第70話 竜王(幼生体)シーラ

 俺が慌てて抱きとめた竜王(幼生体)シーラの体はとてもゴツゴツしていた。······当たり前か、まだオーパーツ装備を身につけたままだからな。


 このままだと何が起こるかわからないので、装備は脱がせる事にする。可能かどうかは分からないが、万が一、遠隔操作で爆発とかされてはたまったものではないからな。


 エリート帝国兵は通信装置みたいな物を所持していたので、可能性はゼロでは無いだろう。


 装備解除の手順がわからず四苦八苦しながらだが、なんとか全ての装備を外す事が出来た。すみやかに俺のインベントリへと収納する。現在のシーラは薄手の全身インナースーツの様な服を身にまとっている。


 むき出しの顔に手でそっと触れると凄く冷たい。血が通っていないのでは?、と心配になる程だ。『操りの首輪』を無理矢理解除したからなのだろうか?


 それとも種族的なものなのか?


 ポニーテールにしたきれいな緑色の髪に殆ど隠れて、小さな竜の角が二本ある以外は、見た目はほぼ人間だ。冷たいままよりも温めてあげたほうがいい気がする。これはあれだな、寒い時に身体を温める、伝統の方法をやるべき時だ!









「ザック、包みこんで温めてあげてくれるか?」


「ぷえっ!」


 ザックが心得た! とばかりに優しくチョコザの羽毛の中に潜り込ませて温め始めてくれた。これ、俺もたまにやってもらうんだけど、物凄く気持良いんだよなぁ。


 おっと、ぼーっと見ているだけではいられない。出来る限りのケアをしてあげないと。


「チャクラ!」

「治療!」

 

 効果があるかは分からないが、ありったけの気と念を込めて、スキルでシーラを回復させてあげる。ザックも続けて、『チョコヒール』と『チョコスナー』の魔法をかけてくれた。


 しばらくの間、定期的にチャクラを使い、生体エネルギーを活性化させてあげていると、「んっ」っと小さく声を出して、シーラのまぶたが開いた。


 シーラのくりくりの大きなお目々の虹彩は、澄んだ金色をしており、瞳孔は深い緑色で吸い込まれそうな不思議な魅力を感じさせている。


「ここはどこ? お姉ちゃんはだぁれ?」


「俺の名前はルイ。君を包みこんでくれているのは相棒のザックだよ。」


「鳥さん、あったかい♪ それに凄く良い匂い♪」


 そうだろう、そうだろう!

 ザックが最高なのがわかるとは見どころがあるな、シーラは。

 

「自分の事はわかるかい?」


「えーっと、わたしはだぁれ?」


 こてん、と首を傾げて逆に俺へと問いかけてくる。

 この幼女のかわいさよ。

 

「君の名前はシーラだよ」


「わたしはシーラ。そういえば、そう呼ばれていたような気がするね。お姉ちゃんは私のお友だちだっけ? ごめんね、何もおぼえてないの」


「まだ君にとって、なんでもないんだけど、良かったら今からお友達になってくれないかな?」


「うん、良いよ。ルイお姉ちゃんはお友だち!」


「ありがとう。シーラはお腹空いてない? 友達になった記念にこれをあげるよ」


 そう言って俺はインベントリからチヨコの実を取り出して、シーラに三粒あげた。 自分とザックにも同じだけ取り出して一緒に食べる。


「これ、おいしいね」


「美味しいね。気に入ってくれたなら、俺には他にも仲間がいるから、後で仲間とも一緒に食べよう。皆で食べた方がもっと美味しいよ!」


「うん! 食べる!」


「それじゃあ今から俺の知っている、大事な話をするね。大事な事だからしっかりと聞いていてね」


「はい!」


「シーラは、聖竜王ファーヴニルって言う偉大な竜の子供なんだ」


「わたしのお父さん? お母さん?」


「うーんどっちなのかな? 人間の俺にはわからないや。シーラなら会えばわかるかもね」


「会いたい!」


「でもね、聖竜王ファーヴニルは今、悪い奴に騙されて死にそうなんだよ」


「え!? 死んじゃやだ!」


「聖竜王ファーヴニルは血を毒に変える呪いを受けて死にそうだから、何度も何度も身体を斬って一旦身体中の血を全部抜き取ってあげないといけないんだ」


「え!? 痛そうだね。お父さん? お母さん? かわいそう······」


「でもねシーラには特別な力があるんだよ。『聖竜気』っていうんだけど、それを使いながら斬ってあげると、痛みが少なくて、早く毒抜きが終わると思うんだ」 


「痛くなくできるなら、わたしやってあげたい!」


「そうか、じゃあ頑張って斬ってあげてね。何度も斬っていたら聖竜王ファーヴニルが可哀想に思うかも知れないけど、最後までやりきったらお父さん? お母さん? とお話が出来るようになるから」


「わたしがんばる!」


「よし、その意気だ! 斬る時にはこの特別な剣を使うんだよ」


 そう言って、『破邪の剣』を俺のインベントリから取り出す。


 「破邪の剣はっつぁん、さっきも言ったけど、相手は子供なんだからな、言葉を選べよ」


『わーっとるわい! 儂はと違ってお子様は対象外なんや!』


「剣がしゃべった!」


『おう! 儂は凄いんやで!』


「剣さん、お名前はなんていうの?」


『儂か? 儂は破邪や、プロ破邪ラーの破邪や! 名前は······あったかいな? ちゃんと名前もあったような気ぃもするけど、思い出せへんな。まあ良いわい、儂の事は破邪さんって呼ぶんやで』


「『はっつぁん』ね、さっきルイお姉ちゃんもそうよんでたね」


『はじゃさん』


「はっちゃん?」


『は・じゃ・さん』


「はっ・ちゃ・ん」


『もうええわ! 好きに呼んだらええ。それよりもルイ、そろそろ戻ったほうがええんとちゃうか?』


「そうだな、シーラも動けそうだから行くか。と、その前に。シーラ、お友達記念にこれもあげるね」


 インベントリから『白金の髪飾り』『聖銀のローブ』『聖銀のブーツ』を取り出してシーラの身体に装備してあげる。


「わぁー! かわいいね、ルイお姉ちゃんありがとう!」 


「うん、良く似合ってる。とってもかわいいよ! よしそれじゃあ、聖地チャンティ湖に戻ろう! ザック、よろしくな!」


「ぷえっ!」


 俺の前にシーラを乗せてザックに跨ると、ザックは空高く飛翔した。


 


 

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