第10話 萌ぇぇ!

 チャイナドレスにチャイナリボンを身に着けた俺は、エリーに戦闘時の対応を手早くレクチャーした後、エリーを引き連れ家の外に出ると、むらの中央広場へと向かった。


 そこでは野盗団の首領らしき男がチャモ爺さんを人質にしながらもっとかねをよこせと叫んでいる最中だった。


 村の顔役数人が、建物を背に野盗達に迫られている。村人達は、もう出せるお金は無い、全て渡したからこれで勘弁して、村長を解放してくれと懇願こんがんしている。


 だが野盗の首領は、ニチャアと顔を歪ませながら「足りねえなあ、足りねえ分は若い女で払えや」と言い出した。


 もう見てられないな、猫かぶりモードで俺が行くしか無いだろう。


「待ってください! お金なら有ります! の全財産を払いますからお爺さんを解放してください! の大事な人なんです!」


「ん? このジジイの身内か? 本当に金が有るんならこっちに来て俺に金を払ってみろ。十万シグ以下だと承知しねぇぞ」

 

「わかりました。そちらに行きます」


 ある程度近づいたところで首領にとめられた。


「そこでとまれ! 金が先だ! 今すぐ金を払え!」


「わかりました」


 俺はシグ決済用の魔道具を取り出すと全財産を首領に送金した。これで俺のもちシグはゼロだ。


「おっ、けっこう持ってやがったな。良いだろう、ジジイは解放してやる、だがその前にお前はこれを自分の手にかけるんだ」


 そう言って、手枷てかせを投げてよこしてきたので手枷を自分につける。すると途端に体が崩れ落ちその場に横たわった。


 うっ


 体が痺れて動かない


 麻痺の手枷だ

 

「はっはっはっ! ジジイは用済みだ! とっと行け! その女は俺が持って帰る!」


 チャモ爺さんが俺の所にヨロヨロとやってきた。


「わ、儂のためにこんな事に······」


 首領も大股でやって来て俺に手を伸ばそうとする。


 今だ!


 ボゴォ!


 ドガン!!


 飛び起きて放った、俺の全力パンチをうけた首領は物凄い音をたてて吹っ飛び壁に叩きつけられた!


 バカめ! 俺に麻痺は効かないんだよ。倒れたのは演技だ!


「エリー!」


 隠れていたエリーが『かえるの歌』で後ろの野盗達をかえるに変える。チャモ爺さんを抱えて村の顔役達のところへと連れて行き、カエル化をミスったやつは俺が駆けつけて殴る!


『かえるの歌』の効果が凄い!

野盗の大半がシーフ系のジョブなのでよく効くようだ。


 効かなかったやつは、俺が間に入り盾となって殴り合いとなるが、相手の攻撃は俺の高い防御力に阻まれて痛くもかゆくもない。


 あっという間に手下は制圧し、残りはボスである首領だけだ。


「エリー! すばやさの歌を頼む!」


 そう言い残してボスの所へと駆けていく。


 憤怒の形相をした首領は怒りを込めて叫ぶ。


「このザーコイ様を手下共と同じだと思うなよ!」


 確かにこのボスは手強い。すばやさが高く、力も有るのだ。お互いに高機動での殴り合いとなる。殴り合いと言いつつも敵はナイフで攻撃してくるんだけどな!


 切られた所がちょっぴり痛い。


「今のは少しだけ痛かったぜ!」


 そう言って、すばやさがジョジョに上がってきた俺はトドメの一撃をくれてやる。オラオラだ!


 オラオラオラオラおらぁ!


 おっと、消してしまうと、さっき渡した俺のシグが帰ってこないから半殺しにしておいてやるぜ!




