閑話 とある吟遊詩人の奮闘記
聖暦1994年1月1日
幼馴染のアイス君が今日、15歳の誕生日に突如『勇者』のジョブに目覚めた。
日々、強大になっていっているという魔王軍から、人種族を守る為に光の神ライート様が授けてくださったのだろうか?
後世に語り継ぐべきサーガとなるかもしれないこの貴重な経験を私が吟遊詩人としてできるだけ記録しておこう。
将来この記録をまとめあげて、平和になった世界を旅しながら唄ってまわりたい。
1月2日
いつも一緒の三人組、勇者のアイス君、ナイトのゴライア君と私で早速、近くに出没する野良モンスターを退治してまわった。二人共凄く強い。ジョブの恩恵は凄まじい。
・
・
・
1月8日
村長である私の父のもとへ、王様からアイス君への召集令状が届いた。なんでも国を挙げて盛大に勇者選別の儀を執り行うらしい。
私はこれ以上は足手まといだと思い、アイス君と、ゴライア君をビーギン村に残って見送ろうとしたが、アイス君にどうしても一緒についてきて欲しいと頼まれたので一緒に行くことにした。
ふふっ、ジョブが凄くなっても中身は泣き虫のアイス君のままなのかな。手のかかる弟分だ。もう少しだけ近くで見守っていたいと思い、ついて行くことにした。
・
・
・
1月13日
王城で『選別の儀』が執り行われ、勇者としてアイス君が華々しくデビューした。白魔道士のネアさん、黒魔道士のローザさんが魔王打倒の旅に同行することになった。
二人共素晴らしく美しい女性で、胸の大きさが一際目立っている。ネアさんなんか着ている服がとんがってしまっている程だ。とても同じ人間とは思えない。
正直言って羨ましく思う。私にも分けて欲しい。
1月14日
装備一式を国から与えられたアイス君は、まずは国内のモンスターを討伐しつつ、北のヴィクトリア聖国を目指すことになった。国同士の取り決めでそう決まっているらしい。
長い長い旅へと出発し、モンスターとの戦闘になったが、ネアさんとローザさんは国に斡旋されるだけあって、とても優秀だ。私とは違い、とても頼りになる。
・
・
・
1月18日
サーンヒ村がモンスターの襲撃をうけている所に遭遇した。私も皆も力の限り奮闘したが、守りきれず、村人に死者がでてしまった。
アイス君の落ち込み方がひどい。私も心が苦しいがどうしようも無かったと思うしかない。
何と言って慰めようかと悩んでいたら、ネアさんがはちきれんばかりの胸にアイス君の顔を埋めさせ、慰め始めてくれた。
その後二人きりで部屋に閉じこもってしまった後、アイス君はなんとか復活したようだ。
・
・
・
1月30日
あの日から毎晩アイス君はネアさんと一緒に寝ている。昨日からはローザさんも一緒だ。アイス君は段々と人格が変わっていっているのでは? と思う程言動が変化してきた。姉貴分として心配になってきてしまう。
右隣にアイス君達が寝ている部屋があり、ギシギシとベッドが軋む音と艶のある声が漏れ聞こえてくる。
左隣にはゴライア君が寝ている部屋があり、ギシギシと床が軋む音とフンフンと荒い息が漏れ聞こえてくる。筋トレはもう少し静かにして欲しい。
間に挟まれた私は、なかなか安眠ができない。
・
・
・
○月✕日
最近、皆のわたしに対するあたりが強い気がする。
ローザさんなんか「勇者様に色目を使うな、このぺったん
私にはアイス君の事は弟としか思えず、恋愛感情なんかないというのに。
······もぎ取ってやりたい。
○月△日
遂にアイス君のパーティーを追放されてしまった。
こうなる前に、自ら出て行くべきだったのだろう。
でも、日々変わっていくアイス君の事が心配で離れられなかった。
だけど、ここで奇跡が起こった。
男みたいな喋り方をする、目がさめるような美少女のルイちゃんが、こんな役立たずの私を必要だと言ってくれたのだ。
危なかった。ルイちゃんが女の子で良かった。
もしルイちゃんが男だったら、どんなに悪人だったとしても、私を救ってくれた白馬に乗った王子様と勘違いして、惚れてしまっていただろう。
もちろんルイちゃんは、悪人なんかじゃなかった。それどころか、スラムの困っている人達を見過ごせない聖人のような人だった。
しかも、ただ甘やかすだけではなく、元気な人にはきちんと働いて真っ当に生きろと諭す、厳しくもあたたかい心の持ち主だった。
ルイちゃん! なんていい子なの!
人として尊敬できる素晴らしい人と巡り合わせてくれた、光の神・ライート神様に感謝を。
○月□日
ルイちゃんが手に入れていた『かえるのうた』というアイテムを使用して覚えることができた、スキル『かえるの歌』はとんでもなかった。
信じられないことに、凶悪なモンスターが次々とカエルに変化していったのだ!
おかげでレベルがたった1日で、物凄く上がった。ルイちゃんのシゴキが激しくてクタクタになったけど、役立たずだと罵られてきた、こんな私が戦闘で貢献できるなんてとても嬉しい。
そしてルイちゃんが秘密を語ってくれた。私の事を信頼してくれているのだろう。屈託のないルイちゃんの笑顔がまぶしい。思わずキュンとしてしまう。
なんとルイちゃんは『ノジャロ〜リ神』という女神様の
ルイちゃんの中身は三十歳の男だと告白してきてくれたけど、これについては言っていることがいまいちピンとこない。昨日ルイちゃんの裸もみたけど、けっこう大きな胸だったし、お尻周りもキュッとして可愛かったのを覚えている。
女の子で良いんじゃないのかな??
更に『ばすとあっぷ体操』なる胸が大きくなる運動も教えてくれたし、揉めば大きくなるという神の手まで所有していた。ルイちゃんこそが私の神なのかもしれない。
いや、私の信仰はライート神様のものです。危ない危ない。
○月◇日
ナイヤチ村でルイちゃんが平気な顔をして泥棒しているのを目撃してしまった。
わ、私の天使が
でもその後に、ちゃんとお爺さんに謝ったら、喜んで譲ってもらっていたから、セーフだったのかしら?
まさか悪名高い盗賊団を、ルイちゃんと私の二人きりで全員捕まえる事が出来るとは。私は物陰に隠れながらの戦闘だったけど、ルイちゃんは常に矢面に立って戦っていた。勇気の塊のような人だ。
○月♡日
チョコザかわいい!
チョコザかわいい♪
チョコザかわいい♡
○月☆日
ジャイアントタートル討伐は凄かった。
私とチョコ、ザックがサポートしていたとはいえ、あの巨大ガメを、ルイちゃんはたった一人でほぼ丸一日相手し続け、遂に倒してしまった。
まるで神話の一ページのような1日だった。この光景は、詩にして語り継がなければ。名曲の予感がする。
倒した後に皆で抱き合って喜べたのも凄く嬉しかった。ああ、私達は仲間なんだと、実感できた瞬間だった。
『護る!の腕輪』というアクセサリーが、私の最強の装備になるらしいんだけど······「エリーの最強装備、それは俺!」だなんて事を言われてしまった。
私がルイちゃんを装備······なんとなく破廉恥な響きがしたのは私だけなんだろうな。ルイちゃんは凄くいい笑顔をしていたし。
それに·······私の村では、腕輪をプレゼントするという行為がプロポーズ、その相手に腕輪をはめてあげるということがプロポーズを受けるというサインになるんだけど······ルイちゃんは知らないんだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます