第95話 ぬすむ

 ミイナミーニャの運がカンスト超え!?


 これってまさかのファンサ5初代版での運ステータスのバグ技か!?

 

 それともリマスター版で運バグは修正された代わりに追加されたという、リアルラックが必要な数万プレイヤーに一人という確率で当たる、運の限界突破キャラか!?


「ミイナ、ミイナっていう名前なのはわかったけど、愛称としてミーニャって呼んでも良い?」


「良いですにゃ。愛称をつけてもらえるなんて嬉しいですにゃ」


「ありがとう。ミーニャのステータスを見せてもらったら運が101になっているんだけど、これって何か特別な事をしたの?」


 もしバグ技が使えるなら、俺達パーティー皆の運も限界突破して上げておきたい。

 

盗賊シーフの師匠に、シーフはレベルが上がった時に、フリーのステータスポイントは運に全振りすべし、っていう教えを受けて実践してるだけですにゃ。運の種も使ってあげているにゃよ」


「つまり特別な事はしてないって事だね?」


「そうですにゃ」


 なるほど、つまりバグではなくリアルラックの限界突破キャラか。しかも盗賊シーフ。これは是非とも……


「ミーニャちょっと待ってて」


 俺はミーニャにそう言うと、パーティーメンバーを集めてひそひそ話を始めた。


「ミーニャを是非とも仲間に加えたいんだけど、皆はどう思う?」


「ルイちゃんがそう思うならミーニャちゃんなら私は良いと思うよ。なんとなく私が追放されて辛かった時の事を思い出しちゃったしね」


「わたしは、白猫さんとお友だちになりたいな」


「私も仲間にしても構わんが、本人の話だけで素性がわからないのがな……悪どい奴で無いというのがわかれば仲間に加えても良いんじゃないか?」


 悪者じゃないかどうかか。

 ん!? うってつけのスキルがあったな!

 

 よし!

 ミーニャを勧誘しよう! 


「ミーニャ、実は俺達は世界が壊れるのを防ぐために、大輝石に導かれて魔王軍と戦っている。もし良かったら俺達の仲間になって共に戦ってくれないか? 気付いていないかもしれないけど、ミーニャの素質は数万人に一人の素晴らしいものなんだ!」


「え……と、突然そんな事を言われても困るにゃ」


「白猫族の所に戻りたかったら、無理にとは言わないが、是非ともミーニャの力を貸して欲しい。大魔王を倒すためにはミーニャの力が必要なんだ!」


「……白猫族の所にはもう戻りたくないですにゃ。もうあそこはうんざりですにゃ……わかりましたにゃ! 元々宝箱の中で死んだと思ったあちしの命! 世界の為に使ってやろーじゃにゃいですか! 力が必要だと言ってくれるボスと皆さんの為にやってやりますにゃ!」


「おお! ありがとうミーニャ! 仲間になってくれて嬉しいよ!」


「実はさっきのボス達の会話は全部聞こえてましたにゃ。誰もあちしを仲間にするのを嫌がらなかったのは、嬉しかったですにゃ! 猫獣人の耳を舐めないほうが良いですにゃよ」

 

「聞こえていたのか、それは迂闊うかつだったな……聞こえていたのなら、ミーニャは、その〜、悪事を働いたことはある? 具体的には自分から楽しんで人を殺した事があるとか?」


「そんな事するわけないですにゃ! 悪事なんかするわけ……」

 

 はっ! としたミーニャが自分の指と指をツンツンして、もじもじしながら続きを話す。

 

「正直に言うと、子供の頃に食うに困って食べ物を盗んだ事はありますにゃ……」


「あ、それくらいだったら大丈夫だよ! タブン」


「ぼそっと言った最後の『タブン』が怖いにゃ!」


「こっちから仲間になってって言っといて、試すような事をするのもなんだけど、今からミーニャにトンと軽く触れるよ。もしミーニャの言ったことが嘘で極悪人だった場合は、相応の報いを受けるかもしれない。心の準備はいい?」


「あ、あちしは、ご、極悪人ではないから、いつでもいいですにゃ!」


「ホークト流残悔独歩拳ざんかいどくほけん!」


 俺はミーニャの額へとトンと指をついた。

   

「な、······なんですにゃ!?」


 ミーニャが突然くるりと後ろを向き、俺にトンとされた額をおさえてうずくまる。


「ぎにゃ〜! 急にデコピンされた様な痛みがきたにゃ!」 

  

「あ、ごめん! そうなるんだ。ミーニャは『カルマ値』って知ってる? この世界には、ステータスには表示されていないけど、裏設定で『カルマ値』というものが有るんだ。善行を積めばプラスに、悪行を行えばマイナスに進んでいく」


 ミーニャのしっぽが持ち上がってプルプルとしている。 


「今俺が使ったスキルは、そのカルマ値に働きかけるものなんだよ。これで疑う事なくミーニャを仲間に迎えることができる。試してごめんね。俺達のパーティーにようこそ!」


 俺がミーニャの手を引いて立ち上がらせると、おでこをさすりながらミーニャが言った。


「ひどい目にあいましたにゃ! 『タブン』はやっぱり怪しかったにゃ。でも悪人では無いと証明できたのなら、もう許してあげるにゃ。皆さんよろしくですにゃ」


「「「「よろしくね、ミーニャ!」」」」


「あ、そうだ。もう仲間になったんだから敬語なんかいらないよ」


「そうかにゃ? それなら普通にしゃべるにゃ。命の恩人に気を使うのはここまでにするにゃ! ほい、これはあちしからのパーティー加入の手土産にゃ。人喰い宝箱に喰われていた時に、何とかしようとスキル『ぬすむ』を繰り返したら沢山とれたからあげるにゃ」


 ミーニャが差し出した手には『炎のリング』が四つもあった。


「ミーニャ! 凄いよこれは! カンスト超えの運の持ち主の『ぬすむ』には期待していたんだけど、早速期待していた以上の成果だ!」


「そ、そうかにゃ。そこまで褒められると照れるにゃ」


 感情に合わせてミーニャのケモミミがピコピコと、しっぽがフリフリとゆれている。……ああ、モフりたい。


「俺達は運の種だけじゃなく、運のタケノコも持っている。これを使ってミーニャの『ぬすむ』の検証をやろう!」 

 

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