閑話 深淵にて・・・その2
闇が覆う深淵にあるデスジード城にて、大魔王デスジードはおよそ百年前に呪いの触媒に使った、かつて
異変はそれだけでは無かった。
その一刻ほど前には大魔王デスジードの影の集団『死影衆』の長の一人で潜入・撹乱部隊の長である『潜影』のモースジードの『完全人化の呪い』の触媒に用いた百人の乙女の髪を撚り合わせたものも消えていた。
更にほぼ同時刻に、人を超人化する『呪いの鉄仮面』の触媒に使ってあった、かつての英雄のデスマスクも消失していたのだ。
「この短時間に我が呪いが三つも解かれただと? 特に当時の持てる力の全てを注いで作り上げた聖竜王ファーヴニルへの毒の呪いが······有り得ぬ。聖竜王をも
しばしの黙考をへて目を開けた大魔王デスジードは背後へと呼びかける。
「ミスドジードよ。500年の長きにわたり取り組んでいた、聖竜王ファーヴニルの力の奪取計画が頓挫した。
フッと背後の空間が揺らめき、そこから怪しげな声が聞こえてくる。
「……異常事態でございますね。モースジードはやられたということでしょうか?」
「おそらくな。……呪いの触媒が消失しただけなので詳細はわからぬが、勇者へ用いた鉄仮面による超人魔王誕生も失敗したと見てよかろう。長年に渡り進行してきたいくつもの計画を邪魔されるとは……報告にあった例の『聖女パーティー』の調査はどうなっておる?」
「死影衆及びモースジードの追跡調査の報告によりますと、聖女パーティーは元勇者パーティーに所属していた吟遊詩人のエリーを筆頭に、モンクのルイ、そして暗黒騎士のイーリアスの三名で構成されているようです。リッチや死霊魔王を討ち取った功績でエリーという者が聖女と呼ばれている様です」
「そうか。ジョブとしての聖女ではないのだな。いったいどういうからくりで、特筆すべき点の無い者共が死霊魔王達を討ち果たしたのか……やはりイーリアスか? いや、決めつけるのはまずかろうな。他に人間の名のある者達の中で、モースジードを倒せるような者の情報は有るのか?」
「いえ、ジョアーク帝国に属する者以外で、それ程の剛の者の情報は入っておりませぬ。モースジードからの最後の報告では、これから邪竜ファーヴニル討伐に向かうというものでしたので、勇者パーティーでないのでしたら聖女パーティーが呪いを解いたのかと」
「そうであろうな。今代の勇者は、レベルを上げさせてから死霊魔王により強力なアンデッドにする計画も、この間ミスドジードが発案した超人魔王化して闇の勢力に取り込み、いずれ我が吸収する計画も潰れた。だが鉄仮面の呪いが解けたとしても、無事ではあるまい」
「その通りかと。まだ生命が有るようでしたら秘術により聖の力を抽出し、聖石或いは聖魔石の材料と致しましょう。勇者アイスの消息を全力で調査致します」
「うむ、ミスドジードはその件を最優先で進めよ。ジョアーク帝国のコムゲーンにも情報を集めるように通達せよ。ケンタジード! マクドジード!」
大魔王デスジードが玉座の間の左右の壁面付近に呼びかけると影が揺らめき二人の人影が現れた。
「『瞬影』のケンタジードここに」
「『操影』のマクドジードここに」
「ケンタジードはお前の管轄でもある伝説級の武具の再調査をせよ。特に破邪の力を持つ物は大なり小なり関係なく、全ての所在を明らかにせよ」
「ひひっん゙! かしこまりました」
「マクドジードは全力で聖女パーティーの情報を集めよ。どんな些細なものでも見逃すな。彼奴らは少なくとも死霊魔王とリッチを倒しておる。油断せず全ての情報を集めて報告するのだ」
「ははっ」
「また、それと同時に聖竜王ファーヴニルの遺児シーラの所在を突き止めて、我の前に連れて来るのだ。聖竜王の呪いが解かれたからには、もはやコムゲーンにまかせて魔竜王への種を撒く計画も無理であろう。まだ成長しきっておらずもったいないが、速やかに我が吸収する事とする」
「ははっ」
「マクドジードもコムゲーンを上手く使え」
「ははっ! 仰せのままに」
玉座に座り、思索にふけっていた大魔王デスジードは、マナの信号を感じると、ローブより心臓の形をしたナニかを取り出した。水色の宝玉が輝いており、宝玉にマナを込めると海月魔王と通信が始まる。
「いかがした海月魔王クラーゲンよ」
「グブブ、クラーゲンにございます。デスジード様、お喜びくださいませ。現在水の大輝石は八割を越えて闇に染めあげましてございます。グブブ、先程極端に水の大輝石の抵抗が弱まりました。この調子でいきますれば後一月程で完全に染め上げることが可能でございます」
「でかしたぞ、クラーゲンよ。大輝石の一角が完全に堕ちれば、他の大輝石も連鎖的に抵抗が弱まる筈だ。ファファファファファ」
世界中を深淵の底に沈めるべく、恐ろしい計画は粛々と続いていく······
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