閑話  とある吟遊詩人の奮闘記・・・その2

 □月△日


 聖王の墳墓ふんぼでシェンヒム大司教との運命の出会いを果たした。


 見た目はムキムキマッチョの、くたびれた司祭服を着たお爺さんなんだけど、見た目に反して物凄く気配りの出来る方で、何よりとても優しい。


 シェンヒム大司教に歌の弟子として認めていただいて、『レクイエム』という凄い歌のスキルを授けてもらえた。吟遊詩人として、歌を認めてもらえた事はとても幸せだ。



 □月♤日


 聖都セイダードへの馬車の旅の間中シェンヒム大司教と『レクイエム』の研鑽けんさんを毎日積んでいたら、突如アルティメットユニゾンスキルを閃いた。


 闇夜に突如ポッと火が灯る様な感覚で急に出来る様な気がしたのだ。大司教様も全く同じタイミングで閃いたみたいで、二人で顔を見合わせて今のはなんだ!? となった。不思議な経験に、更に議論を交わす事となり、中々結論は出なかった。


 

 □月♡日 


 今日はとてもとても、長い一日だった。


 シェンヒム大司教から依頼された、大聖堂地下ダンジョンのモンスターを全て排除した後に、『聖玉』を最奥の間の祭壇に安置するというお仕事から始まった。


 ルイちゃんが相変わらず大聖堂地下ダンジョンの宝箱を開けようとするので、元々教会の物だからという私と、もうダンジョン化しているから見つけた者の物だというルイちゃんで意見が対立してしまった。


 ルイちゃんは私の天使なんだから泥棒はだめだよ。でもルイちゃんの意見も一理あるような気がするし、悩ましいな。


 

 恐ろしいリッチとの激闘は、冷や汗が出っ放しだった。あの全身に纏わりつくような邪悪な冷気は、体感した者しか分かり得ないだろう。 


 ここでもルイちゃんは凄かった。


 リッチの邪悪なオーラをものともせずに接近したかと思うと、ほんのりと光る両の拳を次々とリッチに繰り出していき、ついには打ち倒してしまった。


 ルイちゃんが戦っている姿は、華があって光り輝いている。感動的なこの光景は、絶対に詩にして語り継ぎたい。またもや名曲の予感がする。



 リッチの最後の大召喚によって、地上は地獄絵図となっていたけど、シェンヒム大司教と共にあのアルティメットユニゾンスキル『サウザンドウインド・レクイエム』を歌うと、聖都中のアンデッドが次々と浄化されていって、この大騒動は終結した。


 その後の調査で怪我人はいても死者はいないとの事だったので、本当に良かった。


 大聖堂にて教皇聖下に直接お言葉を賜り、私は『聖女』に、ルイちゃんは『守護天使』に任命されてしまった。身に余る役割であり二つ名だ。正直に言って分不相応なので困ってしまう。


 それに・・・ルイちゃんは私だけの守護天使だったのに、名実ともに皆の『守護天使』になってしまった。嬉しい気もするけど、ちょっぴり残念な思いもある。


 夜寝る前に、ルイちゃんから髪飾りの事で話をしておきたいと言われた。私の感情にまで気を使ってくれているのが感じられて嬉しくなる。もっともな事だったので私も了承し、その時だけお揃いで髪飾りをつけてみた。


 あんなに激しく戦う人と同一人物だとはとても思えない程、ルイちゃんの白金の髪飾り姿は可愛らしかった。私だけが知るお人形さんみたいなルイちゃんの可愛らしさに、思わず心がときめいてしまう。何か別のお揃いの品を身に付けるのも良いかもしれない。


 その後サーンヒ村での出来事を語り、ルイちゃんに私の後悔の話を聞いてもらうと、ルイちゃんは優しく抱きしめて励ましてくれた。


 ああ、私も誰かにあの時の心の傷を癒してもらいたかったんだな······ありがとう、ルイちゃん。




 □月♢日


 ルイちゃんが熱い思いを語ってくれた。 


 まるで恋する乙女のような表情で、延々と一人の騎士の事を語り続けるルイちゃんに、私はちょっぴり嫉妬してしまった。ここまでルイちゃんに想われている人がいたとは······


 ルイちゃんはその騎士の性別の事が「男か女か分からない、多分男だと思う」と言っていたけど、私の女の勘が告げている。······女だ! しかも私の天敵タイプとみた!


 何にせよ卑劣な魔王の呪いを解いて、その人のお母さんを解放してあげるのには賛成だよ。


 死霊魔王よりも強い相手との闘い。頑張ろうね。 



 □月♧日


 アララット山山頂の、ワイバーンキング戦は今までに無い戦いだった。私達の手の届かない遥か高所から延々と攻撃してくるワイバーンキングに、文字通り手も足も出なかったのだ。


 とどめを刺しにきたワイバーンキングに、ルイちゃんの渾身のカウンターが決まった瞬間には全身に鳥肌が立った。一瞬ルイちゃんが串刺しになったかと思ったよ。とても怖かった。


 今回は倒せて良かったけど、やはり遠距離攻撃できるパーティーメンバーが仲間に欲しいとつくづく思わされた。



 ルイちゃんが『破邪の剣』を台座ごと引き抜いてしまった! ルイちゃんの力がおかしな事になってしまっている。あの体のどこからそんなパワーが出てくるのか。


 これが全ての呪いを断ち切るという『破邪の剣』······そう厳かな気持ちで台座から引き抜いてみると、するりと抜けてしまった! えっ! なんで抜けちゃうの!? こういうのは物語でいうと勇者が引き抜くものじゃないの!? 


 私は柄にもなく物語の主人公になったつもりで興奮してしまった。




 ······あの剣はだめだ。


 私の興奮を返せ。

 私は二度と触らない事を心に誓った。



 □月☆日


 メカイデカの冒険者ギルドで、アイス君、ゴライア君達と再会してしまった。出来ればこういう形では会いたくなかった。


 アイス君にパーティー在籍時に私が手抜きをして、余計な苦労を押し付けていたと言われてしまったのだ。


 ルイちゃんが私の事を庇ってくれたけど、私も自分の事はきちんと自分の言葉でアイス君に伝えなければならない。 


 力不足で足を引っ張ってしまっていた事、全力でサポートしていた事、手抜きなんかした事は一度もない事、私自身が驚いている位ルイちゃんのお陰で急成長できた事。それらを自分の口からちゃんと伝える事が出来た。


 それでも、アイス君は謝って俺の所に戻ってこいと言ってきた。


 力不足だった事ならいくらでも謝る、でも手抜きをした事は無いからそれは謝れない。それに大好きになったルイちゃんとは、心の繋がりのある仲間として、これからもずっと一緒にやっていくつもりだから、アイス君のところにはもう戻らない。


 そう告げるとアイス君が激昂して、結局はギルドの訓練場で決闘をする事になってしまった。



 そこで行われたのは圧倒劇だった。ルイちゃんの強さが大分おかしな事になっている。相手は勇者パーティーなんだよ?


 ルイちゃんに促されるまま、かえるの歌でアイス君達をカエルに変える事に。ルイちゃんが指でツンツングリグリしながらお説教してくれた。


 女の子二人の胸がカエル化の影響で縮んたりもぎ取れたりしないかなと、ほんのちょっぴり期待したんだけど、何事もなく復活してしまっていた。ネアさんに至ってはそもそもカエルにならなかったので、気絶していただけだから無理もないか······


 アイス君、とても不安定な感じがしたんだけど大丈夫かな。凄く心配だ。ゴライア君がなんとか立て直してくれないかな。 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る