第49話 魔竜王

 マーダ神殿へと向かう飛空艇ミューズ号の船室で、新たに仲間に加えたいと思っている幼女について熱く語っていた俺だったが、エリーがはらはらと涙を流すのを見て、一旦話を止めた。


「その子の名前はなんて言うの?」


「竜王(幼生体)シーラだよ。この話にはまだ続きが有るんだ。ジョアーク帝国の皇帝コムゲーンはただ単に役に立つ強力で便利な駒としか思っていないけど、大魔王デスジードの思惑は違う」


 吟遊詩人エリー、暗黒剣士ダークナイトイーリアス、星読みの姫巫女カサンドラ、チョコザのチョコとザックと、仲間達みんなの視線を集めて再び俺は語りだす。


「大魔王の狙いとは新たな魔王の誕生だ。奴の作戦では、毒竜となったファーヴニルをその子供であるシーラの目の前で人間に殺させる事にあるんだ。親が殺されるところを操られながらも目撃したシーラは、数十年後に操りの首輪の支配よりも強力に成長して、遂に自我を取り戻す」


「その時に残っている想いとは、無惨に人間に殺された親の事、くだらない人間同士の争いに毎日のように駆り出され、敵対する人をその手で殺し続けた事だ。これによりシーラは完全に人類と敵対し、最強の魔竜王としてこの世界に君臨する」


 実はシーラは『ファンサ1』のラスボス、魔竜王の正体なんだよな。俺は前世でまだ生まれていなかったからリアルタイムでは体験していないけど、強すぎるラスボスとして有名だったそうだ。


 プレイヤーが中々勝てなくて、それがむしろクリアしがいがあって面白いと評判となり、ソフトが売れまくったそうだ。お陰で今ではシリーズ化して10を遥かに超えるタイトルとなっている。その数あるタイトルの中で俺が一番好きなのが今いるこの世界と同じ『ファンサ5』だ。


 ファンサシリーズの人気を不動のものとしたのが、今は竜王(幼生体)であるシーラなのだ。


 そこまで人気のキャラが出てくるなら、仲間にしたいと思わないプレイヤー等いない! 


 そんな皆の熱望するシーラが、リマスター版では二週目プレイ以降では仲間にする事が出来るのだ!


 もちろんそれには条件が有る。一つ目は何があっても毒竜と化したファーヴニルを殺さない事。


 二つ目は、シーラと接触できる唯一の機会である毒竜討伐イベントの時にパーティーを分けて、近くの山からファーヴニルが殺されるところを見せられているシーラを、護衛兼監視員のエリート帝国兵スモルズとウッドから救出する事だ。


 これが中々難しいのだ。この情報を仕入れてから何度も失敗しては再チャレンジして遂に竜王(幼生体)シーラを仲間にできた時は、本気まじで涙が出てきた程だ。


 シーラのジョブ竜王(幼生体)は白魔法、黒魔法、召喚魔法、時空魔法、更には青魔法を使えるという、『ファンサ3』の『賢者』以上の究極の魔道士系だ。おまけにフィジカルもかなり強いという、弱点無しのバランスブレイカーな存在なのだ。

 

 ちなみにデスジードは魔竜王と化したシーラを、本来なら自分が取り込んでより強くなるつもりだったみたいだが、残念ながらその時よりも何十年か前に『ファンサ5』の主人公達に倒されてしまっており、そこだけは計画通りには上手く運べなかった。


 現実の世界となった今回も、仲間達の犠牲などなくすんなりと俺に倒されて『性転換薬』をドロップしてくれればいいのだが······




 気付いたら長々と熱い想いを語ってしまったようだ。イーリアスとカサンドラは俺のマシンガントークにポカーンとしているし、エリーは苦笑している。飛空艇の船室にようやく静けさが戻ると、イーリアスが聞いてきた。


「エリー、ルイはいつもこんな感じなのか?」


「いつもではないけど、イーリアスさんを仲間にしたいって語る時も凄かったですよ。延々とイーリアスさんを褒めちぎって、どうしても仲間にしたいって熱く語っていました」


 エリーの返答を聞いたイーリアスは、ほんのりと顔を赤くして照れているようだ。カサンドラも微笑んでいる。




 窓の外に陸地が見えてきた。


 いよいよ初の浮遊大陸以外の大陸に到着だ。南に横たわる巨大な大陸の名前は『アラーユ大陸』。


 今目指しているマーダ神殿のあるマーダ地方は高地にある為、飛空艇の横付けは出来ない。数時間だが歩く事になる。俺達はチョコザで移動するのでその時間も短縮できるのだが。


 外の世界の実際の世界情勢がわからないので、マーダ神殿には転職をする俺とエリー、そして帰りの護衛としてイーリアスの三人プラスチョコとザックといういつものパーティーメンバーで行く事にした。


 マーダ神殿にもっとも近付いた所で飛空艇ミューズ号を着陸させて俺達パーティーを降ろしてもらう。安全の為に飛空艇ミューズ号にはこの後は上空で待機していてもらおう。


 さあいよいよ新大陸にやってきたぞ!

 

 お願いだからすんなりと転職させてくれよ!


 

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