第69話 エリート帝国兵

 仲間たちと別れ、空飛ぶ黒チョコザ、ザックに乗って元聖地チャンティ湖、現在の毒の沼地チャンティの西にある山へと、俺は飛ぶ。


 ファンサシリーズの人気を不動のものとした、今はまだ『竜王(幼生体)』であるシーラにもうすぐ会える。そう思うと、俺の中の熱い想いが溢れてくる。


 シーラを仲間にする為にはいくつか条件が有る。


 条件その一、何があっても毒竜と化したファーヴニルを殺さない事。これは邪魔立てをしてくる者がいなくなった今、耐毒効果を失いさえしなければ達成できるだろう。


 条件その二は、シーラと接触できる唯一の機会である今、この機会を逃さない事。


 条件その三は、『操りの首輪』で完全な精神支配を受け、文字通り帝国の操り人形となっているシーラを、護衛兼監視員のエリート帝国兵スモルズとウッドから救出する事だ。


 シーラを含む三人の特殊戦闘員が、帝国の決戦兵器である、前世でのパワードスーツに似たオーパーツ装備で待ち構えているはずだ。


 もっともスモルズとウッドにしてみれば、待ち構えているというよりも、毒竜討伐観戦をしていたら、突然俺に殴り込みをかけられる感じなのだろうが。


 奴らとの戦闘では特に各種レーザー攻撃には注意が必要だ。超人魔王アイスの『ブラッディスクリュード』程の防御無視の貫通攻撃とまではいかないが、レーザーにはこちらの防御力に関わり無く固定ダメージを与える効果があったはずだ。


 そして奴らの緻密で流れるような連携から繰り出される、『ジェットスクリームアタック』も要注意だ。多段攻撃で容赦なくこちらのHPをゴリゴリと削ってくる。


 それらの対策を再度ザックと共有していると、山の見晴らしの良い崖の上空へと到着した。


 奴らには既に捕捉されているのだろうか?


 それなら堂々と目の前に登場してやるか。ちょうどシーラ達の目の前に出るように、上空で待機したザックから飛び降りた。こんな事が出来るのもステータスで身体が強化されるこの世界のおかげだな。


 ドドン!


 けたたましい着地音をたてて、俺はシーラの目の前へと登場する。精神を操られていて感情の無いシーラに対して、意味が有るのか無いのか分からないが、少しでも感情を揺さぶりたいものだ。


 着地の時の煙が晴れると俺の前に『竜王(幼生体)』シーラがいた。


 うおお!


 生シーラだ!

 可愛い!


 ゲーム以来だな!

 か、感動の再会!


 ······俺が派手に登場したというのに、シーラは視点が遠くに定まったままの全くの無表情だ。


 ゲームのシナリオ由来だとはいえ、こんな幼い子供に酷いことをしやがる。


「な、何者だ! 突然どこから現れた!」


 どちらがスモルズでどちらがウッドかは分からないが、エリート帝国兵が俺へと詰問した。


 あれ? 俺の事は捕捉して無かったのかな?


 失敗したな、それなら先制攻撃すれば良かった。 


 まぁ良いや、今更だ。俺は用意していたゲームのセリフをシーラに向かって言う。

 

「こんにちは、泥棒です。その首輪で操られているんだね、シーラ。可哀想に。今俺が帝国から盗み出してあげるからね」 


「なぜその事を知っている!」


 慌てたエリート帝国兵が、何やら腰の装置を手にとっていじり、喋り始めた。


「メーデー! メーデー! 黒髪黒目の泥棒シーフを名乗る若い女が『生体兵器シーラ』を強奪しようとしています。身体的特徴は······」


 何だそれは!? 通信装置か? これはゲームに無かった!


 少し焦ってしまったが、あらかじめ用意していたアイテム『雷神の怒り』を帝国兵に向かって投げ付ける。『雷神の怒り』は雷系上級魔法と同じ効果が発生するものだ。


 ピカッ! ドガン!


 雷のエフェクトを発生させてエリート帝国兵二人に上級電魔法が襲いかかる!


「「うおっ!」」


 この手の機械装備っぽい敵には『雷』というのがお約束なのだが、奴らの全身を覆うオーパーツ装備に散らされて、ゲームとは違いどうやら本体にはダメージが入っていないようだ。


「メーデー! メーデー! 応答せよ!」


 しかし、通信装置は壊せたみたいだな。


「くそっ! 何者かはわからんが、我らの秘密を知るものはここで死んでおけ! シーラやれ!」


 ヴンッ!


 オーパーツ装備で強化されたシーラが凄まじい貫手を繰り出してきた!


