第76話 俺がゲンコツすれば
俺達ルイパーティーを乗せた飛空艇ミューズ号は、モロダジャナ王国の飛空艇建造ドックを飛び立ち、エンダーランド王国のビーギン村へとやって来た。勇者パーティーとして村を旅立って以来の、エリーにとって久し振りの里帰りだ。
勇者アイスの容態をみたいというエリーの希望で、先ずは勇者アイスの実家へとエリーの案内で行くことになった。
勇者アイスの実家に近づくと、入り口で揉めている男女が数人いた。
「うちは女がパーティーに入るのは、もう嫌なんだけど」
ローザが女性を拒絶していた。
「だが、パーティーに回復役は必ずいるだろう。一度立ち会って俺自身が確かめたが、青魔道士ステラの実力も回復魔法も俺達以上のレベルだぞ」
ローザの意見に対して、ゴライアは正論をぶつけている。話の前後はわからないが、俺もそう思う。RPGのゲーム世界でバトルをするのに、回復役無しなんて自殺行為だからな。
青魔道士か、青魔法は優秀な回復手段の一つだからな。いいんじゃないか?
「どうかしたのゴライア君?」
ただ事ではない様子に、エリーがゴライアに近づいて声をかけた。
「おお! 我がつ……ルイにエリーか。ネアの事を国に報告しに行ったら、優秀な回復役を国に斡旋されてな。新たな仲間として同行して来てもらったのだが、ローザが頑として受け入れてくれないのだ」
「だって、また勇者様を付け狙う魔王軍の可能性もあるし!」
「だから既に『真実の鏡』で、人間だと証明出来ていると言っているだろう」
「……ゴライアは知らないだろうけど、
なんだと!?
『真実の鏡』に映らないなんて、大魔王の完全人化の呪いって物凄いんだな。確かに魔王軍の可能性が残っているのは困るな。せっかく勇者アイスが復活したとしても、また何か魔王軍に悪さをされたらたまったものではない。
「あっ! そうだ! イーリアス、
「ああ、わかった」
『まいどまいどインベントリはあかんって言うとるのに……』
はっつぁん登場だ。いい加減諦めて黙っていれば良いのに……
「
『ん? なんやねん、藪から棒に。ん〜!? 別に呪いの匂いなんてせぇへんで? こっちのお姉ちゃんは、後もうちょっとで合格なんやけどなぁ、惜しいでほんまに』
「そうか。ありがとう、はっつぁん」
俺がイーリアスに目配せすると、スッとはっつぁんは消えた。騒がしいから君は
「ローザ、俺は部外者だから誰を仲間にするとかしないとかは口出しするつもりはないけど、ネアの本性を見破った破邪の剣の言う事だ。これならば人間だと信用出来るんじゃないか?」
「……人間だとは認めてあげる。でも女は……」
「ちょっといいかしら? 勇者って15歳なんでしょ? 私は成人したばかりの小僧っ子になんか興味無いから安心しなさい。いい? 男ってのはね、酸いも甘いも噛み分けてからが魅力的なのよ? 貴女もそのうちわかると思うけど、渋みがいいのよ渋みが」
青魔道士の人が力説してらっしゃる。
その主張、わからんでもないけどな。年上好きなのかな。それにしても、どこかで見た顔なんだが、どこかで会ったっけ?
「久し振りね、ルイさん。服装が全然違うからわからないかしら? ホウツイの旧市街にある孤児院のシスターよ」
「あー! 青のチャイナローズのイベントのシスター! (※詳しくは第6話参照) 装備が全然違うからわかりませんでした」
ホウツイのスラム街での青のチャイナローズのイベントの時は、黒を基調としたシスターの格好をしていたから全然雰囲気が違うな。今は豊かな金髪をポニーテールにして、赤い帽子を被っており、軽装鎧とブーツを装備している。顔はあの時と同じで美人さんだ。
「私の名前はステラよ、よろしくね。そうそう、聞いてくれる? ルイさんがスラム街に来てから、カルロが妙にやる気を出してね、本人も真面目に仕事をするし周りにも仕事を見つけてくるしで、今はみんなが自活出来ているのよ。孤児院への寄付だけじゃなく、スラムまで良くしてくれてありがとうね」
「ちょっとなんの事だか良くわからないです。カルロって誰ですか?」
「入り口にいたチンピラよ。貴女が更生させてくれたんでしょ? 本人がそう言っていたわよ」
ほえ〜??
俺が最後にゲンコツしたあのチンピラ?
あの『連続かつあげイベント』で、ホーツイのスラム街で何か変わったのか? これがバタフライ・エフェクトってやつか!? 俺という異分子が紛れ込んだせいで、この『ファンサ5』のゲーム世界はどれだけ変化しているんだろうな。
「何か困った事があったら、いつでも私に相談してね。シスターだしお悩み相談は得意なのよ」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いしますね」
勇者アイスの自宅に入り、エリーの紹介でアイスの両親と妹に挨拶してからアイスの容態をみたが、依然として寝たきりのままで、動き出す気配はない。
俺が知らなかったミスドジードや、ネア=モースジードの様に、魔王軍にはまだ俺の知らない敵がいるのだから、出来れば復活して魔王軍と戦って欲しいところだ。もちろん俺達にはもう、うざ絡みはしないでくれよな。
そんな期待をしながら、勇者復活の為の竜伝山という未知のマップに想いを馳せる。ゲーマーとしての本音でいえば体験したいところだが、ゴライア達が自分で頑張ると言っていたので余計なお世話だろうな。残念だが諦めよう。
長居しても悪いので、早々に勇者アイスの家を辞して、俺達はエリーの実家である村長宅へと向かった。
「エリーねーちゃんおかえり!」
村長宅の前では、エリーによく似た美少女と美少年が待っていて、出迎えてくれた。
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