第63話 新たな魔王と仲間たち

 超人魔王となったアイスの斬撃が毒竜ファーヴニルの尻尾を容易く両断してしまった!


「大人しくしないと、次は邪竜の首だ」


 俺達の目的がファーヴニルの保護だとわかったうえでの人質か!?


 毒竜ファーヴニルの切断された尻尾がぶくぶくと泡を零しながらくっついていく。良かった! さっきエリクシルでHP・MP共に全回復させたので、竜種の高い生命力でMPを消費して大抵の傷は再生してくれるはずだ。


 だが、さすがに首を落とされればファーヴニルも死んでしまうだろう。勇者パーティーの変貌を黙って見届けるしかないのか!?


 ローザが改めて、受け取った瓶を見つめていたが、意を決したように目をとじると一息に飲み干した。


 ローザの胃の辺りから赤い光が全身に広がり、元々は朱色に近い明るい赤だった髪の色がどす黒い赤に変色していく。

 

「ああああぁぁぁ! マナが! マナが溢れてくる!」


 ローザの口や全身から何か薄いモヤのようなものが溢れてきていた。


「それは言うなれば、『疑似超人薬』です。毎日飲んで身体に定着させると良いでしょう」

 

「ネア、お前いつの間に俺からそんなものを吸収していたんだ? 他にもなにかやっていたんじゃないだろうな?」


「ふふふ、アイス様が寝ている間にこっそりと······他といえば、理性のが緩む術をかけさせていただいていました。アイス様には思いのままに生きて欲しかったものですから」


「もう余計な事をするなよ? 俺に何かするのを感知したら、たとえお前でも消すぞ?」

 

「ええ、もちろんです。もう望みは達成されましたから」


 ふふふ、とネアが妖艶に笑っている。全部思い通りに事が運んでご満悦か。ムカつくな。さっきの風呂場の事もあるし、ぶっ飛ばしてやりたい衝動がふつふつと湧いてくる。


「ゴライア、お前も俺と共に来い」


「アイスよ······お前はそれでいいのか!? 魔王軍にいいように弄ばれているだけではないか! 例え力を得たとて、そのような借り物の力で悦に浸るなどお前らしくないぞ!」


「ふっ、お前も筋トレ馬鹿だから少しはわかるだろう? 力こそが全てなのだ! もはや経緯などどうでもいい! 全てをねじ伏せる圧倒的な力を俺は手に入れたのだ! 強大な壁だと思っていたルイをもねじ伏せる力をな!」


「言ってもわからんやつだな! 今のお前は美しくないぞ! この俺が友として正しい筋肉道みちへと戻してやる! アイスよ! その不気味な仮面を今すぐ外すのだ!」


「お前こそ言ってもわからんようだな。今の俺とお前では実力に圧倒的な開きがある。俺と共に来る気がないのなら、大人しくこの場を去れ。俺はお前を殺したくはない」


「何をいうか! 友を見捨てて逃げるなど俺の筋肉道みちに反する! 俺を追い返したければ力尽くでやってみ、グフッ!!」


 ゴゴンッ!


 速い! 俺の目でも追うのが精一杯の動きでゴライアに接近し、ぶん殴りやがった!


「どうだ、力の差がわかったか?」


「ゴライア!」


 俺の方へと吹っ飛んで来たゴライアをキャッチして、チャクラで回復してやる。


「すまん、我が妻よ、助かったぞ。アイスよ! まだまだ足りんな! 騎士ナイトの守備力を軽く見すぎではないのか!?」


 いや、本当に大丈夫か? 一瞬目の焦点があってなかったぞ。あとお前の妻じゃねーし!


「仕方ない······か。エリーお前にも一応聞いておこうか。どうだ? 俺の圧倒的力を見ただろう? 俺と共に来ないか?」


「アイス君······ゴライア君の言う通りだよ! 今のアイス君は新しいおもちゃを与えられて、はしゃいでる子供と同じだよ! お願いだから力に振り回されないで、その仮面を外して!」


「ふぅ。やはりエリー、お前には分からないか。この力の素晴らしさが。お前たちを全員ボロ雑巾のようにしてやれば、ゴライアもエリーも少しはこの力の素晴らしさがわかるか?」


「アァ〜ハッハッハ! ゴライア、エリーあなた達は愚かですね。その仮面を外せばアイス様が元に戻るとでも!? 無駄ですよ。一度装備したらその仮面は外れません。その仮面はアイス様の魂と融合していますからね。すでにアイス様は超人へと進化を遂げています。不可逆なのですよ」


 ネアの嘲笑を聞いたゴライアとエリーの顔が引きつる。俺の顔もきっと同じ表情をしているのだろう。まじか!? 力付くで引っ剥がす事は出来ないのか!?


 そうだ!


「おい、破邪の剣はっつぁんお前の出番だぞ! あの仮面の呪いをなんとかしてくれ!」


『あ〜、無理やな。あれはあかんわ。お前達には見えへんか? 呪いがこんがらがった糸みたいに複雑に魂と絡み合っとる。無理矢理呪いを断ち切ったら、良くて廃人、下手すりゃ魂に傷がついて勇者は即死やな』


「なに!? 破邪の剣はっつぁんでも無理なのか!?」


『そうやなぁ、何日もかけて呪いの糸を一本一本順番に断ち切っていけば、あるいは勇者は死なずに済むかもしれへんけど、それでも廃人コースを免れるのは厳しいかもなぁ。それに何日もあいつが大人しくしとってくれるとは思えへんしなぁ』


 超人魔王アイスを穏便に倒す一番良いと思われた方法は、実質不可能ということか!


 これはぬるい事を考えず、こちらも覚悟を決める必要があるみたいだな。さっきの動きを見るに奴のステータスは俺より格上だろうな。どう戦っていくべきか······


「お前達の相談も終わったか? それではいよいよお楽しみの時間だ! ネア! ローザ! お前達はルイ以外の相手をしてやれ。ゴライアとエリーは一応殺すなよ。それ以外は殺して構わん。ルイはこっちにこい! 俺とタイマンだ。あぁ、お前の相棒のチョコザも一緒でも構わんぞ? 長く楽しむ為に、それ位のハンデはやろう」 


 舐めプか。


 まあ舐めきっててくれた方が活路はあるからな。最後までそのままでいてくれよ。と、その前に。


「エリー! ・・・・・・」


 思いついた作戦を素早くエリーに耳打ちし、俺はザックと共に再びアイスと向かい合う。


「グルゥアアアァァァ!!」


 くしくも、怒れる毒竜ファーヴニルの咆哮が闘いのゴングとなった。

 

 

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