第17話 聖王の墳墓 

 メカイデカ伯爵の歓待は続き、豪華な晩餐ばんさんの後はそのまま客間に宿泊させてもらった。


 翌日、伯爵邸を立ち去る前に、また武勇伝を聞かせに来てほしいと頼まれ、国境の通行証とブローチをもらった。


 このブローチは身分証明にもなるらしく、エンダーランド王国をはじめ、ヴィクトリア聖国などの近隣諸国でも、これがあればメカイデカ家の縁者としてむげには扱われないそうだ。貴族対策として良いものを貰えたな。


 そのまま出発しようとしたら、ギルマスに引き留められ、今度は冒険者ギルドで宴会となった。


 因みにこの世界では15歳が成人年齢である。モンスターが徘徊している世界にはモラトリアムなどなく、飲酒も喫煙も冒険の旅も自己責任だ。


 昨日も今日も、褒めちぎられながらの宴会だ。周囲の冒険者が口々に俺のことを褒めるが、これは良くないな。エリーが活躍していた事をちゃんと伝えないとな!


「俺だけが活躍していたように見えていたかもしれないけど、そう見えているなら、みんなの目は節穴だぞ」


 俺も少し酔っぱらっているので、思ったよりも声が大きくなってしまった。ギルド中の視線を集めている。


「華々しく活躍するのは前衛職や後衛でも魔法職ばかりだけど、非魔法職の特殊なスキルにはとんでもない価値がある。俺が今回ジャイアントタートルを討伐できたのはエリーの凄いスキルのおかげだ!」


 周りから拍手がわき起こり更に大騒ぎとなる。


「そうだそうだ! 俺はエリーちゃんの活躍もちゃんと見てたぜ!」


「エリーちゃん、伯爵邸で歌ったっていう大亀討伐の歌をきかせてくれ〜!」


「吟遊詩人の歌の効果をもっと知りたい!」


 


 周囲のリクエストに応えて、エリーが歌を披露したら、とんでもない盛り上がりになってしまった。まるでアイドルのコンサートだ。




 結局冒険者ギルドから解放されたのは、遅い時間になってしまった。宿屋で一泊して、明朝早くにメカイデカの街を出発した。


 国境は問題なく越えることができ、公的な通行証のおかげでヴィクトリア聖国側でも順調に入国ができた。この辺りには特にやることがないので、チョコザに乗ってどんどん北東に進んで行った。




 

 

「たしかこの辺りだったはずなんだけど」


「何を探しているんですか?」


 俺が少し迷っているとエリーが聞いてきた。

 

「聖王の墳墓っていうところがこの辺りに有るはずなんだけど······石造りの遺跡みたいな所」


「えーっと······あ! あれじゃないですか?」


 あれだな。まだ、かなり遠かったな。エリー目がいいね。


「ここでも例によって、変だと思ってもあまり気にしないでついてきてね」


「わかりました」




『聖王の墳墓』の入口では、年季の入った司祭服をまとったお爺さんと、その護衛だと思われる人達が、途方に暮れていた。


「どうしたんですか?」


 猫かぶりモードで司祭服のお爺さんに聞いてみる。


「おお、このようなところで旅人に会えるとは······たった二人で旅をされるとは、もしや腕に覚えのあるお方達なのですかな?」


「ええ、戦闘には自信があります」

 

「実は墓荒らしが、聖なる結界を維持するための聖なるトーチを持ち去ってしまったのです。新しいトーチを用意したのですが、モンスターが巣食ってしまっており先に進めず困っていたのです。もし宜しければ私達をこの『聖王の墳墓』の最奥まで連れて行ってはもらえませんか?」


「その依頼引き受けましょう」


「おお! ありがたい! 今の手持ちはわずかですが、聖都まで戻りましたら報酬ははずみますぞ! 道案内はいたしますので、よろしくお願いしますぞ」

  

「わかりました」


 よっし!


 護衛クエストゲット!


 この護衛クエストは、とにかく前へ前へと出しゃばっては、すぐに死んでしまうこの司祭のお爺さんを死なないように最奥まで連れて行き、更にここまで戻って来るという難度の高いクエストなのだ。


 お爺さんが出しゃばりさえしなければ楽に行けるんだがな。この世界ではどうだろう?


「戦闘は私達が引き受けますので、護衛の皆さんはとにかく司祭様を守ることだけに集中してください」


 あらかじめ、司祭の護衛に念を押しておく。出しゃばらせるなよ、と。


「わかった、では露払いはお任せしよう」


「では参りましょう」


 早速、司祭が先頭で聖王の墳墓に潜ろうとする。


 ちょっと待ったぁ!!


 あほか!


 この死にたがりが!


 ゲームでは自分から進んで勝手に死んでいって、何度コンテニューをやらされたことか!


 ここではそうはさせんぞ!


 会話ができるって事は素晴らしい!


「お待ちください司祭様。司祭様のいる位置は常に護衛の方々の真ん中です! 道案内は後方からお願いします!」


 わかったな!?


 絶対に前に来るなよ?


 絶対にだぞ!?


 フリじゃないからな??


 心配だから、チョコとザックにも護衛を頼もう。墳墓の中の道は広めだから、彼らもついてこれる。


「チョコ、ザック。俺達のことは心配ないからこの司祭様を絶対に守り抜いてくれ。頼んだぞ!」


「「ぷえ〜!」」


 よーし、これで安心だ。





 かえる無双であっけなく護衛依頼がクリアできてしまった。やはりエリーは凄い!


 そしてこの司祭のお爺さんを制御できたのが良かった。あれだけ言ったのにまだ途中ででしゃばってこようとしたからな。信じられない死にたがりだ!


 大変な思いをしたんだから、護衛の報酬はしっかりと頼みますよ!? お金はいいから、アレを授けてくださいませ!!


 

 

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