第ニ章 仲間をもとめて
第48話 熱い想い、再び!
昔々、北西にあるクシャルト大陸の聖地チャンティ湖に偉大なる竜がいた。
その竜の名は聖竜王ファーヴニル。
聖竜王ファーヴニルは遥か昔に、一人の清らかな人間の乙女と心を通わせて以来、人間に知恵を授けてくれる賢竜とも言われ、数多の竜を束ねる存在でもあった。
ある時、魔王デスジードが聖竜王ファーヴニルの持つ力を奪い取らんと、チャンティ湖にやって来た。
力を求めて来た魔王デスジードに対して、聖竜王ファーヴニルは初めは諌めようとしたが、魔王デスジードは話しを全く聞かず、遂には戦闘となった。
だが魔王デスジードの攻撃は聖竜王ファーヴニルにろくに通らず、丸一日の激闘の末に、力不足を悟った魔王デスジードは突如逃げ出した。
聖竜王ファーヴニルは魔王デスジードを無理に追うことはせずに、荒れた聖地チャンティ湖の修復に力を注いだ。
一方、魔王デスジードは、聖竜王ファーヴニルから力を奪うには時期尚早であったと、己の力を高める特訓をしつつ世界中を回って力を付けようとした。
ある時、水の
七日七晩に及ぶ激闘の末、聖竜王ファーヴニルと互角に近い力を得た事を確信した魔王デスジードであったが、『
魔王デスジードは、力の源泉を大輝石の分身体に求めて世界中を周り、土、火、風の分身体から力を取り込む事に成功した。
だが自分の力が増した事によって、聖竜王ファーヴニルが前回の闘いの時にはまだ余力を残していた事を察してしまった。
そこで魔王デスジードは三度闘いを挑む事はせずに、確実に勝つ為に己の支配領域を強化し、吸収した大輝石の分身体の力の効果的な活用法の研究に没頭した。
月日は巡り魔王デスジードを討伐せんと、人間の勇者コムゲーン=ジョアークが魔王城の玉座に座る魔王デスジードの元までやって来た。
魔王デスジードは勇者コムゲーンの力が、自分には及ばぬ事を明確に察知し、この勇者をどうしたものかと考えたところ妙案を思い付いた。
「勇者コムゲーンよ、数多の困難を乗り越えよくぞわが元に辿り着いた。褒美をやろう。お前に世界の半分をくれてやろう、我が仲間となれ」
勇者コムゲーンは、魔王デスジードの圧倒的な力を感じ取り、世界の半分をもらい魔王デスジードの軍門に下る事にした。
「勇者コムゲーンよ我が不老の力を分け与えてやろう。これを身に付けるのだ」
勇者コムゲーンは不老の力を求めて首飾りを装備すると、勇者の心臓の幻影が魔王デスジードの手元に吸い寄せられていった。
「ファファファ、お前の命は文字通り我の手の内に有る」
魔王が勇者の心臓の幻影を強く握ると勇者は苦しみだした。
「だが案ずるな、約束通り世界の半分はお前に与えよう。だがその前にやる事がある。お前はこれから聖竜王ファーヴニルに我を打倒する為の助力を
話の見えない勇者に更に魔王は秘策を語る。
「我とファーヴニルの闘いは熾烈なものとなろう。だがすんなり決着が付くとは思えん。傷を負ったファーヴニルにこれを飲ませるのだ」
「これは?」
「回復薬だ、特製のな。ファファファ! では行くがよい、我はここで待っておるぞ」
生命を人質に取られた勇者コムゲーンは、指示通り聖地チャンティ湖の聖竜王ファーヴニルのもとに向かい、言葉を尽くして共に魔王デスジードを打倒する事に力を貸してもらうことを願い出た。
聖竜王ファーヴニルは魔王デスジードの力が増大している事を捨て置けないと判断し、どこか、かの乙女の面影を持つ勇者コムゲーンを背に乗せ魔王城へと突入した。
魔王デスジードの予想通り、魔王と聖竜王の闘いは真に互角の争いとなり、勇者の存在がある分、聖竜王の方が優勢となった。闘いの中で大きな傷を負った聖竜王に、例の回復薬を提供した勇者に感謝して聖竜王は回復薬を飲んだ。
特製の回復薬の効果は強力な毒の呪いだった。聖竜王ファーヴニル自身をも侵す猛毒の呪いにより、自身も周囲も灼き尽くす毒竜へと変貌を遂げた。
聖竜王ファーヴニルは、かろうじて残った理性により、残された力を振り絞って魔王デスジードの取り込んだ四つの大輝石の力をオーバーフローさせ、魔王を深淵へと封印する事に成功した。
魔王の持つ大輝石の力を利用して、魔王本人は決して深淵から出てこれないようにしたのだ。
封印に成功した聖竜王ファーヴニルは呪いの毒を浄化する為、直ちに聖地チャンティ湖へと向った。その時、勇者に構う余裕はファーヴニルにはなかった。
それから百年が経過し、深淵より指示を出す大魔王デスジードの協力もあり、勇者コムゲーンは平民の生まれながら、一代にして北の二つの大陸を席巻するジョアーク帝国をうちたてた。
コムゲーン帝は不老で寿命が無い為、この後何処まで力を伸ばしていくかは誰にも分からない。
一方、聖竜王ファーヴニルは聖地チャンティ湖を徐々に毒の沼地へを変貌させながら、力も理性も失っていっていた。聖地と聖竜王自身の回復させる力より毒の呪いの方が強かったのだ。
このままではまずいと感じた聖竜王ファーヴニルは、理性が完全に消える前に、新たな体を産み落とし、そこに聖なる力を移すことを考えた。
最後の力を振り絞り、在りし日の清らかな人間の乙女に似た、幼子の姿をした分身体を産み落とし、聖なる力を次代に繋げることに成功したファーヴニル。だが自身は完全な毒竜へと成り果ててしまった。
そして希望を託して産み落とした聖竜王の幼子は、後にジョアーク帝国皇帝コムゲーンに発見され、まだ力を使いこなせない内に、直ちに操りの首輪を付けられて精神を封じ込められ帝国の奴隷と化した。
意識はあるが、そこに意思の光は一切感じる事が出来ない文字通りの操り人形だ。
「俺はその子と、毒竜へと変貌を遂げたファーヴニルを助けてあげたい」
マーダ神殿へと向かう飛空艇の中で、新たに仲間に加えたいと思っている幼女について熱く語っていた俺だったが、エリーがはらはらと涙を流すのを見て、一旦話を止めた。
「その子の名前はなんて言うの?」
「竜王(幼生体)シーラだよ」
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