第61話 白魔道士ネア
遠くに戦闘の光が目視できるようになってきた。やはりもう戦闘中か!
間に合ってくれよ!
「エリー調合を頼む!」
「はい! 『毒吸収薬』! 『浮遊薬』!」
『毒消し』と『マナポーション』を調合して『毒吸収薬』を、『浮遊石の粉』と『おとめのチッス』を調合して『浮遊薬』を創り出し、必要な者達に飲ませる。
「よし、毒竜ファーヴニルにエリクシルを使って回復させるのが第一目標だ! 皆頼むぞ!」
「はい!」「おう!」「「ぷえ〜!」」
ザックへの騎乗をイーリアスと交代し、ザックと共に天高く舞い上がる。
エリーとイーリアスはチョコを駆り、地上を爆走して派手に登場してもらう。
高く高く舞い上がると、上空から毒の沼地と化した聖地チャンティ湖の全容がはっきりと見える。チャンティ湖の輪郭はまるでドラゴンが翼を掲げたかのような姿をしており、その目の部分にファーヴニルの住む島があるのだ。
見えた!
勇者アイス、
毒竜ファーヴニルは血だらけで、息も絶え絶えといったところか。間に合うか!?
俺はザックに合図をして、太陽を背負う位置取りを維持したまま急降下する。時同じくして、チョコが後衛のローザとネアに向かって猛烈に接近して行く。
勇者パーティーの面々がチョコ、イーリアス、エリーに気付いたようだ。何と言っているかまでは分からないが、騒いでいるのが見て取れる。
勇者アイスと騎士ゴライアもチョコ達の方に視線を奪われている。
今だ!
ザックが急降下するスピードを更に上げた!
ぐんぐん毒竜ファーヴニルに近付くザック。まだ気付かれてはいない。このままファーヴニルに飛び移れるか!?
あっ! ゴライアが俺達に気付いた!
勇者アイスにも声をかけた事で二人共がこちらを警戒している!
「ザック!」
「ぷえっ!」
ザックが新スキル『チョコ羽フラッシュ』を目隠しと牽制攻撃として使った瞬間に、俺はファーヴニルに飛び移った。
ズダッ!
よし! 間髪入れずにエリクシルをファーヴニルにぶっかける!
ジュワー! と音を立ててファーヴニルの身体が回復していく。
よっしゃ! 間に合った! ちゃんと竜の巨体にもエリクシルが効いてるな!
ファーヴニルの背から、タイミングよく再び戻って来たザックの背へと飛び移る!
ザックとの阿吽の呼吸。相棒感が半端ない!
ザック〜! 大好きだぞ〜!
感謝を込めてザックの首筋をぽんぽんと、軽く叩くと「くえっ」と、ザックも短く応えてくれた。
「ルイ! 貴様なんという事をしてくれたのだ! 邪竜討伐まで後一歩というところまできていたというのに!」
「黙れ! お前こそ俺に負けてファーヴニル討伐は諦めたんじゃないのか!」
陣形を組むためエリー達の元へとザックが飛翔しながら、その背から勇者アイスと怒りの言葉の応酬だ。
「ローザ達が知恵比べでお前に勝ったから、俺達が討伐する事にお前も了承したと聞いたぞ!」
ぐぬぬ!
「了承などしていない! ローザとネアは俺に謝るふりをして、騙し討を仕掛けてきたんだよ! 何が知恵比べだ!」
「それも含めて知恵比べでしょうに。随分と早くこちらに来ましたね。一人のお風呂は寂しかったんですか? 寂しいからといって私を求めて毒の沼地で一緒に入浴したいなんてあきれますね」
ネアの奴が冷静ぶって俺を挑発してきやがる。とことんムカつくなこいつ! だが顔が引きつっているのがわかる。焦っているな。
「ゴライア! 毒竜ファーヴニルは絶対に殺しちゃ駄目なんた! 今だけでいい、俺達の味方についてくれ!」
「今は作戦行動中だ! いくら我が妻の頼みとはいえそれは聞けん!」
この野郎! イケメンな事言いやがって! 仲間だったら頼もしい発言だが、敵対してると憎らしい! 誰が妻だ誰が! 今こそ誘惑されてろよ! 胸でも見せればころっといくか!?
仲間達と合流した俺とザックはネアとローザを包囲する形だ。毒竜ファーヴニル、勇者アイスとゴライアとは少し距離ができている今のうちに、まずは魔道士二人を戦線離脱させてやるぜ!
『くっさ〜! 強烈な呪いの匂いがわし好みのボインちゃんからプンプン匂ってきとるで! 誰も気付いとらんなんて勇者パーティーも聖女パーティーも名前負けやな! しっかりせんかい!』
突然頭に響くこのおっさん声は『
勇者パーティーの面々も驚いているところを見ると、あいつらにも念話で話しかけているんだな!?
破邪の剣の柄頭の聖魔石が、白い光と黒い光をグルグルとかき混ぜるようにして輝き出した。それと共に
『イーリアスちょっと手を離してみい』
イーリアスが手を離すと、破邪の剣が、アピールするようにイーリアスの周りを飛び回る。
『どや! 儂も成長して自分で念動力で飛べるようになったんやで! ボインちゃん! 今儂が魔王級の呪いから解放したるさかいじっとしとれよ。下腹にぷすっと刺すけど痛くないから安心しぃ!』
呼ばれたボインちゃんは見るからに
「わ、私は今の状態が一番安定しているんです! 余計な事をしないでください!」
破邪の剣が
「ネア!」
「アイス様! 助けてください! 仮面の力を使って! 助けてアイス様! 殺される!」
仮面の力?
『大丈夫やで、怖いのは最初だけや! すぐに良くなるさかいおとなしく儂を受け入れるんや!』
「やめて!」
「ネア今助ける!」
勇者アイスがインベントリから何かを取り出して顔に取り付けた。
ヒュンと飛んで破邪の剣がネアの下腹に食い込んでいく。だが実体をもたない真紅の破邪の刀身のみ刺さり、実剣の部分の手前でピタリと止まっている。
「ぎゃあああぁぁ!!」
黒いモヤのようなものがネアの下腹から浮き出てきて、断末魔の声のような耳障りな音が聞こえ、その後霧散した。
いや、あの声はネアのものだったのか!?
勇者アイスの方は反対に分厚く黒いモヤに包まれてしまって姿が見えない。
一体何が起こっているんだ!
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