第2話 脳筋への道

のデータを元にって大事なモノを失った状態じゃねえか!!」


『くっくっくっ、良い反応じゃ。それが見たかったのよ! やはりお主は面白いのぉ。この後は妾はいっさいこの世界には干渉せんからの、今度こそ達者でのぉ』


 突然頭に響いた、のじゃロリ女神の声にビクゥッっとした後で、なんとかしてもらおうと必死に何度も話しかけてみるが、なんの反応も得られなかった。


 しばらくして、ようやく自分の体を見る余裕がでてきた。趣味の筋トレで鍛え上げていた大胸筋の一部は、なんと脂肪の塊へと変化していた。しかも筋肉量に比例して変化したのか、わりと大きい。


 うーむ、我ながらけしからん胸だ。とりあえずんどくか。


 モミモミモミモミ······


 うーむ、これはこれで中々良いな。一日に一度は揉んでおきたい感触だ。


 はっ!?


 俺は草原でいったい何をやっているんだ!?

 誰かに見られたらただの変態じゃないか。


 気を取り直して全身を確かめてみる。全体的に引き締まりつつも、しなやかな、女性アスリート特有の体つきをしていた。それなのに若干ぷにっとした感触が残っているのはやはり女体だからだろう。男体とは違うな。


 服装は『ザ・ぬののふく』といったところか。ゲーム世界だとすると、服を着ているというよりは装備しているのか?


 もう一度ステータス画面を見てみる。試しに声を出さずに念じてみたら、それでもステータス画面がでてきた。


 ――――――――――――――――――――――――――――

  

名前∶ルイ=コンノー

性別∶女

年齢∶15歳

職業∶モンク 

レベル∶1


HP∶36/36

MP∶3/3

  

 力  ∶10

 体力 ∶13

 素早さ∶9

 器用 ∶5

 知性 ∶1

 精神 ∶2

 運  ∶3


物理攻撃力∶10

物理防御力∶15

魔法攻撃力∶1

魔法防御力∶2

物理回避率∶7

魔法回避率∶1

 

装備

 右手∶素手

 左手∶素手

 頭∶なし

 体∶ぬののふく=物理防御力+1

 足∶ぬののずぼん=物理防御力+1

 アクセサリー①∶なし

 アクセサリー②∶なし

 

スキル

 なし


称号

『神を笑わせし者』 


所持金∶200シグ


 ――――――――――――――――――――――――――――

  

 ん? 称号なんて『ファンサ5』には無かったけどな。のじゃロリ女神のいたずらか?? おまけに知性1なんて悪意を感じるぞ。脳筋だと決めつけてやがるな。普通は初期ステータスで1は出ないぞ。


 それにしても『女モンク』か。育成次第で最強のぶっ壊れキャラが目指せるな。


 発売当初、『モンク』は魔法攻撃や状態異常にやたら弱くて、序盤しか活躍できないハズレジョブと言われ続けていたんだよな。だけど『女モンク』は後に発見された女性専用装備のおかげで、バグだと言われるほどの防御の硬さと、強さを発揮するんだ。


 最終的には平均ダメージ1のカッチカチのタンク兼ダメージディーラーとなり、そこまで育てれば、ラスボスでさえも一人で勝ててしまう。通称『カチモン』の出来上がりだ。


 というよりもだ!

 

 絶対に男に戻ってやる!!

 

 『ファンサ5』には、ゲームをクリアしたら2周目特典としてもらえるアイテムの一つに『性転換薬』がある!


 見てろよ、のじゃロリ女神!


 お望み通り、ひたすら殴りまくるという脳筋スタイルで、ザコ刈りからラスボス戦までなんでもおまかせの脳筋道のうきんどうを今生では貫いてやるぜ!

 

 俺のゲーム知識で無双して、男に戻ってから逆に笑い返してやる!

 

 ふぅー、目標ができたことで少し心が落ち着いたな。


 ······まてよ、レベル1でぼっちだと、モンスターに出会ったら相手によっては即詰みじゃないか? とりあえず早めに安全な街を目指そう。


 もう一度周囲をよく見ると、草原の端の、見える範囲に人工物の木の柵が確認できた。よし、あそこを目指して急いで行こう。

 




 運が良い事にモンスターには一度も出会わずに目的地に着いた。この外観は第三の村『ナイヤチ』だな。ますます運が良いぞ。ここでは『カチモン』になる為の必須装備を手に入れる事ができる。


 この規模の村は門番なんかいないから、出入り自由なんだよな。ゲーム世界に転生してリアルになっている今はどうなんだろうか?


 ······普通に村の中に入れてしまった。この世界は治安が良いのかな? それともゲームとの整合性を取るための何かの力でも働いているのかな?


 まあ良いや、細かい考察は後にして、まずは死なないように強くなろう。他の事は全部スルーだ。


 ゲームどおりなら、一番北にあるログハウス風の建物に『チャモ爺さん』がいるはずだ。


 よし、着いたぞ。

 一応ドアノッカーを鳴らすか。

 カンッ!カンッ!カンッ!

 

「ごめんくださ〜い! こんにちは~! お爺さんいますか〜?」


「鍵は開いておるぞ、入って来なさい」


 いいんだね?

 こんにちは、泥棒です。

 なんちゃって。


 ドアを開けると、思ったとおり奥にひげの長いお爺さん『チャモ爺さん』が座っていた。


「こんにちは、ルイと言います。突然お邪魔してすみません。『ホウツイ』の街の方から、何かお仕事が無いかと思ってやって来ました。何でも良いのでお手伝い出来ることはありませんか?」


 ゲームでは勝手に喋ってくれるけど、ちゃんと会話するのは何がNGワードになるかわからないから地味に怖いな。猫をかぶって外での一人称は『私』にしておこう。

  

「これはこれは、こんなに可愛いらしいお嬢さんが、女の子一人でこの村まで来るとは大変じゃったな。本当に何でも良いのかの?」


「はい。何でも良いです」


「それでは、村の東と西のはずれに咲いている、赤とピンクのチャイナローズの花を摘んできてもらえんか? 婆さんのお墓参りに花を手向たむけたいのじゃが、わしは足が悪くてな、取りに行くのは大変なのじゃよ」


「わかりました! 待っていてくださいね。今すぐに行ってきます!」


 よし! おつかいクエストゲットだぜ。


 挨拶もそこそこに、俺はダッシュで東のはずれに行き赤のチャイナローズを、西のはずれに行きピンクのチャイナローズを摘んできた。そして再び『チャモ爺さん』の所に戻って来て花を手渡す。


「はい。お爺さんお花を摘んできましたよ」


「おお、ありがとう。これで婆さんのお墓がにぎわうじゃろう。婆さんもルイさんの事をきっと気に入ってくれるじゃろうて。······」

 

 ここからチャモ爺さんの怒涛どとうの婆さんラブ話が始まった。しかし話がつまらないからと言って、ゲームでは決してAボタンを連打してこの話を聞き流してはいけない。なぜなら······


「······というわけで、わしは婆さんの心を見事に射止めたのじゃ。ところでルイさんへのお礼じゃが、婆さんの形見のリボンを受け取ってくれんか?」

  

 きた! 

 ゲームだとここで通常とは違い

 

「いりません」

 ↓

「ありがとうございます」

 

 の順序で返答コマンドが並んでいる。


 うっかりAボタンを連打していると、女モンクの最強装備が二度と手に入らなくなってしまうという、極悪なトラップなのだ。


「ありがとうございます!」


 間違いなく答えて、最初の最強装備『チャイナリボン』を受け取った。


  

 

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