第71話 聖竜気

 俺がザックに跨り、自分の前にシーラを乗せると、ザックは大空へと飛び立った。


「おお〜! 飛んだ! お空を飛んでる〜! すご〜い!」


 俺の前でシーラがはしゃいでいる。うん、可愛い。シーラが落ちないように、ジェットコースターの安全バーの様に、シーラのお腹に片腕を回してロックしておく。


「みてみて、ルイお姉ちゃん! ザックがお空を飛んでるよ! わたし達も飛んでる!」


「そうだね、飛んでるね〜! ザックはね、チョコザの中でもお空を飛べる珍しい『黒チョコザ』っていう種類のチョコザなんだよ」


「ザックすご〜い!」


「ぷえっ! ぷえ〜!」


 褒められてザックも嬉しそうだ。これはあれだな、ザックもシーラの事を気に入ってくれてるみたいだな。仲良くできそうで良かった。




 東へと進む空の旅はすぐに終わり、聖竜王ファーヴニル、現在の毒竜ファーヴニルの棲む聖地チャンティ湖へと舞い降りて行く。


 聖地チャンティ湖でもファーヴニルの呪いの毒は浄化しきれず、聖地が毒の沼地チャンティと成り果ててしまっている。


 近づいた毒の沼地チャンティでは、毒竜ファーヴニルが俺とザックが別れる前と同様、手当たり次第に暴れている。

 

「······声がきこえる。苦しい、苦しいって」


 突然シーラが何かに反応した。俺には聴こえないのでシーラだけに聴こえる声のようだ。


 ザックが仲間達の元へと着地し、パーティーの皆と無事に合流した。


「皆お疲れ様! こっちは上手くいったよ! この子がシーラだ! エリー、早速『毒吸収薬』と『浮遊薬』の調合を頼む!」


「任せて! 『調合』! 『調合』! シーラちゃん始めまして。私はエリーだよ。ここは危ないからこのお薬を使ってね」


「シーラです! エリーお姉ちゃん、わたしとお友だちになってください!」


 短い空の旅の間に、パーティーの皆の特徴の事はシーラに教えておいたので、シーラも戸惑わずに仲間達の輪へと入っていけたようだ。


 薬を使い終わったシーラが破邪の剣を装備して仁王立ちになる。


 ゲームではシーラはなんと、『誰それの専用装備』と名前入りの武具以外は全装備可能キャラなのだ。汎用武器で唯一装備できないのは『オニョン装備シリーズ』くらいか。


 現実となったこの世界でも、高ステータスという事もあり、自分の身長以上の騎士剣である破邪の剣も問題なく使いこなせるようだ。

 

 破邪の剣の柄頭の聖魔石が、白い光と黒い光をグルグルとかき混ぜるようにして輝き出した。それと共にガード部分にある赤い宝石が一層紅く輝き、刀身が紅色の光をまとった。


『よし! こっちはいつでもええで。シーラ、自分の力の使い方はわかるか?』


「わかんない!」


『そうか、ほんなら試しに自分の親を救いたいと強く願ってみい』


「ん〜んんっ、むむむぅ〜?」


 シーラの身体が薄っすらと白く発光しだした。握られた破邪の剣の破邪モードの刀身を包み込む真紅の光が、桃色へと変化していく。


『おお〜! なんやこれ! 儂今絶好調やで! めっちゃみなぎっとるわ!』


 桃色へと変化した破邪モードの刀身の先が実体を持たない桃色の光の剣と化して三倍程に伸びた。 

 

『よし! いつでもええで。切っ先がギリギリかするくらいで、わしを振り抜くんや!』


「わかった!」


 その言葉に導かれる様に、シーラがファーヴニルに向かって飛び込んでいき剣を振るう!


 ザシュッ!


「グラァアアァ!」

 

 ファーヴニルの斬られた部分の黒い鱗から、黒いモヤのようなものが浮き出てきて霧散した後、斬られた部分のみ白い鱗へと変化していった。しかし、瞬く間にまた元の黒へと変色していく。


『よっしゃ、ええ感じや! バンバン行くでシーラ!』


「うん! 破邪の剣はっちゃんもがんばって!」


 俺とイーリアスとザックでファーヴニルの動きを牽制してシーラの行動を助ける。だが、何度も破邪の剣で斬られていく内に、だんだんとファーヴニルの動きが大人しくなっていき、むしろ自分から斬られにいっているようにさえ見えた。 

  

「えぇーい!」


 ザシュザシュザシュッ!


『ひゃはー!』


 絶好調コンビが繰り出す桃色の斬撃は、全く衰える事なく幾度となく振り抜かれ続ける。


 黒に戻るのが間に合わず、白と黒のまだら模様となったファーヴニルの動きがピタリと止まった。


『我が愛し子シーラよ』


「お父さん?」


『聖竜気を漫然と発散するのではなく、体内で循環させ練りあげて、爆発的に高めるのだ。補助してやろう』


 ファーヴニルから白い光が伸びシーラと繋がった!


「わわ! わわわわわ!」


 シーラの全身を覆っていた白い光が何倍にも膨れ上がった!


『そのまま【聖光浄魔滅殺破せいこうじょうまめっさつは】と唱え、破邪の剣を前に突き出すのだ』


「えっ!? なに? せい〜なんだっけ? えぇい! せ〜い〜せ〜い〜破ぁあ!!」


 バシュゥウー!!

 

 シーラが突き出した破邪の剣の先端からファーヴニルの巨体を包み込むほどの桃色の光が放出され、一気にファーヴニルの全身を白に染め上げていく!


 断末魔の声のような耳障りな音が聞こえ、ファーヴニルの全身から黒いモヤが立ち昇っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る