第62話 超人

「ぎゃあああぁぁ!!」


 黒いモヤのようなものがネアの下腹から浮き出てきて、断末魔の声のような耳障りな音が聞こえ、その後霧散した。


 いや、あの声はネアのものだったのか!?


 勇者アイスの方は反対に分厚く黒いモヤに包まれてしまって姿が見えない。

  

 一体何が起こっているんだ!


 モヤがはれたネアの方はみるみる内に姿形が変貌していく。現れたその姿は、どう見ても人間ではなかった。


 顔は元のネアの面影が残ってはいるが、頭に捻じれ角が二本生えている。着ていた服は全て無くなって胸は露わとなり、そのサイズは先程までよりも更に一廻り大きなものとなっている。下半身も丸出しで、尻尾がフリフリ動くたびに、たまに影になるのみだった。


 背中にはコウモリのような羽がバサリと広がり、淫靡いんびでありながらも覇気溢れる姿だった。


「まさか、本性はサキュバスだったのか!?」


 俺の驚きの声は無視され、下腹に突き刺さった破邪の剣を引き抜くと、忌々しげに毒の沼地に放り投げた。


 ぶくぶくと沈んでいく破邪の剣。


「まったく! まさか、せっかく大魔王様にかけて頂いた完全人化の呪いを見破り、あまつさえ解くことができるなど······あの剣の破邪の力は異様ですね。毒で溶けてなくなってくれれば良いのですが」

 

『あーびっくりした! なんやせっかくのボインちゃんは魔物やったんか。呪いを解いたったのは損した気分やで』


 ひゅばっ! っと毒の沼地から飛び出してイーリアスの元へと飛んで行く破邪の剣はっつぁん。無事で良かった!


「アイス様が鉄仮面を装備するのには間に合ったので助かりましたね。二度と戻る事は無いと覚悟していたこの真の姿に戻れたのはある意味僥倖ぎょうこうとも言えますか。······なにを呆けているのですローザ?」


「ひっ!?」


「私ですよ。あなたの姉同然のネアです。アイス様がちゃんと仮面を付けてくださって良かったです。ほら、アイス様が生まれ変わる姿を間近でお祝いしませんと」


「きゃあー!?」

 

 言うが早いかローザの背後にまわり抱きかかえると、バサリと羽をはためかせて勇者アイスを覆う黒いモヤの方へと飛んで行った。


 俺達も後を追うようにして勇者アイスを取り巻く黒いモヤへと近付いて行く。

 

 黒いモヤが一気に中心へ吸い込まれていくようにして消えていく。黒いモヤの中からは、頭装備以外の武装は先程と同様であるが、見覚えのない赤黒い仮面を被った勇者アイスが現れた。


 離れているにもかかわらず、その全身から放たれる脈打つような強烈な波動を感じる。ゲーム知識を網羅している俺でさえ知らない、何かとんでもないことが起こってしまっているのをひしひしと感じた。


「ふうぅぅぅ······この全身を駆け巡る力はなんだ? 強大なエネルギーが常に湧いてきて、生まれ変わった気分だ」


「おめでとうございます。アイス様は鉄仮面との融合を果たし、見事に超人となられました。鉄仮面の魔の力とアイス様の持つ聖の力がアイス様の中で混ぜ合わさり、アイス様の身体自体が聖魔石同様の高エネルギー体として生まれ変わったのです」


「ネアか? お前の姿も変わってしまっているようだが?」


「我が真の名はネア=モースジード。大魔王デスジード様の影の集団『死影衆』の長の一人。またの名を『潜影』のモースジードと申します」


「大魔王の配下? よくわからんが一つだけ正直に答えろ。ネアに化けていた?」


 アイスの凄まじい殺気が、離れているこちらにまで届いてきた。ネアとローザが殺気に当てられて震えている。


「あぁ、なんと素敵な殺気。これに当てられるだけで興奮してしまいます······です。邪神様の予言により勇者誕生が予測できたので、エンダーランド王国の教会に三年前より潜入しておりました。この数ヶ月アイス様と旅をして来たのはこの私です」


