第108話 くまさん

 動きが取れなくなったケンタジードを取り囲み、各自で最大の攻撃を次々に放ってタコ殴りした結果、硬質なガラスが繊細に砕けるような澄んだ音をたてて、ケンタジードは光のエフェクトと共に消えていった。 



 

 星降る指輪、狩人免許、おうまのしっぽを手に入れた!


 おお! 凄いぞ!

 

『星降る指輪』はゲーム終盤で、砂漠の国『オアシズ』のピラミッドで手に入れる事が出来る、一度手に入れたら二度と手放せない程のアクセサリーだ!


 その効果はなんと素早さが二倍になるという、とんでもない代物だ。俺、エリー、イーリアス、シーラ、ミーニャと誰に装備させるのが一番効果的か悩むな。


 誰が装備してもそれぞれ相当な貢献ができてしまうのが困る。嬉しい悲鳴だが、これを考えるのがマニアの楽しみだから、この試行錯誤の時間はたまらないな。

 

 ケンタジードが異常な素早さだったのも、これの効果だったのか? ケンタジードは『武器支配』という、装備アイテムの効果が二倍になるというレアスキルを持っていると本人が言っていたしな。


『狩人免許』は、初級→初段→免許皆伝と使えば使うほどランクアップしていく『みだれうち』の免許だ。一番最初の『初級』ですら通常攻撃が二回攻撃、『免許皆伝』だと四回攻撃となる。


 狩人免許は装備者が変わると、また『初級』からになってしまうから、ロスを無くすために最初から誰に装備させるか十分な検討が必要だな。これの考察も楽しくて仕方がないぞ。『ファンサ5』はこれだからやめられないんだ。 


 

 ケンタジードから手に入れた、この『星降る指輪』と『狩人免許』は元々のところから奴が入手してきたものだったのだろうか? それとも、ゲームには存在していなかった二つ目なのだろうか?


 二つ目だとしたらゲームバランスがぶっ壊れかねないが、ゲームではなく死んだら終わりの現実世界なので、俺達のパーティーが強化される方向なのは嬉しい。二つ目であってくれると良いなぁ。


 そして、また死影衆の『しっぽ』を手に入れてしまったな。ゲームでは無かった物だから、いったい何になるというのだろうか……。


「……ルイ……ルイ……おい、ルイ!」


「ん!? なに? イーリアス?」


「もう皆、元の装備に戻っているぞ。まだ水着姿なのはルイだけだぞ。着替えないのか?」


 しまった!!


 新たに手に入れたアイテムの考察に夢中になって、素晴らしい水着+アルファお色気タイムを見逃して、落ち着いて見られる眼福の時間を失ってしまっただと!?


 なんて日だ!


 あんなに素晴らしい光景は二度と見れないかもしれないというのに!


 なんて日だ!


『別にそのままでも、ええんとちゃうか?』


破邪の剣はっつぁん! そうだった! 記憶をうしなえ!」


 ゴツン!


『痛! いきなりなにするんや!』


「どうだ?」


『どうだ? やないわ! あんなにええもん拝んだら一生忘れへんに決まっとるやろ!』


「くそぅ、俺も着替えてくる」


 出遅れた俺だが、壊れずに残っていた奇御魂くしみたま神社の一部屋に行って着替を済ませた。


「ルイお姉ちゃん、くしみたまの盾さんがごあいさつしたいって」


 ん?


『はじめまして、パーティーリーダーのお嬢様。吾輩わがはい奇御魂くしみたまの盾と申します。以後お見知りおきいただきたく』


「盾がしゃべった!」 


「そうなんだよ〜! すごいね! さっきから、ずっとおしゃべりしてくれるの! しゃべるアイテムって破邪の剣はっちゃんだけじゃなかったんだね!」


 びっくりした。

 

 ファンサ5での奇御魂くしみたまの盾にはアイテム欄のフレーバーテキストにはインテリジェンスウェポンなんて書いていなかったはずだ。この世界独自のものなのか?


「ルイちゃん、この盾凄いんだよ、どっかの破邪の剣だれかさんと違って、すっごく礼儀出しいの! 私のことをお嬢様だなんて呼んでくれるんだよ!」


「へ〜そうなんだ。シーラちょっと俺にも貸してみて。アイテム欄とか色々調べてみたいな」


「はい、どうぞ」


「ありがとう。……痛!」


 なんだ!? くしみたまの盾を持った瞬間バチッときたぞ!?


『おや? 残念ながらルイお嬢様は吾輩に触る資質をお持ちでなかったようですね』 


 資質? そんなのがあるのか?


「それは残念だな、こんな超レアアイテム色々調べてみたかったのに。他には誰が触れるんだろう?」


 パーティーの皆と、試しにカサンドラと王女ベアトリス、火の巫女ホルンも含めて触ってみたが、バチッと弾かれなかったのはシーラとエリーだけだった。


「二人だけか……そうなると盾が装備できるシーラに使ってもらうようになるかな……」


『おい、ルイ』


 急にはっつぁんが小声で話しかけてきた。どうやら念話で俺にだけ話しかけているようだ。


 どうした、はっつぁん?


奇御魂くしみたまの盾とは昔なじみなんやけど、くしみたまの盾そいつ、ロリ○ンやで』


 !?


 まじか!?

 

 礼儀正しい奴かと思っていたのに、その正体は変態紳士だったなんて……


「どうやらシーラが装備するにはまだ早いみたいだな。残念だけどインベントリに入れておいてもらえるかな、シーラ」


「? わたしそうびできるよ?」


「いいんだ。くしみたまの盾の力は魅力的だけど、シーラが使わない方が良さそうなんだよ」


『お、お待ち下さいルイお嬢様! 吾輩形態変化も可能なのです! そうだ! 胸当て! 胸当てに変化すればエリーお嬢様にも装備できますよ!』


「胸当て〜?」


 怪しげなものを見る目で盾を見る。


 なんか俺の中でどんどんこの盾の価値が下がっていってしまっている。


「さすがに人格を持っているアイテムの胸当てを装備するのは嫌かな」


『そんな!? それでは腕輪サイズになるので、腕輪として使っていただけませんか!?』


「腕輪なら良いけど……装備品扱いになるのかな?」


『大丈夫です! 装備しなくても、勝手に自分の能力で絶壁愛バリアを張って御守り致しますから! どうか吾輩をお使いください!』


 なんか必死だな奇御魂くしみたまの盾のやつ。それにしてもしみたの盾って長くて呼びにくいな。


「お前のあだ名はくまさんね」

 

 

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