第81話 聖剣とたこ

『勇者カエル』ケオルグを仲間に加えた俺達は、水の巫女の祠の最奥の間に向かってダンジョンを攻略していく。


 そんな中、道中で次々と現れるモンスターを相手にケオルグがイーリアスにパーティー連携での剣技についてアドバイスをしている場面が何度かあった。


 イーリアスはこの世界でもトップクラスの剣の使い手だと思うのだが、どうやらケオルグの剣の腕はそのイーリアスに匹敵するらしく、過去にパーティーを率いた経験から連携技も得意らしい。なんとも頼もしい存在だ。


 勇者はこうでなくっちゃね!



 


 全ての宝箱も回収し終え、いよいよ目の前の扉を開くと最奥の間だ。扉を前にケオルグが檄を飛ばす。


「聖剣の気配はこの中で間違いない。本来関係者しか入れなかった水の巫女の祠に、これ程モンスターがはびこっていたのだ。最奥の間にも強力なのがいるかもしれん、気を引き締めて行くぞ!」


「「おおっ!」」

「「ぷえっ!」」


 扉を開くと、でかいタコが聖剣に絡み付いて遊んでいた。


「あれ? こんなところにかわいこちゃんがやってきた」


「お前はオクトロス! なぜここにいるのだ!?」


 目の前のでかいタコ、オクトロスと水の勇者ケオルグは顔見知りらしい。


「なにって、あそぶひとがだれもいなくなったから、あるばいとしている」


「おっきなタコさんこんにちは! わたしとお友だちになってください!」


 あっ!

 シーラまずいぞ! オクトロスにそんな事を言ってしまったら執着されてしまうぞ!


「わーい! いちばんかわいいこ! ずっとここであそぼう!」


 オクトロスがシーラに触手を一本伸ばしてきた!


 ザン! 

 イーリアスの剣が触手を斬る!


『わしのハーレムに手を出すなや! せっかくお口にチャックして、この水着パラダイスを楽しんどったんやぞ!』


 俺に念入りにおどされてここまで無言を貫き通していた破邪の剣はっつぁんが吠える!


 誰がお前のハーレムだ!

 俺のだ!

 なんつって。


「いった〜い!」


 そう言いつつも切断面からグニグニと触手が再生されていく。本体にはダメージが通っていないようだ。


「おまえのかおこわ〜い!」

 

 ドドドドドドドド!!!!

 

 うお! 怒ったオクトロスによる、いきなりオクトロス最強の防御無視の八連続攻撃だ! 剣に顔があるのか!?


 だがオクトロスの八連撃は俺、イーリアス、ケオルグ、ザックによって全てカットされている。八回攻撃がウリのオクトロスだが、こちらはチョコザを入れて七対一だ。数の暴力が物を言うのだ。


「だいかいしょう!」


 ゴォォォ!

 

 オクトロスが大波による全体攻撃をしてきた!

 だが水吸収装備のある俺達には効かん!


 チョコとザックはダメージを負ったが、直ちに自分達でチョコヒールをかけ回復している。


 そして、今のオクトロスの攻撃でシーラが『大海嘯だいかいしょう』をラーニングした!


「こうかな?? だいかいしょう!」


 覚えたての青魔法をすぐさま試してみるシーラ!


 ゴォォォ!

 

 オクトロスに大波が迫る! だがオクトロスも水属性は吸収する為ノーダメージだ。


「シーラ、水属性はオクトロスも吸収するから効かないぞ! 火だ!」


「はーい!」


 俺の指示を聞き、すぐさま火魔法に切り替えて攻撃するシーラ。そして俺達前衛陣もオクトロスに突貫して攻撃を繰り返す。


 オクトロスは、マヒ攻撃の『巻き付き』、くらやみ攻撃の『すみ』に加え、一撃の威力が通常攻撃の二倍のダメージを与える『たこ足』、更には『火・氷・雷の極大黒魔法』までも放つ多彩な攻撃を繰り返す。


 まさに八面六臂はちめんろっぴならぬ一面八臂いちめんはっぴの暴れっぷりだ。ひょっとして一対一で戦った場合は負けていたかもしれないが、今は状況が違う。


 文字通りタコ殴りだ!


 オラオラオラオラ!!

 


「もう! おこったもんね!」


 オクトロスが怒りで真っ赤に染まる!

 通称茹でダコモードだ!


 茹でダコモードになると、全属性に耐性をもち、更に筋肉が引き締まるのか防御力も攻撃力も二倍になる。素早さは変わらないのがせめてもの救いか。一段と手強くなってしまうが、逆に言うとオクトロスを追い詰めている証拠でもある。


 俺達も陣形を組み直し一段と連携を強化する。オクトロスにはまだ『即死攻撃』という奥の手が残っている。皆の即死を避ける為に、ここからは即死無効の俺がワントップで防御に全振りだ!


 一段と凶悪に暴れ回るオクトロス。


「たこで すみません。」


 きた!

 即死攻撃『たこですみません。』だ!


 触手を捌く!


 捌く!


 捌く!


 絶対に後ろには攻撃を通さん!


 ドドドド・ドドドド

 よし防ぎきった!


「シーラ! ファーヴニルだ!」


「はーい! お父さんおねがい! ファーヴニル召喚!」

 

 キュウゥン!


 光のエフェクトと共に聖竜王ファーヴニルが現れる!


「ひ!? せいりゅうこわ〜い! た、たすけて」


 光がファーヴニルの口元に収束し、最強のブレスが放たれる!


 ゴォォォ!!


 ブレスが止むと、瀕死でふらふらになったオクトロスがのびていた。


『我が愛し子シーラが友達にと言ったタコだ、このまま消すのは偲びない。我と共に星霊アストラル界に来る気はあるか?』


「かわいいことあそべる?」


ばれればな』


「それならいきます」


「オクちゃん、お友だちになってくれてありがとう!」


 シーラの言葉にオクトロスがにこりと笑うと、オクトロスの体は光に包まれ、聖竜王ファーヴニルと共に消えていった。星霊アストラル界に行ったのだろう。


 召喚獣『オクトロス』を手に入れた!




 闘いが終わって静けさを取り戻した最奥の間で、水の勇者ケオルグが、聖剣『コンフロント』を台座から引き抜いた。


 シャキーン!


 ケオルグ専用装備の聖剣コンフロントを無事に取り戻せて、水の勇者ケオルグは安堵しているようだ。カエルの顔だから実際は知らんけど!


 聖剣の台座の後ろに有る宝箱も忘れずに回収した。中に入っていたのは、これもネタ装備の水属性吸収効果のある『さらし&ふんどし』だ。


 例によってこれも何故か防御力はまあまあ高い。つまり……わかるな?


 制作スタッフよ! ありがとう!


「よし、これで装備は整った! 水の大輝石へ征くぞ!」


 気合十分のケオルグが海底神殿に直ぐさま乗り込もうとするが、俺が待ったをかける。


「待った! 俺達の準備があと一つ足りない。海底神殿に行く前に、暗黒騎士の隠れ里へ行こう」


 

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