第7話 昨晩はお楽しみでしたね

 チュンチュン······早朝の鳥のさえずりで俺は目覚めた。


 隣には、裸のエリーが俺に腕を絡めて寝息をたてている。俺は······パンツにタンクトップ姿だな。······あれ?


 昨晩の事を慎重に思い出してみよう。


 


 まずこの世界の普通の宿屋にはお風呂がない。風呂に入れるのはお金持ちだけだ。庶民は川で水浴びか、タライに水や湯を張って体を拭うかだ。それでさえも、宿だと別料金で有料のサービスになる。俺達も有料でタライとお湯を借りて身体を清めた。


 まず先に俺が洗っていると、「私より(年齢と背が)小さいのに(胸が)大きい」とエリーがつぶやいているのが聞こえてきてしまった。すまん、元々は大胸筋なんだ。


 続いて、冒険の旅をしていて、こういう時の遠慮などないらしいエリーが裸になる。もちろん俺は紳士なので後ろを向いていたさ。だけ後ろを向くのが間に合わなかったけどな。


 ところが、エリーが体を洗い始めて暫くして無音になったかと思うと、バシャンと派手な音を立ててタライに突っ伏してしまった。どうやら疲れ果てて、そのまま寝てしまったようだ。


 慌てて起こしたが、目を覚まさないので仕方なく俺が体を拭いてあげた。見ないようにしたが、可憐な胸と、スレンダーな体の曲線が目に焼き付いてしまった。


 下着をあさる度胸はなかったので、そのままベッドにそっと置いて上がけをかけてあげた。そして俺も隣の空いているベッドに潜り込んで、疲れていたのですぐに寝てしまった。寝ている女の子にイタズラするような事はしない。俺は紳士だからな。


 


 ここまでしか記憶にございません。

  

 なぜ隣のベッドで寝ていたはずのエリーさんが、俺に絡みついているのでしょうか? ひょっとして寝てる間に俺の方がイタズラされちゃった? 腕に感じる慎ましやかな胸の柔らかさが心地良いな。などと考えていると······


「う、う〜ん」とエリーが目を覚ました。


「おはようエリー」


「あ、ルイちゃん、おはよう!」


「エリーはなんで俺達が一緒に寝てるかわかる?」


「え······!? わからないけど心当たりなら有ります。その······私は寝相が悪くって、よくベッドから落っこちるんです。それでその、這い上がるベッドを間違えてしまったのかと。······すみません」


「謝らなくてもいいけど、取り敢えず服を着よっか」


 飛び起きて上がけを裸体に巻き付けている姿がなんともエロい。男のままだったらきっと我慢なんかできないな。「なんで裸なんだろう」などとつぶやきつつ服を着ているが、教えてあげたほうが良いのだろうか?


 服を着るエリーをまじまじと見るようなことはしない。ちゃんと顔を背ける。なんせ俺は紳士だからな。こういう時は、鏡越しに見るのだ······ってこの部屋には鏡なんか無かった。


 このままだと毎回朝チュン展開でドギマギしちゃうな。うーん、俺最大の秘密である女体化でのゲーム転生を教えておいたほうが良いのだろうか。中身が30歳のおじさんだと知っていたら、一緒の部屋で寝るなんて言わないんじゃないのか?


 ゲーム転生は伏せたほうが良いだろうか? 物語なんかの最悪の展開だと、自分が物語の登場人物に過ぎないなんて伝えられたら、ショックのあまり心が壊れる、なんていうこともあるかもしれないしな。


 決心した俺は、服を着終わったエリーに真実にちょっとだけ嘘を混ぜて告げる。


「エリー、今から信じられないような事を話すけど、真面目な話だから聞いてくれるか? 実は俺には誰にも話したことがない秘密があるんだ。······実は俺······男なんだ」


「え? そんなわけないじゃないですか。私、昨日ちゃんと見ましたよ。ルイちゃんは女の子です」


 そうだね、特に胸をガン見してたよね。


「身体は十五歳の女の子なんだけど、心は、というか中身は三十歳のおっさん何だよ。信じられないだろうけど信じて欲しい」


「えーっと、冗談を言って笑わせようとしてる······とかじゃなさそうですね。ちょっと信じられませんけど······」 


「まあ、そうだよね。話せば長くなるんだけど、かくかくしかじかで······幼女の見た目をした自称神様に、若い女の子の身体にいたずら心で変えられてしまったんだ」


「······」

 

「そして色々なジョブを経験して魔王を倒すという経験を空想の世界で何度も繰り返したんだよ。自称女神様の力でね。だから俺は、この世界のモンスターや、ダンジョン、ジョブやスキル、アイテムやステータスの事、それにイベントの事をけっこう知っているんだ」


「······」

 

「魔王を倒せば男に戻れる薬が手に入るはずなんだ。だから俺は魔王を倒してから男に戻って、自称神様にザマァみろって言ってやりたいんだよ」

 

「それが本当なら······ルイちゃんはこの世界に遣わされた神の使徒様って事なんじゃ······」


「えー!?」


 どうしてそうなる!?

 ゲームのやり込みを女神様の力でって嘘をついたからかな!? 斜め上の返答がきてしまった! 思ってたんと違う! 


「いやいや、そんなんじゃないって! 絶対違う! だってあののじゃロリ女神は、俺が苦労したり失敗するところを笑いたいから、転生させたって言ってたんだから!」


「そうなのでしょうか?」


「そうそう。だから絶対に使徒様なんて呼ばないで! 俺のステータスの称号欄見てみる? 『神を笑わせし者』って書いてあるから!」


 そう言って俺のステータス画面の称号欄をエリーに見てもらうと「すみません、称号だけなんて書いてあるのか読めません。他のは読めるのですが······」と言われてしまった。エリーには文字化けして見えるらしい。ますます疑いの眼差しが強くなってしまった。


「この世界には神様って本当にいるのかな? エリーは神様を信じている?」


「神様に出会ったことはありませんが、この大陸ではほとんどの人が、光の神様を信仰していますよ。私も信仰しています。性別は伝わっていませんね」


「俺が元いた世界ではたくさんの神様が信仰されていたけど、本当に出会った人はいないんじゃないかな。俺が出会った神様が、元の世界の神様かそうじゃないかもわからないんだよね。自称神様なだけで、別のナニカかもしれないし」

 

「そうでしたか」


「まあ、そういうわけで、神様の話はおいといて、俺の中身は男だって事は信じて欲しいな。身体はこの通り女の子なんだけどね」


 と言いつつ、朝の儀式であるモミモミを一度やっておく。


「だから、まあ、その······ね、エリーの裸なんか見てしまったらドキドキしちゃってしょうがないから、これからは部屋を分けようよ」


「······イヤです」


 ええっ〜!


 なぜだ!  


 


 




 

 


 

 


 


 

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