閑話  深淵にて

 闇が覆う深淵にあるデスジード城にて、大魔王デスジードは呪いの触媒に使ったメデューサの髪の内、一本の蛇が消失したのを知覚した。



「我が呪いが解かれただと? イーリアスの母への石化の呪いか······」


 ローブより心臓の形をしたナニかを取り出すと、そこにめ込まれている宝玉の内、闇色に光る宝玉にマナを込めつつ言葉を発した。


「死霊魔王よ」



「ははっ! 死霊魔王ゴルゴンダここに」


 どこからともなく死霊魔王の声のみが聞こえてきた。


「気付いておるか?」


「······何を、でございますか?」


「愚か者め! 貴様の所で門番をさせていたイーリアスを縛っていた、母への石化の呪いが解かれたぞ。今すぐにイーリアスを確認してこい!」


「は、ははぁ! 今すぐに行ってまいります!」






「デスジード様。死霊魔王城の門前、城内と我自ら捜索いたしましたが、イーリアスは姿が確認出来ませんでした。申し訳ございませぬ」


「まぁ良い。気付かず逃げられたのは貴様の責だが、我が呪いを解かれるとは我自身も思っておらなんだ。して、この先やる事はわかっているな? なんの為に死霊魔王城にイーリアスを派遣しているのか」


「はっ! 生身の時よりも強さは落ちますが、我が力にて物言わぬむくろへと変え、絶対に裏切らぬアンデッドナイトとして使役いたしましょうぞ」


「うむ、それで良い。人間の足ではそう遠くまで逃げることはかなうまい」


「ははっ! 死霊魔王軍の総力を上げて、裏切り者のイーリアスが見付かるまでいくつでも街を飲み込みつつ、必ずや探し当てましょう。しばらくお待ちくださいませ」


「うむ、よかろう」





 

 玉座に座り、思索にふけっていた大魔王デスジードは、重大な異変を感じると、ローブより心臓の形をしたナニかを取り出した。そして信じられないものを見る事となる。


 そこにめ込まれている宝玉の内、闇色の宝玉の色が抜け落ちていたのだ。それは死霊魔王ゴルゴンダの死を意味していた。


「なん······だと!?」




 しばし唖然とした大魔王デスジードであったが、心臓の形をしたナニかの、残りの三つの宝玉にマナを込めつつ呼びかける。

 

海月かいげつ魔王、極熱ごくねつ魔王、百獣魔王よ」




「グブブ、海月魔王クラーゲンここに」


「チチチ、極熱魔王ソージーンここに」


「······百獣魔王ディラグノス」


「死天王の一角たる、死霊魔王ゴルゴンダが死んだ」


「なんと! グブブ、それでは風の大輝石クリスタルは······」


「いずれ本来の輝きを取り戻すであろう。大輝石は星を介してお互いに若干であるが繋がっている。今後は残りの大輝石が抵抗を増すやもしれぬ」


「グブブ、より一層力を入れて搾り取らねばなりませぬな」


「チチチ、それにしても死天王の一角でありながら討たれるとは、ゴルゴンダは情けないやつよ」


「グブブ、奴は死天王最弱。仕方あるまいて」


「······この俺をお前らと同列に語るな」


「チチチ、百獣魔王、何たる言い草か」


「グブブ、まあ落ち着け、ソージーン。死天王最強はディラグノス殿だ仕方あるまいて」


「今はまだ死霊魔王を討ち取った者が何者かもわかってはおらぬ。だがそれなりの実力者である事は間違いがなかろう。死天王よ、これ以上我を失望させるなよ」


「「はは!」」


「······」


「ディラグノスよ、貴様は本腰を入れて大輝石からの力の抽出を進めるのだ」


「······善処しよう」


 大魔王デスジードが宝玉に流していたマナを解除すると、再び玉座の間は静まり返った。




 しばしの黙考をへて目を開けた大魔王デスジードは背後へと呼びかける。


「聞いていたなミスドジード。魔軍司令として貴様はどう考える?」


 フッと背後の空間が揺らめき、そこから怪しげな声が聞こえてくる。


「死霊魔王の件は早急に調査致します。おそらくですが位置的に死霊魔王を討ったのは勇者ではないでしょう」


「そうであろうな。死霊魔王が死んだという事は、例の計画は頓挫したわけだが、他に何か妙案はあるか?」


 そう尋ねられた魔軍司令ミスドジードは、どこからともなく鉄でできたある物を取り出すと、大魔王デスジードへと渡す。それだけで察した大魔王は納得の表情で頷いた。


「そうか、これを使って······第二案というわけか。さすがだなミスドジード、当初の計画よりもむしろ効果的ではないか。ファファファ!」


「お褒めにあずかり光栄にございます」


「ジョアーク帝国の方は如何しておる?」


「はっ。ジョアーク帝国の進捗は······」



 世界中を深淵の底に沈めるべく、恐ろしい計画は粛々と続いていく······





 

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