閑話  一方その頃勇者パーティーは・・・その7

 ルイパーティーのミューズ号と別れた勇者パーティーのグローリー号は、エンダーランド王国の勇者アイスと騎士ナイトゴライアの生まれ故郷、ビーギン村へと到着した。


 ただし凱旋帰郷というわけではない。勇者アイスの魂が魔王軍の罠により傷付いて寝たきりになり、目覚めない状態になってしまったからだ。家族の元でアイスの療養をする為に帰って来た。


 早速、ビーギン村の駐在騎士の息子であるゴライアが、アイスの両親にパーティーメンバーの黒魔道士ローザを紹介した。そして超人魔王の経緯を全てを打ち明けて、守りきれなかった事を詫びた。


 アイスの両親はアイスの自業自得な面も有る、とゴライアやローザを責めることはせず、アイスの看病に徹した。ローザもアイスの元を離れたくないと健気に看病をしている。


 必然的に、残されたゴライアが飛空艇グローリー号でエンダーランド王国の王都へ報告に行くこととなる。ゴライアは脳筋だが頭が悪いというわけではない。国王はじめ国と教会の重鎮へ現状説明を適切に果たした。


「むぅ、まさかネアの本性がサキュバスだったとは……素行も良く、勇者アイスと同年代でパーティーとして上手くいくのではないかと期待していたのだが、その前提から崩れていたのか。しかし回復役がおらぬのでは、この先勇者が復活したとして上手く立ち回る事は難しかろう。誰か他に適切な者はおらぬか?」


 国王の落胆混じりの言葉に教会の司教の内の一人が答える。


「勇者パーティーの面々とは10歳ほど離れておりますが、一人適任の者がおります。白魔法と青魔法を使いこなす、元冒険者Sランクの者です。二十年以上前より見知っている者なので魔物の可能性は無いと思われますが、一応『真実の鏡』で確認してみましょう」


「おお、あてが有るのか。それは良かった。すぐに交渉を始めてもらおう」




 司教の案内で、飛空艇グローリー号はホウツイの街へと向かった。


騎士ナイトゴライア殿、ネアの本性を見抜けなかったとはいえ、教会所属の者がご迷惑をおかけして申しわけなかった」


「いや、これは誰が悪いとかという問題では無いと俺は思っている。魔王軍が一枚上手だったのだ」


「そう言っていただけると助かりますな。これからご紹介しますシスター・ステラは、性格は少々クセが有りますが、間違いなく有能な者なのできっとお役に立てるでしょう」

  

 ホウツイの街に到着したゴライアと司教は、北西の旧スラム街へと向かった。


「この辺りはつい数ヶ月前まではスラム街だったのですが、皆の意識に変化が現れ、現在では貧しくとも犯罪は無く、全ての住民が自活出来るように生まれ変わりました」


「なんと、それは凄いな。スラム街の住民が自力で生活を立て直すとは並大抵のことでは無いだろう」 


 ゴライア達は、一番奥にある歴史を感じさせる古い教会と、そこに併設された孤児院へとたどり着いた。孤児院の中に入ると、司教が一人のシスターに呼びかけた。


「シスター・ステラ、あなたの冒険者としての力を借してください。勇者パーティーに入って魔王を倒す旅に同行してもらいたいのです」


「司教様、前も断ったでしょう。15歳やそこらの若造のおもりは嫌だって。孤児院の子供達のお世話で間に合っていますよ。男はやっぱり30歳以上で渋みが出てきてからじゃないと」


「まぁ、そう言わずに。勇者パーティーは既に様々な苦難を乗り越えていますので、ただのわがままなお坊ちゃんではありません。今こそあなたが手を貸してあげて新たなステージへと導いてあげてください」


「そうは言ってもねぇ。ここのスラムを救ってくれた、聖女パーティーの守護天使ルイさんのパーティーなら参加してみても良いけれど、若い男のパーティーには興味がないのよね」 


「我が妻(になる予定)のルイを知っているのか!?」


 思いがけずルイの名前が出てきて大興奮のゴライア。つい『我が妻』と言ってしまった。


「あら、ルイさん結婚してたの? あなた中々貫禄が有るいい顔しているわね。残念、先を越されたか。やっぱり貴方くらい渋みが無いと男はダメよね」


「俺はまだ16歳なのだが……」


 あまりの言われように、つい小声でぼそっと呟いてしまうゴライア。


「おお、こちらの方は勇者パーティーの騎士ナイトゴライア殿だ。シスター・ステラのお眼鏡に適う御仁でありましたか。いかがでしょう、勇者パーティーの手助けに興味は出てこられましたか?」


「残念だけど、私は人のモノには興味が無いの。既にルイさんと結婚しているんでしょ? お似合いじゃない。羨ましいわ」


「いや、ルイとの結婚はまだだが、もう間もなくであるだろう。故に勝手に妻と呼んでいる。ルイには勝手なことを言うなと叱られてしまったが……」


「ふ〜ん、そうなの?」


 じろじろと品定めをするかの様に、ゴライアを眺めるシスター・ステラ。


「あなたレベルはいくつ? 転職や第二職業はある?」


「71だ。転職も第二職業もまだだ」

 

「私はレベル40よ、三度目のね。それじゃあこうしましょう。私の攻撃にあなたが耐えきったら、勇者パーティーの実力を認めて仲間になってあげるわ。参考までに教えて上げるけど、私のジョブは青魔道士よ。第二職業は白魔道士、第三職業は魔獣使い。外の広場でヤルわよ」


 ピュ〜イッ!


 シスター・ステラが指笛を鳴らすと、どこからともなく真っ赤なチョコザと真っ青なチョコザが現れた。


「私の従魔のアグニとアクゥよ。彼らにも見届けてもらうわ」




 

 広場に移動したゴライアとステラは、司教の立ち合いのもと試合を始めた。


 ステラはムチと様々な青魔法を駆使して、怒濤の勢いでゴライアを攻め立てる。だがこれまでの数々の戦闘でパーティーの盾として活躍したゴライアも決定的な一撃を受ける様なヘマはしない。堅実に守りきる。


 興が乗ってきたのか、ステラはインベントリから『青魔の仮面』を取り出し装備した。『青魔の仮面』は青魔道士の力と魔獣使いの力がアップする、目元だけを隠すタイプの伝説級のアクセサリーである。


「アハ! あーハッハッハッハ!」


 ズバババババシッ!

 

 ゴライアへと全方位から縦横無尽にムチがとぶ!!

 気合いで受け止めてみせるゴライア!

 

「いい! ごぉ〜っかく!」


 はぁはぁと荒い息を吐き、ステラの顔が紅潮している。

  

「あなたイイわね! 合格よ、ゴライア! 勇者パーティーに入ってあげるわ」


 はぁはぁと荒い息を吐き、疲労によりその場に立ち尽くすゴライアに、ステラが回復魔法をかけてあげた。


「それはありがたい申し出だが、俺はまだ16歳だぞ」


「え!? そんなのうそよ! お願いだから30歳以上だと言って!」


 何やら思惑がはずれたっぽいステラ。ゴライアの受難は続く……のか?

 

 

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