第5話 つ、追放だとぉ!?

 ナイヤチ村の宿屋で朝の儀式を終えると、必要な買い物を済ませ、青のチャイナローズを手に入れる為に南にある第二の街ホウツイへ向かう。歩いても乗合馬車でも二日かかるので、ボッチ旅の野営の安全を考えて馬車での移動にする。


 冒険者と呼ばれる護衛を付けるので料金はお高めだ。ゲームでは普通に街から街まで歩き回っていたけど、リアルでは途中で寝なきゃいけないので無理は出来ない。女の子の一人旅なんて野盗に襲ってくださいと言っているようなものだ。

 

 馬車の持ち主の商人のおじさん夫婦と冒険者のおっさん二人組は親戚らしく、いつもこのメンツで乗合馬車を走らせているらしい。村と街の事、野営の仕方など色々な事を教えてもらった。皆とても優しくしてくれる。美少女特典だね。


 この世界は森が深く、空気が濃く感じる。道中は天気もよく、モンスターや野盗に襲われるという事もなかった。ナイヤチ村出身のおっさん二人組冒険者の出番はなしだ。


 第2の街ホウツイに着いた。門番はいるが、モンスターや明らかな犯罪者集団の襲撃でない限り、通行税さえ払えばそのまま通り抜けできるらしい。特におとがめ無しで街に入った。


 冒険者のおっさん二人組に聞いた所、酒場と買取所、武器防具屋、アイテム屋がまとまっていたゲームでもお馴染みのあの建物は冒険者ギルドの施設だったらしい。知らなかった。確かにそこの酔っぱらいからゲーム時代にクエストを貰ったこともある。 


 冒険者ギルドか。ラノベではよくあるが、魔王討伐の旅をするうえでは、俺もギルドに所属したほうが良いのかな? そう考えながら一人でギルドの中をウロウロと観察して回る。

 

「······!」


 なんだ?


 なんだか周囲がザワザワしてきたので俺もそちらを見る。


 そこでは若い男女が五人で言い争いをしていた。

 

 男二人女三人の内、偉そうな男が一人だけ少し離れた女一人に指をさし、叫んだ。


「はっきり言ってお前は足手まといなんだよ!」


 そう言われた女が「えっ」と小さく声を上げ、ビクッとしながら一歩下がる。


 男は言葉を続ける。


「いいか! 今日限りでエリー、お前を勇者パーティーから追放する!」


「そんな······今まで皆で頑張って来たのに······。アイス君、せめてちゃんとした理由を教えてよ······」


「そんな事もわからないからクビになるんだよ! いいか!? お前のジョブは吟遊詩人だ。戦闘時に役に立たないどころか、経験値だけはしっかりともっていく。そのくせステータスはとびきり低い。」


「そのとおりだけど······」


「そんな経験値泥棒のお前をパーティーに入れておいたって、足手まといどころか邪魔にしかならない。今までは幼馴染だから仲間に入れてやっていたが、もう限界だ。どうしても仲間のままでいたいのなら、街でのサポートメンバーになるんだな。俺が武勇伝を聞かせてやるぜ」


「そんな······」


  

『勇者』か、二周目以降で仲間にすることができるユニークジョブだな。1レベルの全ステータスの上げ幅が4.3という強ジョブだ。スキルも優秀なものが多い。しかし、馬鹿だなこいつは。吟遊詩人はちゃんと育成すればめっちゃ強いんだぞ。


 ジョブ✕第2職業で得たスキルの組み合わせで、どのジョブでもびっくりするほど強くなる。この組合せの妙こそが何周でもプレイしたくなる原動力だというに。この『ファンサ5』の世界でジョブ差別は許せんな。


 

「役立たずのお前を拾うやつなんかどこにもいないんだ。おとなしく俺の専属サポートにまわれ! それが嫌なら、もうお前の顔は見たくない! 早くどっかにいけ! 分かったな!?」


 「吟遊詩人が役にたたないだと? 吟遊詩人の人、そんな馬鹿げた事をいうやつとは縁を切って、俺とパーティを組もうぜ」 

 

『ファンサ5』の世界を愚弄ぐろうしたこのバカ勇者の発言を我慢し続けるのは無理があったな。大きな声で、つい本音をもらしてしまった。


 勇者パーティーの面々が誰が言ったんだ? とキョロキョロしている。


 群衆をかき分けて先頭に出た俺が吟遊詩人に向かってもう一度言う。


「俺だよ、俺が言ったんだ。ちょうど俺もソロだったんだ。俺とパーティーを組もうぜ」


「俺だとぉ? 誰が言ったのかと思えば、女じゃねえか。妙なしゃべり方しやがって。部外者はしゃしゃり出てくるんじゃねえ!」


 勇者が凄んできたが、関係ないね。


「吟遊詩人の人はもうあんた達のパーティから追放されたんだろ? つまりもうあんた達とは関係ない人だ。俺はこの人と話しているんだから、あんたこそ黙っててくれ。 吟遊詩人だなんて凄く良いジョブじゃないか。俺の仲間になってくれないか? あ、名前はなんていうの? 俺はルイ。ジョブはモンクだ」


