第59話 甘い罠
「・・・・・」
かすかに聴こえた!
やられた!
パラライズだ!
体が動かせない!
「さてどうしましょうローザ? 殺しますか?」
やばい!
声は聞こえるし目も見えるが、指一本動かせない!
「殺すって、ネア物騒っしょ。うちはやんないし。勝手に殺したりしたらゴライアだけじゃなくて勇者様も絶対怒るし! 勇者様はなんかこの女を自分で叩きのめすのを目標にしてるっぽいし」
「それもそうですね。アイス様にはもっと強くなってもらわないといけませんからね。目標は大事です」
「でも······」
そう言って体勢を変えて馬乗りになってきたローザの顔が邪悪にゆがむ。
「生れ付き状態異常が効かないなんて嘘だったっしょ。やっぱりうちのパラライズ効いたし〜♪ 裸になればモンクはやっぱり雑魚ジョブだったっしょ。これはさっきの勇者様が殴られた分の恨み!」
バシっ!
コノヤロっ! 思いっきりビンタしてきやがった!
「これは初めてあった時に気絶させられて恥をかかされた時の恨み! カエルにされて何度もグリグリされた時の恨み!」
ばしっ! バシバシバシバシバシ!!!!!
「勇者様に目標になんかされやがって!」
バシバシバシバシバシ!!!!!
「なまいき!」
ばしっ!!
「ふ〜。ちょっとだけスッキリしたけど、私がひっぱたいても全然効いてないっぽいから、やっぱりムカつくっしょ。ゴリラモンクと違って私は非力だし?」
「ローザ、それなら良い方法が有りますよ。さっきルイは邪竜を救けたいとか言っていましたよね。当初の予定通り邪竜を討伐しに行くのはどうですか? ルイから今度はこちらが奪ってやるのです。永遠に」
馬鹿! やめろ!
「あ〜、それは名案っしょ! 流石はネア! 性悪な考えは人一倍うまいし!」
「ふふふ、それは褒めていませんね、ローザ。安心してくださいルイ。あなたがのんびりとお風呂に入れるように、この施設の者にはお金を渡して三日間位貸し切りにしておいてあげますから。ステータスの精神が低いモンクのあなたが知性を上げまくっているローザのパラライズを自力で解けるのはいつになるでしょうね」
ふざけんな!!
「ばいば〜い」
まて!
「ではごゆっくり」
ファーヴニルは殺しちゃだめだ!
おい! 戻ってこい! ムカつくんなら俺のことを好きなだけ引っ叩いていいから! 戻ってこい!
くそっ!
完全に油断した!
現実となった世界では、装備していなければ武具の特殊効果は得られない。
宮本武蔵の風呂嫌いの逸話のように、完璧な警戒をするべきだった!
せめてもの救いは俺の専用装備になっているチャイナリボンが、俺から外された瞬間に登録者たる俺のインベントリに転送されたことか。専用装備でなかったら持ち逃げされたり、破損されたりする可能性もあった。
いや、そんなことよりも早く麻痺を解かなければ!
今でいったいどれだけの時間が過ぎたんだ!?
体内時計も狂っていて全く分からない!
麻痺状態のままではインベントリのアイテムは使えないし、スキルの『チャクラ』も『治療』も使えない。
馬鹿にされていた俺のステータスの精神の値だが、転職を経て今はチリツモで105もある。ギリギリではあるが、三桁は決して低い値ではない。見くびったな!
さっき外で見たローザのレベルは65だった。レベルアップのステータス1ポイントを知性に全振りしているとして、奴の知性はおそらく64✕4.5+10+64=362だ!
約1∶3.5! 必中でパラライズにかかってしまうのは仕方が無いとしても、三日もこんな所で転がっていてたまるか!
ぐおおおー!
ステータス『精神』仕事しろ!
気合だ! 気合だ! 気合いだ〜!!
おおっ! 人差し指が一本だけ動いた!
この調子で全身動け!
まだ動かない!
くそっ! アイテムは!? スキルは!?
まだ使えない!
どうする、これじゃダイイングメッセージすら書けないぞ!
いや!
指一本動くなら、やったらぁ!
俺の指筋と力の高ステータスを舐めるなよ!!
人差し指のみで仰向けからうつ伏せになると、尺取り虫のような指の動きのみで勢いをつけて、一回に一メートル程体を引きずる事に成功した。
よし、ナイス俺の指筋!
キュートなおケツまるだしで少しずつ、這っていく俺。さぞかし間抜けな姿だろう。実際こうなってしまった過程が間抜けだったし、仕方ない!
くそっ! 這いずって行くには胸が邪魔くさい!
この胸がなければ、一メートルどころか二メートル位進めたかもしれないのに!
全てにイライラしてしまう!
一番イライラするのは間抜けな自分にだ!!
ザックまでたどり着ければ、直ちにスキル『チョコスナー』で麻痺を解いてくれるはずだ!
大通りで誰におケツを見られようと構うものか!
ザック〜!!
ちくしょうっ!
早くしないとファーヴニルが殺されてしまうのにもどかしい!
「あっ!? お客様!? 何をなさっているのですか!? 大丈夫ですか!?」
廊下で女性店員さんが俺の事を見付けてくれた!
店員さん! 頼む! 麻痺を解いてくれ!
俺の様子が只事でないのを察した店員さんが、急いで万能薬を救護室に取りに行ってくれ、その後俺に使用してくれた。
ピクッ!
動く!
飛び起きた俺は直ちにチャクラを使い、自らの傷を治す。インベントリから下着とチャイナドレスと靴を取り出すとすぐに身に着ける。リボンは少しだけ時間がかかるから後回しだ! 今は一刻を争う!
「店員さんありがとう! これ、迷惑料も込みで払うから受け取って!」
あたふたしている店員さんに無理矢理万能薬の相場の10倍程を魔道具決済で送り付けると、外へと飛び出した!
「ザックぅ!!」
俺の大声を聞き付けたザックがすぐさま飛んできてくれた。
「全速力で宿に向かってくれ!」
言われたザックがすぐに飛び立つ!
頼もしいよザック!
「あのっ! ビッチ共! 覚えてやがれ!!」
怒りを堪えきれず、ザックの上で俺は吼えた。
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