第47話 ミューズ (第二部第一章終わり)

 船首の女性像が偶然にもエリーにそっくりなんだけど······こんな事ってあるんだな。びっくりした。俺がこの飛空艇の事を内心でエリー号と呼んでいたところに、シュドゥから命名権をいただいた。これはもう決まりだろう。


「この飛空艇の名前はゴーイングエリー号だ!」


「却下です!!」


 俺が飛空艇名を宣言すると、間髪入れずにエリーから待ったの声があがった。


「何が気に入らないのさ、エリー?」


「全部アウトです」


 え〜!? いい名前だと思うんだけどなぁ。


 俺の乏しい名付けスキルに頼られても、第一案が却下されると途端に次の名前が出てこなくなるんだよなぁ。困った。





 エリー号が駄目なら歌の女神から連想してミューズ号とベンテン号とサラスバティー······は長いからサラ号。この世界だと似合いそうなのは······ミューズかな。

 

「じゃあミューズ号ね! 異論は認めません!」



 俺の名付け決定を受けて、シュドゥが声を張り上げる。


「よし、今からこの飛空艇の名前はミューズ号じゃ! 早速飛行試験を始めるぞい! ルイよ、お主達にも操縦を教えねばならんから、早く乗るんじゃ!」


 おおー!


 遂に飛空艇に乗れるのか!


 おらワクワクすっぞ!


 俺達パーティーメンバーが乗り込むと、早速シュドゥが飛空艇を発進させた。シュドゥも待ちきれないくらい興奮しているんだね。


 俺達を乗せた全長約18メートル、全幅約4メートルの飛空艇の船体が、ぐんぐん垂直に上昇を続け、先程までいた飛空艇建造ドックがどんどん小さくなっていく。


 北西を見れば、遠くに中央高山地帯、南を見れば青い海が見えている。高いところって気持ち良い〜!!


 エリー達仲間の皆も、大興奮して口々に歓声を上げている。

  

「むぅ、メイン動力の魔石と浮遊石のエネルギーのロスがまだまだ大きいみたいじゃのう。これ以上の上昇は止めておいたほうがよさそうじゃ。これでは中央高山地帯の様な高山には入るのは危険じゃな。残念じゃが今の技術では仕方ないのう」 

 

 シュドゥが嘆いている。

 

 ゲームで高山は通過出来なかったのには、そういう理由があったのか。なるほど〜!


「よし、それでは前進じゃ!」


 ゆっくりと動き出し、徐々にスピードを上げていく飛空艇。最高速度まで達した後は止まったり急発進なんかもテストをしている。旋回機能のテスト、ホバリングのテスト等、必要な飛行試験を終えて再びドックへと着陸した。


「着陸も、着水もできるぞい」


 シュドゥが自慢げに話してきて、飛行試験は終了となった。


 


「我らがモロダジャナ王は、聖女エリーパーティーと共に、儂が飛空艇の飛行試験がてら初号機ミューズ号を預かり、この大陸を飛び立つ事を許可してくれた。弐号機以降の量産体制への引き継ぎが終わり次第、明日には出発できるぞい」 


「ありがとうございます! それでは明日からよろしくお願いします!」


 シュドゥ達は忙しそうだったが、俺達が早く魔王討伐に出発出来るように最大限協力してくれているようだ。ありがたいことである。


 それでは俺達は、今日はもう宿でのんびりと休ませてもらおうかな。


 



 翌日になり、朝の儀式を滞りなく終わらせた俺達はウキウキしながら飛空艇建造ドックへと向かった。


 若干目のすわった感じのシュドゥが出迎えてくれて、早速ミューズ号に乗り込む。シュドゥ達は徹夜だったのかな? 急がせてしまってごめんね。


「では出発じゃ! 無限の彼方へ、さあ行くぞい!」


 シュドゥの高らかな掛け声と共に飛空艇ミューズ号は上昇していく。そしてズイーブド大陸の外を目指して前進して行った。


「シュドゥさん、南南西に進路を取ってくれ!」


「了解じゃ!」




 

 陸地は、はるか後方に置き去りにし、広い洋上を南南西に進み続けると、海が断崖絶壁となっているのが見えてきた。


 風の大輝石の不思議な力で、本来なら滝のように落ちるはずの海の水は、それ以上外へと流れていっていない。なんとも奇妙で不思議な光景だ。


 浮遊大陸の端を越えた!


 いよいよこの先にはワールドマップが広がっている! 待ってろよ水の大輝石! 準備ができ次第解放してやるからな。




 

 ―――――――――――――――――――――――――――――



 以上で第二部第一章は終わりです。

 

 第二部第二章はいよいよズイーブド大陸を飛び立ち、舞台は世界各地へと移っていき、物語も加速してまいります。

 

 皆様の熱い応援のお陰で、第二部開始より一週間で異世界週間ランキング566位と凄くいい位置に押し上げて頂いております。


 ありがとうございます! m(_ _)m

 

  

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