第三章 魔王の呪い

第16話 わっしょいわっしょい! (お風呂回)

 ジャイアントタートルを無事に討伐した俺達は、メカイデカの街へと戻った。


 さすがに体力おばけの俺も、疲れてクタクタだ。早く宿屋で寝たい。だが街の住民は困っていたし、討伐の報告だけは先にしておいたほうがいいだろう。


 冒険者ギルドの扉を開けると、この間とは空気が違っていた。


 なんだ? また何かあったのか?

 今日はもう面倒事はごめんだぞ。


 いぶかしみながらカウンターに行くと、ギルドのきれいなお姉さんじゃなくて、いかつい顔のおっさんが俺たちの前に現れた。


「冒険者ギルド、メカイデカ支部のギルドマスターのキッコーだ。お前たち······」


 がしっ、とおっさんに肩をつかまれてしまった。

 なんだ?


「よくぞジャイアントタートルを討伐してくれた!」


 その一言と共に大きな歓声がギルド中のあちこちからあがった。


「すげーぞ! お前達!」


「後ろから見てたぞ!」


「めちゃくちゃ格好良かったぞ!」


 ······この状況はなんなんだ。


「なんで俺······達が討伐をしたって知っているんですか?」


「なんでも何も、1日中轟音を響かせて戦っていたのに、気づかないわけ無いだろう。途中から、戦える者は援護をしようかと思ったんだが、あまりにお前達の連携が見事だったんで、余計な横槍はやめさせた。足を引っ張ることになりかねんからな」


「そうなんですか」


「この地を治めるメカイデカ伯爵様も、すでにこの事はご存知だ。報酬は依頼主である伯爵様が領主館にて、直接お前達に支払いたいと仰っておられる」

 

 げぇ!?


 伯爵様!?


 貴族の偉い人と会って無礼をはたらいたら、処罰されるとかある??


「なに、大丈夫だ、そう緊張することはない。伯爵様は昔、冒険者として活動されていたこともあってな。気さくな方なので、冒険者は普段通りの応対でも問題ない。むしろ自然体で武勇伝を語ってくれる事を望まれるお方だ。俺もついていくしな」


 俺の顔が、不安で曇ってしまったのを見てとったギルマスがそう助言してくれた。


「どうしようエリー?」


「貴族の方の呼び出しを、こちらからお断りするほうがまずいと思いますよ。行くしかないでしょう。」 


 そうなんだ。


 まあ、そうだよね。行くしかないか。


「終わったら、こっちでも飲もうぜ!」


 冒険者の誘いをなんとなく聞き流しながら、ギルマスに伴われてギルドを出た。





 冒険者ギルドの隣の一番大きな建物が、領主館だったそうだ。


 門番に止められる事もなく、ギルマスはずんずんと建物奥へと進んで行く。なんだか随分と慣れているんだな。


「実はな、伯爵とは同じパーティーで活動していたのだ。だから断りたいような嫌なことがあるなら俺にそれとなく言ってくれ。なんとかするから。まあ、悪いようにはならんさ」


 しばらく廊下を進んだ後、執事の待ち構える扉の前で俺達は一旦立ち止まった。


「ようこそいらっしゃいました。中で伯爵様がお待ちで御座います」


 そう言って、扉を開けてくれたので中へと入る。


「ラゴウ=メカイデカである。よくぞ、ジャイアントタートルを倒してくれた! 我が街の英雄よ! さあ、そこに座るがよい! そして存分に語り合おうではないか! さあ!」


 なんかすっごいテンションの高いイケオジが現れた。おでこが若干後退している事以外、非の打ち所のないイケメンだ。


「ルイです」


「エリーです」

 

「まずは冒険者ギルドに依頼しておいた約束の報酬を支払おう。セバス!」


 執事さんが大金を振り込んでくれた。


「だが、これではとても足りんな、あの戦いを見てそう思ったぞ。他に何か欲しい物はないか?」


 まだ何かくれるのか、ゲームと違って大盤振る舞いだな。それなら······


「可能なら、エリーの強い防具がいただきたいです」 

 

「防具か······それならば今私が用意できるのは、聖銀のローブとブーツであるな。それで良いか?」


 な、なんですと!?

 聖銀ミス○ルシリーズはもっと後でしか入手できないというのに! やったぜ!


 伯爵様、太っ腹だね! 来てよかった!


「ルイは何か無いのか?」


 えっ!?


 一人ずつくれるの??


 俺は報酬のお金をもらったから十分だと思ってたんだけどな······それなら······日本人としてずっと我慢していたことを頼んでみるか。


「お風呂に入りたいです!」


「むぅ、欲がないのだな。風呂か、後ほど準備させよう。よし報酬の話はよいな? ではジャイアントタートル討伐の話を聞かせてくれ! さあ!」


 圧がすごいな、このおっさん。


「それでは、私が一曲ご披露いたします」


 俺が勢いにおされて、タジタジになっているのを見かねたエリーが曲を奏でだした。


 わくわくするような大亀討伐の冒険譚だ。吟遊詩人としても凄いねエリー! 惚れ直したよ!


 所々、そうとう美化されている所があったけど、素晴らしい歌だった。

 

「素晴らしかったぞ、エリー! まだ他にも歌は有るのか?」


 リクエストされたエリーが、次々に奏で始める。 


 俺の美化が凄い事になっている。


 恥ずかしくて赤面してしまう。


 いつの間にこんなに沢山の歌を作っていたのか。



 


 伯爵様がエリーの歌に満足してくれたので、お待ちかねのお風呂タイムだ!


 この世界で初めてのお風呂!

 日本人はやっぱりお風呂だね!



「それではお身体を洗わさせていただきます」


 ん!?


 湯着をまとった綺麗なお姉さんがいつの間にか背後に立って石鹸を泡立てていた。


「いえ、自分で洗えますので······」


「それでは私が伯爵様に叱られてしまいます。さあリラックスしてそこにお座りください」


 え〜!?


 結局されるがままに全身泡だらけにされて、洗われてしまった。洗っていくたびにお姉さんの湯着も濡れて透けていくので目のやり場に困る。


 いつの間にか隣ではエリーも洗われていた。もちろん、すっぽんぽんだ。


 続いて全身マッサージまでされてしまった。めちゃくちゃ気持ちいい〜! お姉さんのお胸が当たってくるんだよ。


 伯爵様ありがとう!


 お風呂はやっぱり最高だね!


 



 

 

 

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