第72話 聖竜王ファーヴニル
「せ〜い〜せ〜い〜破ぁあ!!」
バシュゥウー!!
シーラが突き出した破邪の剣の先端からファーヴニルの巨体を包み込むほどの桃色の光が放出され、一気にファーヴニルの全身を白に染め上げていく!
断末魔の声のような耳障りな音が聞こえ、ファーヴニルの全身から黒いモヤが立ち昇っていった。
光り輝く純白の身体を取り戻した聖竜王ファーヴニル。思わず頭を垂れてしまう様な、その威厳ある佇まいは圧巻だった。
ファンサ5のゲームでは、ここまでに入手したHP・MP全回復アイテム『エリクシル』を、全てファーヴニルに与えて使い切る程の長丁場でファーヴニルを攻撃しては回復させ続けて、ようやく毒竜の呪いを血抜きできて仕上げに破邪の剣での解呪ムービーが流れるというシナリオだった。
しかし、現実となったこの世界では少しばかり流れが変わっているようだ。シーラと
聖竜王ファーヴニルとシーラとの間を繋ぐ白い光の線が途切れていった。
『シーラよ、よくぞ我が身に巣食う邪悪な呪いを解呪してくれた。そして人間達よ、チョコザ達よ、協力感謝する』
「お父さんが生きててよかった!」
『うむ、シーラよ、そなたと我は、同一の存在。一にして全、全にして一なり。我は既に聖竜としての力を失っており、そなたに譲り渡している。呪いを受けし百年の年月に積み重なったダメージにより、まもなく我の肉体は消滅するであろう』
「お父さん死んじゃやだ!」
『安心するが良い。呪いの
「よくわからないけど、また会えるのね?」
『ああそうだ。我とそなたはいつでも繋がっておる。そして、そなたのマナを代償にすれば、いつでもこの物質世界に顕現することも可能だ。そなたがマナと祈りを込めて我を喚べば、いつでもそなたの元に現れよう』
「良かった! でもわたし、お父さんをよび出すやりかたなんてわからないよ?」
『うむ、本来であれば、聖竜の力と共に我の記憶も引き継ぐ筈だったのだが、譲り渡した時の我の状態が不完全だった為、そなたが受け継いだものも不完全となってしまった。我が消滅する前に力と記憶の道標となるものを遺しておこう。肉体の成長と共に馴染んでいき、本来の聖竜王として完成していくはずだ』
「ありがとう、お父さん! いつでも会えるなら、すごくうれしいね!」
『人間達よ、シーラの肉体が成長するまでの間だけでも良いので、シーラを支えてやってくれまいか?』
「わかりました。シーラの事は成長するまでの間、きちんと俺達が見守ります」
『うむ、よろしく頼むぞ。む、お主からは神の力の残滓を感じるな。お主もまた神に選ばれし者であるか?』
「いえ、俺は『神を笑わせし者』みたいです。どこの神かも知りません。死んだと思ったら突然この世界に放り出されていました」
『そうであるか。神の何か深い考えがあるのやもしれぬな』
······無いと思います。
ダダダダダ!
「賢竜よ! 我が友を復活させる事は出来ませぬか!?」
ゴライア!
どうやら対ファーヴニル戦が終結したと見て、勇者アイスを背負い、こちらに全力で駆け付けてきたようだ。
『当代の勇者か。その者は魂が深く傷付いておるようだな。今の我ではどうしようもできぬ。だが復活を望むのなら、ズイーブト大陸の竜伝山に行ってみるとよかろう。その者が真の勇者であれば復活の望みが有る筈だ』
「おお! 賢竜よ! ありがとうございます!」
『ではそろそろ最後の仕事をして、征くとしよう。シーラよ手本を示しておこう。よく見ておくのだぞ』
「うん!」
聖竜王ファーヴニルがすぅっと上空へと上昇していき、空中でぴたりと止まった。下から見てもわかるほど、凄まじいエネルギーの奔流がファーヴニルの全身を白い光となって駆け巡っている。
『
ゴォォォ!!
巨大な白い光が毒の沼地チャンティ全体に降り注いでいく。
ゴォォォ!!
ゴォォォ!!
毒の沼地チャンティが!
凄い!
白い光を浴びて、みるみる内に浄化されていく!
白い光にて浄化されたチャンティ湖は、一瞬にしてキラキラと水面が輝く清浄な湖へと生まれ変わっていた。聖地チャンティ湖が元の姿を取り戻したと言うべきか?
『シーラよ、さらばだ! これを遺していくので、有効に使ってくれ』
聖竜王ファーヴニルからシーラの元へと一条の光が届いた。そして聖竜王の身体が一際大きく輝やいたと思った瞬間に、その姿はかき消えた。
シーラの元には、『聖竜玉の道標』『聖竜の牙』『聖竜のひげ』『聖竜の角』『聖竜の革』『聖竜の鱗』そして『りゅうのしっぽ』が遺されていた。
また『しっぽ』か。
そういえばネア=モースジードを討伐した時も、『いんまのしっぽ』を手に入れていた。
このゲーム世界は本当に『しっぽ』が大好きなんだな。
聖竜王ファーヴニルは
そう、俺達は最強を約束された魔道士系ジョブ竜王(幼生体)のシーラを仲間に加えると共に、最強の召喚獣ファーヴニルを手に入れる事に成功したのである。
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現在までの獲得『しっぽ』
おたまのしっぽ、
ワームのしっぽ→ブーグリのグリヘ
いんまのしっぽ
りゅうのしっぽ
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