第33話 溢れる母性
新たに仲間になったイーリアスが俺達に問いかけてきた。
「このまま大扉を越えて突入する気か?」
「いや、イーリアスのお母さんがいるし、一旦前線基地の街、ゴジョオンまで引き返そう」
俺がそう答えると、イーリアスが頷いた。
「そうしてもらえると助かる。母上がまた襲われると困るからな」
「どうやら、あなた方にも助けていただいたみたいですね。イーリアスの母のカサンドラといいます。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします」
イーリアスのお母さんが挨拶してきた。
「ルイです。パーティーリーダーをつとめています。よろしくお願いします。」
「エリーです。よろしくお願いします」
「「ぷぇ〜!!」」
「チョコザのチョコとザックです。よしそれじゃあチョコにエリーとイーリアス、ザックに俺とカサンドラさんを乗せてもらって、はやいところこの場を離れよう」
皆がチョコザに乗り込み、ロングブリッジを引き返す。二人乗りでもチョコザのパワーからすればなんの問題もなく走れている。
ロングブリッジをチョコザが駆ける!
ダダッダ、ダダッダ、ダダダダダダダダ!
前線基地の街ゴジョオンに到着した俺達は、街一番の高級宿屋でゆっくりと休むことにした。ここを選んだ理由は、お風呂だ。カチカチに固まった身体をお風呂でじっくりとほぐしてほしい。十年以上石化していたカサンドラへの俺からのプレゼントだ。
まずは皆で、宿の部屋で食事をした。他人に聞かれたくない話もあるので、宿のサービスで部屋に料理を運んでもらっている。
今日の料理は豆と鶏肉を煮込んだスープと採れたてサラダ、牛肉と豚肉の各種部位を使った串焼きに、海で捕れた魚のカルパッチョとバター炒めだ。特にカルパッチョが魚の旨味を引き出してあって最高に美味い。
交流を円滑にする為に、お酒も飲んでいる。騒がしいので、例のあの
「ルイ、エリー改めて感謝する。私の長年の目的だった母上の魔王の呪いが解けたのは『破邪の剣』を手に入れていた二人のおかげだ」
イーリアスがそう感謝の言葉を口にしながらぺこりと頭を下げてくる。鬼面越しの声はくぐもった渋めの声だったが、鬼面を外すと以外にも高い声だった。カサンドラも同時に頭を下げている。
「二人共、頭を上げてよ。卑劣な魔王の呪いを解くことは俺にとっても、やらなければいけなかった事だからお礼はもう良いよ。今はもう仲間なんだからさ」
俺がそう言うと二人は頭を上げる。イーリアスは今は兜も鬼面も外しており、青みの強い紫の長髪と、褐色の肌に、ほんの少し先の尖った耳、意思の強さを感じさせるキリッとした目がよく見えている。物凄い美形だ。
母親のカサンドラは赤い髪をしており、こちらは凄く柔和な表情をしている。二人は表情は違うが、顔の一つ一つのパーツはよく似ている。こうして見比べると、親子というより、ちょっと年の離れた兄弟姉妹のようにも見える。
俺の隣でエリーが、「やっぱり」とか「そうだと思った」とか小声で呟いていた。
なんの話だ?
「ところで二人はいくつなの? 俺タメ口だったけど平気?」
「私は23歳だ。元々は敵同士で剣を交えた仲だ。今は仲間なのだし、どのみち問題ない」
とイーリアスが言い、
「私は30歳ですね。年齢など些細な事なので、恩人の皆さんなら問題ありませんよ」
カサンドラもそう答えた。
へー、23と30なんだ。
え!?
7歳で子供を産んだの!?
あ、そんな事ないか、石化していた間はカサンドラの中では時が流れていないのか。何にせよ二人が問題ないならこのままの喋り方でいこう。元三十代の意識が残ってるから、今の俺の年齢は15歳でも、なんとなくイーリアスが年下に感じちゃうんだよな。
「ところで、私の目的が『破邪の剣』にあるということがよくわかったな。他人に
あー、そうだよね。怪しい事この上ないよね。
信じてもらえるかはわからないが、TS転生の話をしておくか。·······イーリアスが自爆する話は伏せておこう。
「話せば長くなるんだけど、かくかくしかじかで······幼女の見た目をした自称神様に、若い女の子の身体にいたずら心で変えられてしまったんだ」
「そして色々なジョブを経験して魔王を倒すという体験を空想の世界で何度も繰り返したんだよ。自称女神様の力でね。だから俺は、この世界のモンスターや、ダンジョン、ジョブやスキル、アイテムやステータスの事、それにイベントの事をけっこう知っているんだ」
「その関係で、魔王軍に協力したらお母さんの呪いを解いてやるっていう条件のもとで魔王軍の門番みたいな事をしていた事も知っていたんだよ。そして、空想の世界でもイーリアスを仲間にして共に魔王と闘ったことがあるんだ」
これ以上は説明できないから、これで信じてもらうしかないな。
「······信じがたい話だが、破邪の剣の事を考えると、信じるしかないのか······」
イーリアスが驚きながらも信じようとしてくれている。
カサンドラが、ガタッと席を立ち俺の方に回り込むと、ぎゅむっと俺の事を、抱きしめてくれた。
「この広い世界に親もなく突然放り出されるなんてかわいそうに······」
むっ、胸が! カサンドラの溢れる母性が大きすぎて息ができない!
「私がこの世界でのルイさんのお母さんがわりになってあげますね」
「ふがふが」
「大丈夫ですよ、安心して下さい」
「ふがふが」
「あら、そんなに震えるほど喜んでくれるの?」
「ふがふが」
「母上、ルイが窒息しそうです」
「ふがふが」
「あら、ごめんなさい」
し、死ぬかと思った······
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