第46話 飛空艇
俺は『レゴムの洞窟』最奥の間からの帰り道に、道すがら今回の事を考察していた。
ゲームの時は『永久氷床の欠片』はもっと後に手に入るアイテムだし、アダマンタイトゴーレムはあそこまで強くなかった。今の俺達のレベルなら、他のゴーレムを吸収して
やはり現実となった世界では、俺やエリーが大活躍してしまっているように、生きている全ての者が自分の意思で行動することによって、俺の知っているゲームとは少しずつズレていっているのだろう。
他の死天王や大魔王デスジードとの戦いはどうなってしまうのだろう。
ひょっとして時間がたてばたつほど、魔王達もゲームよりめちゃくちゃ強くなっていくんじゃなかろうか。そう、俺達が凄いスピードでレベルアップしているように。
そう考えると、のんびりしていられないな、やはり最速クリアを目指すべきだ。
おっ! 出口が見えてきた! 外の明かりだ。
「皆さんお帰りなさい」
「ぷぇ〜!」
カサンドラとザックも無事のようだ。笑顔で俺達を出迎えてくれた。
「ただいま戻りました! 母上達もご無事でしたか?」
「ザックがチョコリュージョンで結界を張ってくれていました。こちらは何も起こりませんでしたので、問題ありませんでしたよ。リア達も全員無事で良かったです」
イーリアスとカサンドラが洞窟内の事を和気あいあいと話しだした。この二人は実に仲が良いね。羨ましくなるほどだ。
「シュドゥさん、シュドゥさんのお仲間にはどうやって浮遊石を回収したことを報せるんですか?」
「おお、それはな、赤の信号魔弾を空に打ち上げるんじゃよ。この場所ではまずいからの、モロダジャナ王国側の集合場所まで移動してから合図をするとしよう」
「わかりました。それではエリーとカサンドラさんにチョコに乗ってもらって、シュドゥさんにはザックに乗ってもらいましょう。俺とイーリアスは歩きでも大丈夫ですから」
シュドゥの案内でモロダジャナ王国のメンバーとの集合場所に到着すると、早速シュドゥが空に向かって信号魔弾を打ち上げる。
「これでよし。数時間後には儂の仲間達も戻ってくるじゃろう」
戻って来るまでの間に皆で焚き火を囲みながら、インベントリから取り出した下処理済みの分厚い一角羊の肉を網焼きでじっくりと焼いた物を食べた。
強火の遠火でミディアムレアに焼いた一角羊の極厚ステーキは、余分な脂は落ちており、ハーブが程よく効いており臭みもなく、とても美味かった。あまりの旨さに皆おかわりをして、俺とイーリアスなど三枚も食べてしまった。
数時間経つと、シュドゥの言葉通り、一人、また一人と戻ってきた。シュドゥを入れて飛空艇技師が四人、護衛が八人総勢十二名だ。一人も欠けていないとの事なので技師達も武闘派揃いなんだろうな。皆厳つい身体つきをしているし。
シュドゥの仲間が揃ったので、モロダジャナ王国の王都ジョワ近郊の飛空艇建造ドックに皆で戻ることになった。
街道に出た後は順調に旅は進み、八日後にはドックに辿り着いた。その間にモロダジャナ王国の人達とも色々話をする中で、俺達が死霊魔王を討伐した事も知れ渡った。お陰でモロダジャナ王国の皆さんからの、特に俺への扱いが、もう物凄い事になっていった。
英雄にひれ伏す皆さんの図、である。毎日のようにエリーのコンサートが開かれれば当然そうなるよね。俺も自分の体験した事なのに、エリーの歌を聴いてるとその主人公かっけー! ってなったもんね。自分の事なんだけどさ。
飛空艇建造ドックに帰り着いたシュドゥ達飛空艇技師は、脇目も振らず一心不乱に作業を開始していた。俺達は邪魔にならないように、遠巻きに眺めるのみだ。
ドックに安置されている姿を見ても飛空艇はかっこいいな。これが空を飛ぶと言うのだからもうワクワクが止まらない。
あれ!? 船首の女性像が偶然にも俺のよく知る人物にそっくりなんだけど······こんな事ってあるんだな。びっくりした。
「よし! これで浮遊石の力が動力と上手く噛み合って飛べるじゃろう!」
シュドゥの興奮した声が聞こえてきた。
「メイン動力始動じゃ!」
しかし飛空艇は動かなかった。
「むぅ! エネルギーの伝達が上手くいっとらん! ここの伝達部分が参考になるオーパーツが無い為、儂らの知恵の結晶で造り上げたんじゃが、駄目じゃったか! 悔しいのう。せめて古文書に書いてある『古代の歯車』が一個でも現存しておれば······」
はい。
クエスト発生ですね!
なになに、次のクエストはこの浮遊大陸の何処かにあるという『古代の歯車』をゲットせよ! ですか?
初回プレイのゲームの時は、情報を探し求めてあっちこっち国を跨いで大変だったんだよな〜!
タラララッタラ〜!
「こだいのはぐるまぁ! ならここにあるよシュドゥさん」
俺はインベントリから『古代の歯車』を取り出しシュドゥに見せる。
「な、なんじゃと!? お前さん達は何処でこれを手に入れたんじゃ!?」
「死霊魔王城の隠し部屋で見付けたんだよ。そんなに大事な物だったなんてシラナカッタナァ」
俺の大根演技が光る!
「これが有れば······急いでデータを取って複製できるようにするのじゃ! 超特急で仕上げるぞい!」
「よし! 今度こそ浮遊石の力が動力と上手く噛み合って飛べるじゃろう!」
シュドゥの興奮した声が聞こえてきた。
「メイン動力始動じゃ!」
飛空艇がスゥーッと浮き上がりホバリング状態となった。
「成功じゃ! 皆、ようやったのう!」
飛空艇技師達が肩を抱き合って、涙を流して喜んでいる。人生をかけて開発した飛空艇が完成したのだ。大いに喜んで欲しい。
「おっと、こうしちゃおれん! 皆、全てのデータを取って弐号機以降の動力の再現に全力を尽くすんじゃ!」
「「「おお〜!」」」
盛り上がっていますね。頑張ってね。
「シュドゥさん」
「おおルイよ、お主がこの初号機に名前を付けてくれんか?」
え? 俺が名前を付けて良いの?
じゃあ、さっき考えていた名前で······
「この飛空艇の名前はゴーイングエリー号だ!」
「却下です!!」
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