閑話 勇者の帰還・・・その1

「勇者様、どうか、どうか元気になって戻ってきてください」


「アイスよ、お前を止めきれなかった俺を殴っても構わん。早く戻って来い」


「勇者君、これだけ二人に思われているんだからさっさと復活して来なさい! お姉さんが二度とこんな事にならない様にビシバシしごいてあげるから!」


 竜伝山の山頂にある小さなほこらで、黒魔道士ローザ、騎士ナイトゴライア、そして青魔道士ステラが三者三様に、一心不乱に勇者アイスの魂の帰還を待ち望んで祈っていた。


 しかし、時折周囲の松明たいまつの灯りがボワリと揺れるのみで、時は刻々と過ぎ去っていく。


 


 フッ 

 

 何も無かったはずの三人の頭上から、一枚の紙がひらひらと舞い落ちて来た。


「何だこれは?」


 ゴライアが不審に思い拾い上げた紙には、

 

「ゆうて いみや おうきむ

 こうほ りいゆ うじとり

 やまあ きらぺ ぺぺぺぺ

 ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ

 ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺテヘ ぺロ」


 と書いてあった。


 ローザが首を傾げながら読み上げてみると、突然台座に横たわっていた勇者アイスの肉体に光が降り注いだ! 


「な、なんだ!?」

「勇者様!」

「何か分からないけど、凄いエネルギーを感じるわね!」

 

 勇者アイスの肉体に降り注いだ光がひときわ強く輝くと、勇者アイスはゆっくりと上体を起こした。


「……ここは? 俺はいったいどうなってしまったんだ?」


「ゆ、ゆうじゃざばぁ! うわぁぁん!……!」


 勇者の目覚めに、感極まってアイスに抱きつくローザ。嬉し涙が止まらず、喜びの声はもはや何を言っているのか分からない。


「アイスよ。俺達の事がわかるか?」

 

 ローザの事を抱きしめながら、アイスはゴライアの質問に答える。


「ああ、ゴライアにローザだろう。わかるぞ。お前の隣の人は? 初めて見る顔だと思うが」

 

「はじめまして。私はステラよ職業ジョブは青魔道士。第二職業に白魔道士と第三職業に魔獣使いを持っているわ。勇者君、あなたのパーティーに入るようにと国と教会から斡旋されて来たのよ。今は無理だろうから、落ち着いたら私の事をどうするか決めてね」


「そうなのか……」


 ちらりとステラの事を見ながら、少しの間考え込む勇者アイス。


「その……」


 しがみついているローザをゆっくりと引きはがし、顔が見えるように立たせてから、勇者アイスは深々と頭を下げた。


「ゴライア、ローザ、すまなかった。俺はお前達二人を粗末に扱ったというのに、殆ど死んでいた様な状態の俺の事を大事にしてくれて……ありがとう」


「ゆ、ゆうじゃざばぁ! うわぁぁん!……!」


 再び勇者アイスにすがり付いて嗚咽をもらすローザ。


「まあ、気にするな。友が道を違えれば、ぶん殴ってでも筋肉道ただしいみちに連れもどすのが真のおとこってものだ。俺は俺の道に従っただけだ。ああ、そうは言ってもまた変な方向に行かないように少しは気を付けろよ?」


 そう言って「ガッハッハッ」と笑うゴライア。ふけ顔ながら、イケメンの白い歯がキラリと光ったようにさえ見える漢前っぷりだった。この時ステラはキュンとしたとか、しないとか……


「ああその事なんだが、目が覚めたら、憑き物が落ちたかのように気持ちがスッキリとしているんだ。ルイの事もエリーの事も、なんというか黒い感情のわだかまりが無くなって、あいつらはあいつらで頑張ってくれれば良いやっていう感覚かな」


 ローザの頭を撫でながら、落ち着いた声で自身の感情をとつとつと話す勇者アイス。 


「それは立派な気持ちの切り替えだが、ネアの事は大丈夫か? 突然怒りだされても困るから、ちゃんと今の内に考えておいてくれよ」 


「ネアか……俺は今でもネアの事が好きなんだと思う。もし生きていれば、例え魔族だったとしても、人類の敵でさえなければそのまま愛していただろう。だが現実は違う。命を狙われていた状態で、ゴライアやルイ達をその事で恨むのは筋違いだと思うから、なんとか気持ちに折り合いを付けるよ」


「本当に随分と変わったものだな。ネアがやっていたという精神への働きかけは案外強力なものだったのかもな、ローザも最近は随分と丸くなった事であるし」 


「人間をやめてまで強くなって、極限まで高めた状態でルイ達に打ちのめされたからな……魂の世界での導きもあったし。ゴライア、ローザ、先に付き合ったお前達から見てステラさんはどんな人なんだ? パーティーに加えたほうが良さそうな人なのか?」


「うむ、ステラは歴戦の勇士で実に頼りになるぞ。俺は知らなかったが、Sランク冒険者でもあるそうだ。今も俺は色々と教わっていて、レベルだけではなく技術のレベルアップも果たしているぞ。つまり俺からも、おすすめできる人材だということだ」

 

「うちは本当は、女がパーティーに入るのは嫌なんですが、回復役は必要だし……ステラは、イヤミのない女だから一緒にいても問題ないかな……って思います」


「そうか……お前達が二人そろってそう言うのなら、ステラさん、パーティー入りの件よろしくお願いします」


「ステラで良いわよ。敬語もいらないし。お姉さんが勇者君の事を、どこに出しても恥ずかしくない勇者になれるように、ビシバシしごいてあげるから覚悟なさいな。よろしくね」


「勇者様がこうやって無事に復活できて、本当に良かったでずぅ」


 再び涙ぐんで勇者アイスにしなだれかかるローザ。アイスはローザの顎をクイッとして万感の思いを込めて、ローザの唇をふさぐ。


 ちゅっ、チュッというキスの音がだんだん大きくなってくると、やがて二人の間にピンク色のラブ空間が形成された。


 まさか、ゴライアとステラが見ている前でおっぱじまってしまうのか!?


 


 っとなったその時、「はい、スト〜ップ」


 ステラが制止した。


「勇者君はしばらくエッチ禁止ね」


「「なっ!?」」

 

「ゴライアとローザから聞いたところだと、『勇者の聖気』っていうのをネアに毎晩抜き取られていたんでしょ? 最低限それが十分に溜まるまではダメよ」


「「なっ!?」」


「教会に伝わる伝承によると、真の勇者は聖剣による一太刀で山をも割いて、道を切り拓いたというわ。比喩じゃ無くて実際の出来事よ。勇者君はまだまだ力不足だから、それが出来るようになるまでは『おあずけ』ね」 


「「なっ!?」」


「宿でもローザは勇者君とじゃなくて、私と二人部屋よ」


「「なっ!?」」

 

「そういえばアイスよ、さっき魂の世界の導きとか言っていたが、何かあったのか? お前の魂を癒やす為に、ここ竜伝山に行くように賢竜に教わったのだが」


「……ああ、実は魂の世界とも呼べる真っ白いところで、カクカクシカジカ……という事があってな。神託を授かって、ルイを嫁に迎える事になった」


「「「なっ!?」」」

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