第12話 チョコザ

 もらうものはもらったし、こんな所にいつまでも居られない。そう思った俺とエリーは、そそくさと冒険者ギルドを出た。必要な買い物を済ませ、ホウツイの街から去る。


「これから何処をめざすんですか?」


「もうこの辺りではレベルも上げづらいし、エリーの装備も、もっと良い物にしたい。セイダードの街をめざして、途中で必要な所に寄り道しつつ、北東へ進もう」


「セイダード? ヴィクトリア聖国の首都の?」


「そうそう、その通り。ここからだと、歩きだと相当かかるから乗り物に乗っていこう。まずは運賃代わりに、奴らの好物を採集しながらだね」


 北西へと伸びる川に沿ってしばらく歩くと、黒くて丸い実があたり一面の低木に群生している場所に出た。


「あ、これだな。このチヨコの実を出来るだけ多く採集していくんだ。エリーも頑張ってね。少しぐらいならエリーも食べていいよ」


 人体にも無害だ。それどころかHPが1回復する。


「じゃあ1つだけ······ん〜! ほろ苦いのに甘くて美味しいですぅ! こんなに美味しい木の実は初めて食べました! 中の種の部分もカリカリしてて、いい感じですね!」


 夢中で食べ始めたエリーを横目に俺も一粒食べてみる。おっ! 美味いな! 前世のチョコレート菓子を彷彿ほうふつとさせる味だ!


 結局、二人揃って満足するまで夢中で食べてしまった。その後はひたすら真面目に採集だ。どうかな? これだけあればなついてくれるかな。


 採集を終えた後はひたすら川沿いに歩いて行く。




 しばらくすると、日が暮れ始めたので早めに野営をすることにした。今日は二人きりなので、俺が先に2時間ほど寝る。交代した後の残りは、体力おばけの俺が夜通し見張り番をする事にした。


 日の出と共にエリーが起きてきたので、顔を洗った後は大自然に抱かれながら、朝の儀式の時間だ。今日も絶好調だね。


 昨日食べたチヨコの実のせいなのか、お腹が全くすかない。まさかこの世界の仙○じゃなかろうな? 

 

 ここからは川を背にして西の森へと入っていく。半日ほど歩くと急に身体が奇妙な感覚に包まれた。どうしてもこのまま進みたくない気分になってきた。まさかこれは奴らの魔法か?


 嫌がる身体を必死に前へ前へと動かしていくと、急に頭と身体の霧が晴れたかのようにスッキリとした。

 

 目の前には森の中に少しだけ拓けた広場があり、目的の生き物が悠々と歩いていた。


 

 『チョコザ』み〜っけ!!


 

『チョコザ』


 シリーズを通じて出てくる騎乗用の鳥。もう皆さんおなじみのマスコットキャラだ。「ぷぇ〜」という鳴き声が愛らしい。


 見た目は、首を短くした、ダチョウを百倍位可愛くしたような鳥だ。太く立派な足以外はクリーム色のふさふさの羽毛に覆われている。走るスピードは馬の3倍で、スタミナは無尽蔵かと思える程。賢く、タフで長距離移動に向いている。


 ここは野生のチョコザの住処となっているチョコザの森だ。手をCの形にして挨拶を交わすと、チョコザに気に入られれば背中に乗せてくれる。


 気に入ってもらえるようにチヨコの実をたくさんあげてから、ご挨拶。


 おっ! 俺の方は成功したぞ! 頭をすり付けてきてくれた。懐いてくれたお礼にもう一度チヨコの実をあげるとしよう。


 エリーの方はどうかと見てみれば、あちらも成功だ。パワーがあるので2人乗りも可能だが、2頭懐いてくれるなら、その方が良い。いざという時頼りになるからな。


 乗り心地がよく、騎乗者の事を考えて走ってくれるので、初心者でも簡単に乗りこなすことができる。更に、騎乗スキルが上がれば、チョコザの本気走りが可能となる。


 チョコザとたわむれているエリー。絵になるな。実にかわいい。


「野生のチョコザって初めて見ました。かわいいのに力強いですね!」


「なんでも、野生のチョコザの方が体力があるらしいよ。二人共成功したみたいだね、良かった」


「ねぇ、名前! 名前を付けてあげましょう!」

 

「良いね! 名前の一つはもう決めてあるんだ! チョコザのザコ!」


「······却下です。絶対駄目です。可愛さのカケラもなければ、弱そう······」


 な、なんだとぉ!?


 この名付け法は伝統的ルールにもとづいて提案しているんだぞ!?


 主人公の相棒チョコザといえば、チョコ○の○コ!


 俺にも譲れないものが有るというのに、エリーのやつ可哀想な人を見る目で、憐れみの表情だ。


 ぐぬぬっ!


 そんなに駄目なのか!?


 どうする??


 このままだとパーティーリーダーとしての、俺のプライドがズタボロだ。


 チョコザは『ぷぇ〜』と鳴くからなぁ。

 

 ザップ!

 ザップならいいんじゃないか??


 もう一頭はチョコ!


 チョコとザップか。

 あ、コレはアカンやつやな。

 どこかから怒られてしまいそう。 


 うーん、名付け難しいな。

 あっ!

 そうだ!


 ザック!

 たまに『くえ〜』って鳴くからな。


「チョコとザックでどう?」


「チョコは可愛いからオッケーです。ザック······うん、ザックも中々かっこいいですね。それなら良いんじゃないんですか? ルイちゃんはどうしてもそういう名付け方にこだわりがあるんですね?」


 なんとなくディスられているような気がする。······『ザコ』にはこだわりがあったけど、他のはただ思いつかなかっただけなんだけどな。


 いっそエリーが名付けてくれればいいのに······


 こうして俺達の旅に新たな仲間が加わった。

 


 

  

 

 

 

 

  


 

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