の女騎士を軽く抱き、俺の手の湯船に入れる。


 女騎士はボンキュッボンだね。


 女騎士をじっと見ていると……ノワルに睨まれた。

 ノワルが女騎士の体を丁寧に洗う。

 その時、グレアが帰ってきた。

「借りてきました。お古だから返さなくていいそうです」

「グレアありがとう。

 それじゃ、洗い終わった女騎士を拭いてもらえるか?

 グレアも手伝ってやってくれ」

 人化したグレアが女騎士を受け取りながら、

「何でノワルさんは裸なんですか?」

 と首を傾げてノワルに聞く。

「アリヨシに見せつけているのじゃ。

 アリヨシの話ではわれはアリヨシの好みの姿らしいぞ」

「えっ、じゃあ……」

 俺の「いいから!」の言葉が間に合わず、素っ裸になるグレア。

 銀色に彩られた裸体が現れる。

「私はどうですか?」

 グレアが聞く。

 そりゃ眼福だけど、それを見せられると自然現象が起こる訳で……。

 うつ伏せの俺にはちょっと辛い。

 今の状態見せられないなぁ……。

 それでも耐えきった。


 胸のボタンが二つほど飛んだが、なんとか女騎士の着替えが終わり、残りの二人も人化を解く。

「ご主人様どうでしたか?

 私の裸」

「アリヨシよどうじゃった?

 われの裸体は」

 立て続けに感想を聞かれた。

「二人とも綺麗だったぞ。

 俺が人なら声かけて恋人にしたいところだ」

 二人への誉め具合はこの辺でどうだろう。

「恋人」

「恋人じゃ」

 ぽーっと上を向いて妄想が始まる二人。

「ご主人様が小さくなれるのならば、私もノワル様もご主人様の妻になると言うのは?」

「それは良い考えじゃ。

 われが第一、グレアが第二じゃがの」

「私は第一でも第二でも気にしません。

 ご主人様に愛してもらえるなら……」

 二人の妄想が暴走しだした……。

「それでいいな、アリヨシ」

 ノワルが俺に確認する。

 何か決まり、俺の意思は完全に無視される。

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