「あ、えっとエリーです。その、声をかけてくれるのは嬉しいんですけど、私は多分足手まといですよ」


 エリーは水色のワンレンボブの髪がサラサラしてて綺麗だな。涼やかな切れ長の目が今は自信なさげに揺れ動いている。長いまつげから今にも涙が零れ落ちそうだ。素の顔はキリッとしたお姉さんタイプの美人さんだろうな。


「大丈夫大丈夫! 仲間になってくれるならレベルが低い間は俺が護るから。途中からは足手まといどころか君がいないと不安になる位になると思うし!」


「私がいないと不安になる······」


「そうそう、それぐらい吟遊詩人っていうジョブは良いジョブなんだよ! 是非俺の仲間になってよ!」


「おいおいおい〜! なに俺の事無視してくれちゃってんの!? モンクだと? 雑魚ジョブ同士なれあおうってか?」


 部外者の勇者Aが俺の勧誘の邪魔をしてきやがった。


「今大事なファーストコンタクトの最中なんだから、部外者は黙っててくれるかな。それにあんたらが知らないだけでモンクは最強ジョブの一角だぞ」


 しっしっというジェスチャーと共に勇者Aを追い払う俺。しかし、俺の言葉を聞いた勇者パーティの面々は、馬鹿笑いしてますます俺にうざ絡みしてきた。


「おいおい、モンクが最強ってまじかよ。最弱の間違いだろ。力はナイトに劣り、状態異常に激弱で常にマヒしてそこらに転がっている。唯一の取り柄の体力だけで死なずに生き延びてるようなジョブだろ」

 

「それはあんたらが、ものを知らないだけだ。事実として、俺は強い」


「はっ、力自慢か? おいゴライア、その生意気な女にナイトの力強さってやつを教えてやれよ」


 小手を外し、たくましい腕をこれでもかと見せつけてきたナイトのゴライア。鎧の上からでも全身の力強さが見て取れる。だがこの世界は、見た目の筋肉ではなくステータスがものを言うのだ。アクセサリー『むしめがね』の効果でお前らのレベルはバレてるんだぜ。


「どれおチビちゃん、力に自信があるんだろ? 手を出してみな」


 そう言いながらゴライアが両手をあげて手四つ力比べを挑んできた。いいだろう、相手してやんよ。カエル道場で破廉恥はれんちなめにあいながら鍛え上げた俺の力を見よ!


 俺とゴライアは手を組むとにらみ合い、お互い同時にフンッと力を入れた。


 手を潰される寸前までいったゴライアは、苦悶の表情で脂汗をしたたらせ、「ググゥ」とうめいている。フッ、文字通りレベルが違うのよ。今の俺のレベルは24だ。お前らは平均レベル15だろ? やる前からステータスの値によって、勝敗は決まっているのだ。


 ポイッと投げ捨てる感じでゴライアの手を振りほどく。金髪イケメンの勇者Aは驚愕きょうがくの表情で俺の顔を見た。そして魔法使いをけしかけてきた。


「こいつ俺らよりレベルが上だぞ! ローザ! 弱点をつけ! マヒだ!」


 つば広の先おれとんがり帽子をかぶった、見るからに黒魔道士然とした女黒魔道士ローザが、赤い巻き毛を振り乱し、状態異常魔法パラライズを唱えた。


 残念! 俺には効かないよん! 先に魔法で攻撃したのはそっちだからな。マンガでおなじみの手刀でトン、をして気絶させた。殺さないように加減するのが難しいね。ついでに一生に一度は言ってみたかったセリフも言ってみる。


「今何かしたか?」


「ば、バカな······モンクのくせに状態異常魔法が効かないなんて。ネ、ネア!」


「アイス様、これ以上はやめておきましょう。この距離では私にはなすすべがありません。無能の追放は終わりましたし、もう引き上げましょう。我々もレベルを上げるべきです。 あなたに一つ質問があります。何故あなたにはパラライズが効かなかったのでしょうか?」


 ネアと呼ばれた女白魔道士は青い髪の毛を震える手で撫で付けながら俺に聞いてきた。


「俺は何故か生まれつき状態異常が効かない体質なんだよ」


 こんな敵対的な奴らに本当の事を教える必要などない。適当にハッタリをかましておいた。


「そうですか」と答えた後、回復魔法でローザの気絶とゴライアの腕を治し、勇者を引き連れて帰って行った。ネアの方がリーダーっぽい貫禄があるな。


「で、どうだろう、エリー? 俺の仲間になってくれないかな」


「あなたに教われば吟遊詩人の私でもちゃんと強くなれるんですか? 私がいないと不安になる位って事は、私の事が必要って事ですか?」


「そうだよ。どんなジョブでも強くなれる。ハズレジョブと言われたモンクの俺があいつらを追い返したのがその証拠だよ。そして俺にはエリーが必要だ」


「その言葉、とても嬉しいです。これからよろしくお願いします」


 そう言って、ぽろりと涙を零しながら破顔したエリーの顔は、とても美しかった。



 

――――――――――――――――――――――


 第5話で第一章が終わりとなります。

 次章からは、エリーというツッコミ役をえて、ますますルイは大暴れしていきます。

  

「面白かった!」

「続きが気になる!」

「今後どうなるのっ・・・!」


と思っていただけましたら


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