「ならばいいだろう。だが俺は大魔王の部下になどならんぞ」


「それで結構です。大魔王デスジード様の望みは強大な力を持つ魔の者が新たに誕生する事。アイス様。アイス様は人種を超越して超人となられました。新たな魔王『超人魔王』として私達をお導きください」 


「魔王としてか······お前たちのようなものが大勢俺にかしずくのも悪くはないな。······だが断る!」 

  

「なぜでございましょう?」


「ふん、お前達は全員大魔王の紐付きなのだろう? そんな者達などお断りだ」


「ふふふ。流石はアイス様、毅然とした態度が素敵です。惚れ直しますね。大魔王様には気に入ったのならアイス様の元へと完全に移っても良いと言われております。今まで同様可愛がって頂けましたら幸いでございます」


「まあ良いだろう、ネアは特別だ。許す。······ローザお前も俺についてこい」


「勇者様······うちは勇者様の事が大好きです。例え勇者様の姿が変わっても、うちは一生ついていきます!」


「ああ、お前も俺の特別だ。俺から離れるなよ」


「ローザ、あなたはまだアイス様についていくには力不足です。ついてきたいならこれを飲みなさい」


 ネアがインベントリから瓶に入った透明な液体を取り出してローザに見せた。 


「これは?」


「アイス様から毎晩吸収して貯めておいたアイス様の『勇者の聖気』です。これに『闇のエキス』をブレンドして······はいできました。これを全て飲み干しなさい」


 手渡された瞬間を狙って、俺がスキル『けり』を放つ!


 みすみすパワーアップさせてたまるか!


 ドガガッ!


 勇者アイス、いや超人魔王アイスの回し蹴りと俺の『けり』が衝突した!


 くそっ!

 やはり駄目だったか!

 

 先程から、超人魔王アイスは一度も俺から視線を切っていない。


「もう少し大人しくしていろ、ルイ。お前とやり合うのは楽しみにしているんだ。下手に動くと先にこいつから始末するぞ? 武装化アームド!」


 超人魔王アイスの仮面から赤黒い光がアイスの剣と鎧に伸びていき、どちらも赤黒く染め上げる。


「むん!」


 ザザンッ!


「グアラァアァ!」


 アイスの斬撃が毒竜ファーヴニルの尻尾を容易く両断してしまった!


「大人しくしないと、次は邪竜の首だ」



 

 ――――――――――――――――――――――――――――


   あとがき

 

 全国100万人のネアファンの皆様!


 ネアの本性はなんとサキュバスでした!

 せっかくの推しが討伐対象で申し訳ございません!


 え!? ヒントが多すぎてバレバレでしたか!?


 おかしいなぁ。絶対に気付かれないと思ったのに・・・(´ε` )


 新たな魔王が誕生し、物語はいよいよ第二部のクライマックスに突入です! 引き続きご愛読いただけますと、作者は喜びでいっぱいであります∠(`・ω・´)


 

 スペシャルサンクス【吾妻藤四郎】様

 

 ネアの本名のモースジードは、コメント欄でお世話になっているカクトモさんの【吾妻藤四郎】様のアイデアです。コメント欄で面白い提案をしてくださりありがとうございます!


『死影衆』はその集団のトップに魔軍司令ミスドジード、潜影のモースジード、○○のマクドジード、○○のケンタジードの四人衆が君臨し、成り立っています。(ミスドジードは私が命名。元ネタは・・・わかりますよね?)



いつもお読みいただきありがとうございます! m(_ _)m

 

「面白かった!」

「続きが気になる!」

「今後どうなるのっ・・・!」


 と思っていただけましたら


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https://kakuyomu.jp/works/16818093077952549761


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 最後までお読みくださりありがとうございました!

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