 流石は未来の最強ボス! 現在は幼生体でありながらも装備と相まって凄い身体能力だ! だがまだ俺に比べたらレベルが低く、素早さの勝る俺には単体攻撃じゃ当たらないぜ!


 シーラにはできるだけ攻撃はしたくない。


 俺はシーラの連続攻撃をかわして、エリート帝国兵二人の方に突っ込んだ。帝国兵の片方に怒涛の八連撃パンチを浴びせる!


 ドドドド・ドドドド!


「ぐはっ!」


 更に帝国兵に追い討ちをかけようとした所で、後ろからシーラが発したファイアレーザーが俺の背中に当たった!


「ぐっ!」


 かなりのダメージが入ってしまったが、俺のHPを削りきるにはまだまだ足りないな!


 ドドドド・ドドドド!

 

 俺は構わずもう一人にも怒涛の八連撃パンチをお見舞いした。


 時間を稼いだシーラが敵の元まで駆け付け、シーラを先頭に三体で陣形を組みだした。


「ザック!」


 俺の合図で奴らの後方からザックの『チョコリュードライバー』が迫るのと、奴らの三身一体の連続攻撃『ジェットスクリームアタック』が繰り出されるのはほぼ同時だった。


「はっ!」


 俺は先頭のシーラの攻撃をカウンターの応用で遠くに投げ飛ばし、続くスモルズとウッドの二人に対して蓋をする様に連続パンチの弾幕を張った!


 前門の俺、後門のザック。


 二人の帝国兵が、後方から無情にも迫ってきたチョコリュードライバーに貫かれる!


「「ぎゃああぁぁぁ!」」


 倒れ伏した帝国兵に俺がとどめの追い討ちをかけようとすると、二人が命乞いを始めた。


「ま、待て! 待ってくれ! 頼む見逃してくれ!」


「じゃあ先ずはシーラに『全ての行動を停止しろ』と命令しろ」


「わ、わかった! シーラ! 全ての行動を停止しろ!」


「よし、お前ら命乞いをしたいみたいだが、俺は悪人を助けてやるほどお人好しじゃない。人の皮を被った獣はモンスターと同じだ。お前ら自らの善行には自信があるか?」


「あ、ある! 正直に言おう! 戦争や任務で人を殺した事は有る! だが善良な一般人を自分から進んで殺したり、いたぶったりした事は無い!」


「本当だな?」


「あぁ本当だ!」


 エリート帝国兵二人が、そろってうなずく。


「ホークト流残悔独歩拳ざんかいどくほけん!」


 俺は二人の帝国兵の額へとトン、トンと指をついた。


「な、何を······!?」


「もう起き上がっていいぞ。お前ら『カルマ値』って知っているか? この世界にはな、ステータスには表示されていないが、裏設定で『カルマ値』というものが有るんだ。善行を積めばプラスに、悪行を行えばマイナスに進んでいく」


 起き上がった二人がすたすたと歩き出した。


「今俺が使ったスキルはな、そのカルマ値に働きかけるものなんだよ。一定以上のマイナス値の者がこの技を受けると······」


 歩き続ける二人。その先は切り立った崖だ。


「お、おい! どうなっているんだ俺の足が勝手に歩いていく!」

 

 ネアを倒してレベルが上がった時に覚えた新スキルだ。


「自分の意思とは無関係に、終わりへ向かって歩いていく」


「や、やめろー! 止めてくれ!」


 後の事は俺は知らないよ。自分の言葉に責任を持つんだな。


「「□◇♀☆✕〜!」」



 


 俺はインベントリから破邪の剣を取り出すと、停止命令をかけられて、ぼ〜っとしているシーラへと歩み寄った。


破邪の剣はっつぁん、『操りの首輪』だけ切れるか?」


『インベントリはあかんって、言うとるのに······そこまで強くはないけど呪いの品やな、まかしときい!』


 破邪モードになった破邪の剣の紅い剣身がひらめき、ヒィンッと操りの首輪を断ち切った。


 シーラの身体がぐらりと倒れる。地面へと倒れきる前に、俺は優しくシーラの身体を抱きとめてあげた。

 




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 コメント欄でもお世話になっている【かごのぼっち】様に素敵なファンアートを描いていただきました!


 第4話と第6話の複合シーンです。カエルに丸呑みにされるルイと、『かえるの歌』を歌うエリー。


 ご自分の持つイメージが壊れるから画像を見るのはいや! と思われる方以外は、必見ですよ♪


 第6話にも添付しておきますが、直接ご覧になりたい方はこちらです。


 https://kakuyomu.jp/users/okigen/news/16818093083797363368


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