 瀕死ひんし状態にして、気を失っている野盗団の首領ザーコイに、さっきヤツが俺に使ってきた麻痺の手枷をはめて体の自由を奪っておく。他の野盗の奴らは全員カエルにして虫かごに入れてやった。


「ルイさんや、危ないところを助けてくれてありがとう。エリーさんもありがとう。村の長として心より感謝いたす。」


「いえ、どういたしまして。お爺さんを危ない目にあわせている奴らがどうしてもゆるせなくて······」


「ルイさんが倒れた時はヒヤヒヤしたわい」


「すみません、あのままだとお爺さんが殺されちゃうかと思って、ああするしかなかったんです······」


「謝る必要はないぞよ、責めているわけではないからのぉ。ところで皆の衆この野盗団はどうしたら良いかのぉ」



 

 村の顔役達の相談の結果、『ルイとエリーが討伐した野盗』としてホウツイの街の冒険者ギルドに引き渡す事になった。


 以前にお世話になった、この村出身の冒険者の二人組のおっさんが言うには冒険者としての実績になるからそうしたほうが良いそうだ。明朝、商人のおじさんの馬車で護送するので、俺達も万が一の為の護衛として一緒に行くことを約束した。


 話し合いが終わって、チャモ爺さんの家に戻ってきた俺達は、お茶を飲みつつ談笑していた。


「それにしても、ルイさんがそのチャイナドレス姿で現れた時は、ユーリア······婆さんが蘇って助けに来てくれたのかと思ったわい」


「勝手に持ち出してきてしまいすみません。ほら、ルイちゃんも謝って?」


「え〜っと、その、勝手に着ちゃってごめんね?」


「いや、いいんじゃ。箪笥たんすやしになっているよりは、普段から着てもらったほうが婆さんも喜ぶじゃろう。それにしても······そうじゃ、青いチャイナローズのお礼をまだしておらんかったな。ちょっとそこで待っていなさい」


 奥に引っ込んだチャモ爺さんが、暫くしてから箱を大事そうに抱えて持ってきた。その箱を俺の目の前で開けると靴が一足入っていた。


「さあ、ルイさん青いチャイナローズのお礼じゃ。この靴を履いてみてくれんか?」


「わかりました」

 

『チャイナシューズ』を手に入れた!


 

『チャイナシューズ』のアイテム説明欄には「お婆さんの形見の靴 物防+1・魔防+1」とだけ書いてある。これではショボすぎるだろう。


 装備するとキャラクター外観の靴が、チャイナシューズに変わるだけのネタ装備かと思われていたが、先人の検証の結果、裏設定により、魔法防御力が物理防御力と同じ値になる事がわかったのだ!


 つまり、今現在の物理防御力が277の俺は、自動的に魔法防御力も277となってしまうのだ!


『三しゅの神器』ならぬ『三チャの神器』を全て装備した今の俺は、魔法攻撃にも強い「カッチカチの盾モンク」、「カチモン」へと生まれ変わった!


 状態異常無効!

 高物理防御力!

 高魔法防御力!


 フハハハ!!

 笑いがとまらんね!!


 おっと、まだチャモ爺さんの前だった。早く検証したいところだが、今はまだ我慢だ。



 全身チャイナ装備を身に着けた俺の姿を見て、チャモ爺さんが泣き崩れてしまった。


「おお、まさに若い頃のユーリアと瓜二つじゃあ······もう一度その姿を拝める日が来るとは······」


 そうだよね、お爺さんはそういう人だもんね。


 実は『チャモ爺さん』というのは『ファンサ5』のファンの間で勝手に呼ばれていた名前だ。

 

 イナドレスえ爺さん

 ↓

 『チャモ爺さん』である。


 

「そういえば、お爺さんのお名前はなんていうんですか?」


「おお、これはすまなかったのぉ。まだ名乗っておらなんだか。わしの名前はシローじゃよ」



 全然ちがってた。




 ―――――――――――――――――――――――――――――


 交流のある作家仲間の【かごのぼっち】様に素敵なファンアートを描いていただきました。


 今回のお話の、『三チャの神器』に身を固めた状態のルイとエリーです♪


https://kakuyomu.jp/users/okigen/news/16818093079251600680

 

 読者様の中で、自分の中のイメージが変わってしまうからビジュアルをみるのは嫌! という方以外は是非ともご覧いただきたいです。作者のイメージとも、ばっちりマッチしておりますよ~♪


  


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