第60話 40秒で!

 宿の部屋に転がり込むように入った俺は、エリーとイーリアスの顔を見て安心して少しだけ気分が落ち着いた。


「あ、ルイちゃん遅かったね。そんなに慌ててどうかしたの?」


「悪い! 俺がヘマをしてしまった! のんびり説明する暇はないから今すぐ出発したい! 40秒で支度して! すぐにここを出よう! 詳しくは途中で説明する!」


 要領を得ない説明だったにも関わらず、二人はテキパキと出立の準備をしてくれた。持ち込んだ物を次々とインベントリへと放り込む二人。俺はその間にチャイナリボンを装備し直す。


「皆と別れてから三時間後という待ち合わせの時刻から、俺はどれだけ遅れたのかな?」


「三十分位かな?」


 俺の疑問にエリーが答えてくれた。


 という事は俺が公衆浴場に入って、丁度三時間位経過しているという事か。奴らになぶられて取り残されてからだとするとざっと二時間。


 一同そろって慌てて宿をチェックアウトし、チョコザに乗る。

 

 勇者パーティーは飛空艇の弐号機以降でここクシャルト大陸まで来たに違いない。そして飛空艇で直接このツジンシーハの街へ乗り付けて、直接この街から毒の沼地チャンティへ飛び立ったんだろう。


 毒の沼地チャンティのどこにファーヴニルがいるのか、ピンポイントで知っているのかどうか?


 俺達が飛空艇ミューズ号へと一旦戻って、飛空艇で直接毒の沼地に乗り付けるのと、チョコザでこのまま毒の沼地の毒竜ファーヴニルを目指すのとどちらが早い!?


 頭の中で地図を思い浮かべ、瞬時に計算してみたが、どちらもそう変わらないという結論に達した。ならばチョコザの脚を頼みにしよう!


「チョコ! ザック! 北へ全速力で進んでくれ! 頼む!」


「「ぷえ〜!!」」


 力強く応えてくれ、全速力で駆け出してくれるチョコとザック。


 奴らだって直ぐに出発できている訳では無いだろう。間に合うか!?


 いや、間に合ってくれ! 頼むぞ、チョコ、ザック!


 

「すまん皆! 万全を期すどころか、余計に疲れた状態で毒竜ファーヴニル戦、シーラとエリート帝国兵戦になってしまった! 勇者パーティーとも全面対決になるだろう!」


「私はハードな連続戦闘には慣れているから平気だぞ、そう気にするな。一体何があったんだ?」


 イーリアスが俺を落ち着かせながら、事態の推移を尋ねてくる。


「実は······カクカクシカジカで······」


 俺は先程の公衆浴場で起こった事を全て皆に話した。自分の間抜けさ加減を呪い、穴があったら入りたいくらいだ。

 

「ふ〜ん、なんだ、ルイは女の裸と胸に免疫が足りないんじゃないのか? 元男だと言っていたしな。また誰かに誘惑されないように、免疫つけたらどうだ? なんだったら朝のトレーニングの時に私の胸も揉んでいいぞ? 別に減るもんでもなし」


「キョニュウユルスマジ、キョニュウユルスマジ、キョニュウユルスマジ」

 

「い、いや、別にそんな事してもらわなくても大丈夫だよ! 裸とか胸にって訳じゃなくて、お詫びしたいとか、今後は仲良くしたいとか言われて、その気になってしまって、油断して成すがままになってしまったのがいけなかったんだ」


「キョニュウメッスベシ、キョニュウメッスベシ、キョニュウメッスベシ」


「ふむ、だが油断を誘ったのが裸なのは間違いないだろう?」


「ハイズルトキニ、ジャマダッタ、ワタシハソンナノカンジタコトナイ」


「裸なのはそうだけど、自分が一番優位な立場だと勘違いしてしまったから起こった油断だからさ」


「ネアハ、ルイチャンヲ、コロストイッタ、ゼッタイニ、モギトッテヤル、ゼッタイニ赦さない!!」


「おわっ!」


 後ろからエリーが涙を零しながら力いっぱい抱き締めてきた。


「ルイちゃん! ルイちゃんが生きててくれて良かった!」


「ああ······心配かけてごめんね」


も絶対に赦しません! 徹底的にやってやる! ルイちゃん、今の状況に合わせた作戦会議だよ!」


「ああ! まずは前もって話していた通り、エリーの調合で状態異常無効の装備が無いエリー、チョコ、ザックに毒吸収状態を付与する。そして同じく調合で、毒の沼地での戦闘で不利にならないように、浮遊状態をザック以外の全員に付与する。ここまでは一緒だ」


 エリーが力強く頷く。


「おそらくすでに勇者パーティーと毒竜ファーヴニルは戦闘中だろう。俺達がファーヴニルと会敵したら、まずは勇者パーティーの妨害を掻い潜って俺がザックに乗って空から接近してエリクシルをファーヴニルに使って回復させる。その間の勇者パーティーの対応は皆に任せる」


 一同がそろって頷く。


「毒竜ファーヴニルを回復させた後は、勇者パーティーを含めた三つ巴の戦いになるだろう。だがそこでは俺達は勇者パーティーとのみ戦う事にする。ファーヴニルも俺達に攻撃して来るだろうが放置だ。勇者パーティーの完全制圧を果たさなければ毒竜の呪いを解くなど、できっこないからな」


「毒竜ファーヴニルはやりたい放題だと辛いね」


「そうだね、伝説の竜の相手をするのに牽制程度で済まさなきゃいけない状況はかなり辛い。俺のミスですまない。だが、後の魔竜王の事を知っている俺達がやり遂げるしかない」  

  

「ルイちゃんが悪いんじゃなくて、悪いのは達勇者パーティーだから謝らないで。むしろ私の方こそ元パーティーメンバーがごめんなさい」


「二人共、謝り合うのはそれぐらいにしておくんだな。今から毒竜を含めた全員をぶちのめせば済む話だ。そう気に病むな。それよりもだな。勇者パーティーはどこまでやっていいのだ? 戦闘不能に追い込むまでか? それ以上か?」


 ひゅっ、とエリーが息を呑むのがわかった。

 

「イーリアスさん······もしもの時はイーリアスさんの判断で私は構いません」


「そうか。まあ、できるだけそうならないように対処しよう。奴らもなにか対策はしているかもしれないから、ひん剥いて『カエル』にしてやれば済むだろう?」


 イーリアスがにやりとしてエリーに目配せをする。


 イーリアスは優しいね。



 

 遠くに戦闘の光が目視できるようになってきた。やはりもう戦闘中か!


 間に合ってくれよ! 



 

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